三井のカーシェアズにジープのレネゲードが追加された。
レンタカー・カーシェアではあるが、深夜の東京で試し乗りをしてきたので感想を書き残していく。
冒頭のまとめ
乗用車として意外なほど高性能に仕上げられていて驚いた。
非日常感を感じるワイルドな内外装は運転を楽しくしてくれるし、フィアット譲りの直4エンジンは元気の良い音とちょっと怖いくらいの加速力でスポーツカー顔負けの走りを魅せる。
しかしトランスミッションの制御や乗り心地の詰めなどに甘い点も目立つ。
特に坂道発進の制御が致命的で、ブレーキを離しただけでは半クラッチすら行ってくれない。
急勾配では後続車との衝突を本気で心配しなくてはいけない。
ジープのキャラクターで許されている要素は多いため、ここをどう捉えるかによって評価が変わるだろう。
外観・デザイン
四角いヘッドライトの間に縦長のミニグリルを並べたジープらしいデザイン。
横幅は1805mmと大きくないが、オフロードマシンっぽさが押し出されている良いデザインだ。
LEDのデイライトや丸められた角っこで近代感や親しみやすさ演出。
箱型で昔ながらのワイルドだが、優しさと近未来感も残る。
相反する要素を器用に同居させた良いデザインだと思う。
全長を抑えた弊害で押しつぶされたようなリアエンドとなっている。
歪に見える気がしないでもないが、コンパクトなサイズ感にドッシリとした存在感が持たせているとも言える。
サイズ的には大きくないが、大きくワイルドに見せたいセグメント。各社の取り組みを推察するのも面白い。
ジープお得意のXシェイプのテールランプ。
内部で立体的に光るため非常に美しい。
内装
価格帯と相まって樹脂まみれのチープな雰囲気こそ否めないが、ジープらしい遊び心のある車内空間だ。
この時代にジープを欲しいと思う客層に対して明確に突き刺さるように設計されている。
中央部が盛り上がった、経常的にもゴテゴテした珍しい内装。
助手席前方のグラブハンドルにタフさを感じる。
見るからに古くて使い勝手の悪そうなナビだが、カーナビやAppleCarPlayなどのスマホ連携、オーディオや車両システムとの連携など、実はそこそこ充実している。
バランスフェーダー・イコライザなども存在。
バックカメラの質はあまりよくない。
シートヒーターや空調類のコントロールができる。
空調やオーディオなどの操作は物理スイッチとして存在している。
直感的に使えて便利。
このシフトは最悪だ。
バックギアに入れようとしても、必ず行き過ぎてPに入る。
私が最も嫌いなタイプのストレート式である。
マニュアルモードが装備されているのと、Gに逆らわない向きでシフトアップ・シフトダウンが配置されているのがその気にさせる。
電動パーキングブレーキだがブレーキホールドは装備されない。
ライトの操作ダイヤル1つとってもカッコいい。
随所から伝わってくるこのワイルド感・タフさこそがジープの魅力である。
安っぽさや造りの粗悪さと紙一重なんだけど…
メーター内では油温や4WDシステムモニタなどが表示できる。意外と多機能だと感じた。
追従式のクルコンも装備されているため、渋滞中でもラクができるだろう。
ちなみにこのメーター、1つ欠陥が隠れている。
文字通り隠れている要素があるぞ。探してみてくれ。
かなり上から覗き込まないとガソリン残量と水温の確認ができないのだ。
この設計にはさすがに笑ってしまった。
シートを上げたところで見えるような配置ではない。
二列目の居住性について
見るからに狭そうな二列目だが、座ってみるとそんなに問題は感じなかった。
このサイズ感のクルマでは非常によくあることだが、ドアの前後方向への開口部が狭いので乗り降りが少しやりづらい。
もう一つの問題がドアの分厚さである。
コンパクトに押しつぶされているように見える二列目だが、ドアの横幅が思っている以上にあるため先端が見えづらい。適当に開けると隣にブチ当たりそうだ。
さっき言った前後方向への狭さをドアを開けることで補いたくなるためリスクが増している。
私がこのクルマの二列目に客人を載せるときは、チャイルドロックをオンにして外から自分で開けるだろう。
試乗車のスペック・価格
新車価格435万円のリミテッドだ。
2024年9月に初年度登録された。
以下、公式サイトの諸元表を貼り付けている。見るべきは左端のLimitedである。
トランスミッションがDCTであること、フィアット500Xと同じ1.3リッターの151馬力もの直4ターボエンジンを搭載していることの2点に留意。
https://dl.stellantisjapan.jp/data/jeep/spec/renegade.pdf
実走行インプレッション
取り回し
デカすぎない箱型ボディーのおかげで運転性は良好。
特筆するような事項はない。
坂道発進の欠陥で事故らないように注意するべきだが。
パワートレイン
フィアット500Xに載っているものと同じ直4ターボを搭載している。
ちょっと怖く感じるくらい元気の良い加速とイタリアンテイストの美しくも獰猛なエンジン音が楽しめる。
この刺激的なエンジンは、もはやオフロードカーというよりスポーツカーだ。
しかし市街地での運転フィーリングはあまりよろしくない。
踏んで行っても低回転域から全然スピードが乗っていってくれず、円滑に交通の流れに乗るのは難しい。
エンジンの1000回転台の低速トルクが少々弱いという要素はあるだろうが、どちらかといえばトランスミッションの制御の問題だろう。
ギア選びが適切でないため、噛み合いの悪さを感じながら走ることになる。
アクセルを踏み増してもシフトダウンが行われないため、エンジンが持つ本来の加速力が活かされていないのがもどかしい。
せめてパワーモードでも実装してくれればもう少しテンポよく走れたのに…
ブレーキについても不満は多い。
まず制動力の微調整がやりづらい。
じわじわと踏み増していっても突然ガツンと来てしまう。
またブレーキペダルの取り付け角度もよろしくなく、足首が疲れる。
せっかく電動パーキングブレーキを装備しているのに、ブレーキホールドも坂道発進アシストもついていない点も不満。
坂道発進について
このクルマのトランスミッション、坂道発進が安定しないという欠陥仕様だ。
そもそもこのDCT、ブレーキペダルを離しきっても半クラッチを始めてくれない印象がある。
上り坂でDに入れてブレーキを離すとクルマが一瞬だけ後退する。
自動車学校の試験ならMTでも一発アウトになるくらいガツンと下がる。
それくらい後退した後に一呼吸おいてから、じわーっと半クラッチがつながってクルマが動き出す。
ブレーキを離しても前に進まないので、突然この挙動に遭遇したら乗り手はパニックになりかねない。
緩い勾配なら特に問題ないが、1速で下るような急な上り坂では後続車に接触しそうなレベルでズドンと下がる。
2020年代のATだとは到底思えないような稚拙な制御であり、サイドブレーキで補助したり左足でブレーキを踏みながらアクセルを煽ったり、運転手がしっかり補わないといけない。
これならむしろ、マニュアルトランスミッションで運転させてくれた方が安心感がある。
というか「マニュアルトランスミッションを2ペダルで運転できるようにした試作車両」といったレベルである。
いま2025年なんですけど…
ちなみに2014~2015年に発売されたクルマである。
乗り心地
オフロードカーらしい元気の良い乗り味だと言えば聞こえはいいが、乗用車として考えると辛い点はある。
常に上下にビリビリと動き続ける印象があり、ボディ剛性もやや不足気味。
オフロードメーカーらしいアドベンチャー感があるといえば聞こえはいいんだろうけど…
しかしダンパーのストロークのさせ方やバンプラバーへの当て方自体は上手い。
適切にアシを動かしながら揺れを吸収してバンプラバーも活かしている。
C1内回りの旋回中に二回ジャンプする左コーナリングも、ダンパーのストロークでしっかりといなしてくれた。
段差の突き上げに対するダンパーの縮み側の動きはいいのだが、他の甘さで乗り心地の総合点は控えめなものとなっている。
私は乗ってみて「乗り心地が悪かった」「不快であった」などとは感じなかった。
レネゲードに惹かれた人が購入を見送るレベルで悪い乗り心地ではないぞ。
ハンドリング
フロントのアウト側のタイヤを捻じ曲げるように安定方向で押し潰してから、落ち着きかせつつもしっかりとフロントを動かして曲げていく。
終始安定した姿勢で動いており、急ハンドルを切ったり強い横Gを与えても危険な動きはない。
ステアリングレシオも適切でロール収束も早く、走行ペースを上げて行っても全く問題ない。
旋回中に段差をガタンと超えても、足のストロークで上手いこといなしている。
車体が揺さぶられないため路面への追従性は高いのだろう。
ジープのイメージゆえあまり期待していなかっただけに、オンロード性能の高さに驚かされた。