運よく現行型(G20)のBMWの3シリーズのセダンのレンタカーを確保することが出来たため、24時間借りてしっかりと味わっていく。
数日前に1世代前のF30型に乗ったばかり。違いを確認するのが楽しみだ。
冒頭のまとめ
ボディ剛性とスピードレンジを上げ過ぎたせいで、BMWの持ち前のしなやかなアシの魅力が失われてしまったように思う。
私の知っているBMWのアシは、こんなただ硬いだけのものではない。
むしろ段差を越えた後も細かな上下動が残る、国産車のような乗り味になってしまった。
高速道路を飛ばしていても、段差を越えると飛び跳ねてハンドルが暴れ気味になる。
乗り心地が硬いクセに走行安定性が高いわけでもないのだ。
過剰に上げたボディ剛性のせいで台無しになっている。
ハンドリングは旋回性の高いFR特有の動きとなっており、ここは従来のBMWらしさを受け継ぐ。
318iのエンジンは156馬力しかないが、250Nmのトルクでグイグイと速度が乗っていくため出力への不満は皆無。
日本で乗るにはスピードレンジが高すぎるが、いま最も安く買える3シリーズであるという点でベストバイかもしれない。
外観
iPhone15Proの実力がフルに発揮され、映画のワンシーンのような動画を撮ることができた。
例のデカすぎるグリルではなく、従来のサイズ感やイカリング風な目つきを受け継いでいる。
個人的にはバンパー部の彫刻のような張り出しが好きだ。
ヘッドライト内部はブルーの装飾が入る。マイルドハイブリッドすら搭載していないのに環境に良さそうなイメージを与えるズルさ。イギリス人のスタッフの考案だろうか?
ちなみにピアノブラックの部分は指で押すとギシギシする。
シンプルなライトが上品な後ろ姿。
どこかシンプルで素気ない気はする。
個人的に最もカッコイイと思ったのはホイールだ。
ツヤを抑えたメタリック調のグレーなのだが、精悍なデザインが非常に美しい。
3リッターの直6も積む予定のエンジンルームだが、ミッチリ詰まっている。
ボンネットインシュレーターは未装備らしい。超高速で走行中している最中も車内は静かだったのに…
ちなみにボンネットが閉まらないという問題が生じたため、ナビシステム内のオーナーズマニュアルを参照することになった。
約50cmの高さから、叩きつけるほどではない程度の加速度を与えながらラッチ付近を両手で持って下向きに軽く叩き落とすと無事にロックされた。やけに頑丈に閉まっているあたり、スピードレンジも相当高いのだろうか。
最近のBMWはライティングでも美しさを表現するようになっている。
上記の白色の翼のようなデザインを地面に描くためだけに、専用のプロジェクターを側面下部に配置している。
内装
カーブしたディスプレイや芸術的な造形に美しさが光る車内空間。
「高級感があると言い切れるか」と考えると少し迷うし、コストダウンによるボタン類の排除で使い勝手は多少削がれている。
デザインが美しいためドイツ信者には飛び切り美しく映るだろうが、特段とズバ抜けているわけでもない。
アームレスト部は樹脂。グレードによって色合いが大きく変わるポイントなので、最廉価グレードは安く抑えたのだろう。
この世代のBMWから、コストダウンのためにエアコンの操作盤はナビ画面に埋め込まれてしまった。
物理ボタンとして存在するのは風向切り替えと、ハザードと、曇り取りと、オーディオの音量&電源と選曲である。
カップホルダーの間にシガーソケットとUSB-Aポートを配置するのはスマートに見えるが、実際に使うとケーブルが邪魔になりそう。
ワイヤレス充電もあるが、火傷しそうなほどスマホが熱くなるので私は絶対に使わないと思う。
シフトノブは小さなスイッチになってしまった。
スポーツモード類のボタンがブラインドでは非常に操作しづらいのが難点。
ステアリングの左側はクルコン関連のスイッチが集約される。
右側はオーディオやナビ内の設定。パドルシフトも付く。
メーターの中にはナビや瞬間燃費計、クルコンのモニター、Gモニター、再生中の曲の詳細などを表示可能。
メーターのデザインも変更できるが、カスタマイズ性やタコメーターの視認性には少し不満がある。
なお音楽の画面を開くと再生中の曲のジャケットの画像がアップで映される。非常に高解像度ではあるのだが、ミスると恥をかきそうである。
アンビエントライティング色でセンターコンソール部を照らすためだけのLEDライトがルームランプ脇に配置されている。
画像や動画だと伝わりづらいが、このおかげで淡い色の空間が完成している。
音響・静粛性について
静粛性は非常に高い。
リミッターに当たるようなスピードで走っていても、風切り音・ロードノイズがうるさいとは特に感じなかった。
強いて言うならホイールハウスからロードノイズが出ているため、タイヤハウス周りをデッドニングするのはアリかもしれない。
音響についても非常に良いスピーカーが入っており、しっかりと音楽を楽しむことができる。
純正スピーカー特有の薄っぺらい感じが無いわけではないが、純正でこのレベルの音質だと交換するのもなぁ…と思ってしまう。それくらいの音響の良さは普通にある。
価格・諸元・グレードなど
2024年式の318i Mスポーツである。新車価格は約600万円。
走行距離も3000km台の新車だ。
320iは184馬力/300Nmであるが、318iは156馬力/250Nmまでダウングレードされる。
その代わり100万円ほど安く新車が手に入る。
- 車体サイズは4720×1825×1440mm
- 最小旋回半径は5.3m
- 車両重量は1540kg
- エンジンは2リッター直4ターボ
- 最大出力は156馬力/4500rpm
- 最大トルクは250Nm/1300~4300rpm
- FRの8AT
- タイヤサイズは「225/50R17」
先代と比べると多少はシンプルになったが、相変わらずグレードのラインナップは幅広い。
G20の3シリーズのグレードごとの違い
グレード名を盛大に間違えてしまったため、改めて確認しておこう。
318iのMスポーツと320,330,340のバンパー形状は同じ。
318i,320iのMスポーツ,320dにはMスポーツ・サスペンションが標準装着される。
320iのMスポと320dと330eは、追加費用を払うとアダプティブMサスペンションにアップグレードが可能。
実走行インプレッション
取り回し
3シリーズ持ち前のコンパクトな車体サイズゆえの取り回しの良さは健在。
先代のF30よりも少しだけ大きくなっているが、変わらぬ乗りやすさである。
狭い駐車場や細い道でも苦労することはあまりなく、狙ったところにイッパツで入れていけるクセのないセダンタイプだ。
また超低速域でのハンドルの重さも気にならないレベルまで改善している。
アシスト装備も充実し、アラウンドビューモニターも使えるようになった。
自動操縦関連
渋滞中は完全手放しで走らせることも可能なアシストシステムが付いている。
同じクルーズコントロールの中でも、レーンキープ機能が付いているほうのクルーズコントロールと、ただ車間を合わせるだけのクルコンの両者をワンタッチで切り替えられるボタンがある。
操舵アシストをオンにしても違和感のあるハンドル操作はしてこない。
人間が常にハンドルを触り続けても引っかかる感じがない、自分で運転するスタイルの味付けはbmwらしい。
ただこれは「クルマがコントロールを取ってる感」の薄さとイコールであるため、クルマの意志でガンガンと進み続けるタイプが好きなら合わないと感じるかもしれない。
パワートレイン
私が乗ったのは2リッター直4ターボ。
前述した通り320iでは184馬力/300Nmのエンジンであるが、本車である318iはダウングレードされて156馬力/250Nmまで下がっている。
遅くないか気になるところだが全く心配は無い。
確かに高速道路の上り坂の追い越し車線で、前が開けてからベタ踏みしても速度が乗るまでワンテンポ遅れる。
しかし気持ちのいい加速でガンガンと速度を乗せていくことができる。
1300回転から4300回転までの幅広い領域で250Nmが持続する特性と相まって、馬力というよりトルクでグングンと速度が伸びていくタイプのエンジン。
シフトダウン時はショックを抑えつつもブリッピングを入れてくれる。
BMWが提唱する駆け抜ける喜びは、最もベーシックな318iでも健在だ。
オービスが光るようなスピードで超高速巡行する場面においても、加速性能が足りないとは感じなかった。
ちなみにこの2リッター直4ターボエンジン、やけに燃費が良いのだ。
ここでは書けないようなペースで高速道路の巡行を続けたが、あり得ないくらい燃費が良かった。
そもそものエンジンが優秀なのか、出力を抑えているからなのか、低アクセル開度で流している時間が意外と長かったのか、cd値が0.23しかないおかげなのか…
エンジン音が全体的に静かで、回転数を上げてもせっかくのエンジンノートをあまり感じ取れないのは寂しいと思った。
ちなみに多段式ATが搭載されているが、低速・低負荷走行時はシフトチェンジによるショックが感じ取れない程度だが発生している。
ハンドリング
フロントの剛性が異様に高く、少しハンドルを動かしただけでノータイムでフロントが追従する。
30km/h台で街乗りしていても、ただの直線でもハンドルを少し動かすだけでこの応答性は感じ取ることができる。
ハンドリングは従来のBMWのFRらしい走りの方向性を受け継いでおり、ターンイン時は剛性を活かしてフロントがノータイムで動く。
中盤以降ではリアタイヤを押し付けながら曲がっていく。
前後バランスはフラットというより、前でグイグイと曲がっていくようなもの。
急旋回時は大きめにロールしてから姿勢が安定して曲がっていく。
急ハンドルを切った際の唐突すぎる横移動は先代と変わらないが、動きが少し穏やかになって安定性・安全性が増したように思う。
実は外気温0.5℃の深夜の峠道を走っていたところ、中速の右コーナーでスリップしてリアが流れてしまった。
ドリフト状態になったものの、カウンターを当てたところ普通に立て直すことができた。
意図せぬスライドでも高いコントロール性を発揮してくれることを図らずとも確認できた。
状況さえ整えば、わざとドリフトさせて楽しむことも出来そうである。
ブレーキについては大幅に改善されている。踏み始めは穏やかでガツンと来ないが、少し踏力を増すだけでカッチリと止まれるようになる
乗り心地
剛性・スピードレンジを上げすぎて、逆にドイツ車の良さが消えた?と思ってしまった。
というのも、ストローク自体はあるのだがすぐにゴツンと来てしまう。
これが結構硬く、また後揺れも残ってしまうため正直言って乗り心地は悪いし、走行フィールとしてもよろしくない。
ドイツ信者にとってはこのゴツゴツ感・剛性感こそがたまらないのかもしれないが、本車のそれは完全に過剰。
アウトバーンで250km/h出すなら良いだろうが、たかだか160km/h程度でしか走らない私にとってはただ硬いだけだ。
他のBMWで感じていた足回りの魅力は、硬くなりすぎてほとんど消えたレベルに薄れてしまっていると言わざるを得ない。
中途半端に速度を上げた程度ではこの乗り心地の硬さは改善しない。
ハンドルもやけに重く、ガタガタと段差に揺さぶられてしまうので手が疲れる。
一時間未満の中高速走行で痛くなってしまった。
スポーツモードであってもハンドルの硬さはコンフォートにセットしよう。
シートの背面にはクッションが入っており、体重をかけると沈み込んでいく。
シート自体はいい感じなのだが、この硬さのせいで個人的には疲れやすいと感じてしまう。
安らぐ感じが無いのだ。
日本車でモデルチェンジでアシがこうなったクルマがあったら、「足回りの味付けを担っていた主要な開発メンバーが定年退職したか??」と邪推してしまうレベルである。
超高速域について
そもそも本車の足回りは、オービスが光る速度を余裕で飛び越してもまだ硬いくらいである。
しかしそれくらいのスピードを出してもなお、国産車のような上下方向への後揺れが残る乗り心地。
下から上に一回ゴツンと来てゴムブッシュが40度ねじれたら、そこでスパッと揺れを消す。といった足回りではない。
後揺れを残しているせいで、国産車との動きの違いがあんまり出なくなっている。
スピードレンジは無茶苦茶高いが、全体的に硬すぎる。
スポーツカーとしては良いのだが、3シリーズに付けるアシとしてはやりすぎ。
ただ硬いだけなら良いのだが、中央道の下りと穴ぼこガタガタ路面が合わさった区間を爆速で下っていたところ、段差に吹っ飛ばされてハンドルが暴れ気味になっていた。
路面との接地性を失い、車体が飛び跳ねているのである。
これでは安全・安定しているとは到底言えない。
乗り心地が硬い割に安定性が高いわけでもないのである。
酷い足回りだ。
これでMスポーツ・サスペンションである。
320iにはアダプティブMサスペンションがオプションで付けられるが、公式サイトの装備票を見る限りでは318iのMスポには設定がないようだ。
乗り心地の硬さをタイヤとホイールでしか改善できないという意味であり、このクルマに乗っている限りしんどい硬さからは逃れられないようだ。
私はこの時点で318i、安くても買わない。
せめて320iのMスポにアダプティブサスペンションをつける。
ハンドルは少し切るだけでビしっと姿勢が安定するものとなっているが、急ハンドルは厳禁。