2012年に登場し、映画『ミッション・インポッシブル』でも大活躍したF30型のBMWの3シリーズ。
400万円台スタートという買いやすい価格とカッコイイデザインが合わさり、私が生まれ育った当時の名古屋では非常によく見かけた。
今となっては中古が100万円以下であり、クルマ好きならその中身が気になる。
現行型の3シリーズのレンタカーを予約したため、その前にF30型にも乗っていくぞ。
残念ながらセダンではなくステーションワゴンであるが、レンタカーとしては貴重なF30系だ。
冒頭のまとめ
2012年登場の500万円級のクルマとして、スタイリング,走行性能などの総合的な満足店は非常に高い。
しかし2024年に乗ると古い印象は否めない。
内装はデザインや機能性こそいいものの樹脂まみれ。
足回りはしなやかにストロークしてくれるが、街乗り重視なのか上下方向への動きが大きめ。
エンジンは2Lターボなのに184馬力しかなく、ハンドリングも旋回初期は穏やかに動く。
しかしリアタイヤのグリップを感じながら俊敏に楽しく走れる。
セダンではなくステーションワゴンとして、実用性・ゆったり流すような方向性に振ったのだろう。
価格・スペック
2015年式の320i ツーリング ラグジュアリーである。
新車価格は550万円。
- サイズは4645×1800×1460mm
- 車両重量は1660kg(前800kg,後860kg)
- エンジンは2.0L直4ターボ
- 最大出力は184馬力
- 最大トルクは270Nm(1350~4600rpm)
- 最小旋回半径は5.4m
- タイヤサイズは225/50R17
2Lターボなのに184馬力しか無い点が1つの特徴となっている。
決して遅いわけではないか、乗りやすさやエコに振っている印象だ。
3リッターの直6ターボ搭載モデルでは326馬力/450Nmまで出力が向上する。(約800万円)
なおF30世代の3シリーズ、数えきれないほどグレードが多いのだ。
これらに加えてグランツーリスモというレアバージョンも存在する。
エンジンや駆動方式、Mスポーツやラグジュアリー、限定エディションなどで分類すると多少はシンプルになるが、信じられないほどのラインナップだ。
さすがBMWのベーシックモデルである。
外観
今回借りてきたのはステーションワゴンバージョンである。
この頃のBMW,イカリングヘッドライトや全体的なスタイリングのウケが非常に良かったのを覚えている。
リアガラスだけ開ける機能もある。
ミニバンほどテールゲートの開け閉めに後方のスペースを必要としないので、無くても問題ない気はするけどね。
日本向けモデルのみ、駐車場の制約をクリアするためにドアハンドルの形状を変更することで車幅を削ったらしい。
ベタ踏みした感じが極端に速くなかったが、2リッターターボである。
エンジンカバーやボンネットのダブルキャッチはお馴染み。
カバーの面積は広く、あんまりユーザーが日常的に開けて触る設計ではなさそうだ。
内装
あのドイツ車ということで高級なイメージがあるが、実はコストダウンが目立つプラスチックまみれの内装だ。
2012年という世代と400万円台スタートという安価な価格設定、見かけのカッコ良さを踏まえればなにも不満ないけどね。
BMWユーザーからは不評続きなアイドリングストップキャンセルボタンは長押し不要。
本車のアイドリングストップは一時停止で一瞬止まる程度でも暴発するため鬱陶しい。
オレンジ基調でシンプルなメーター。
今となっては先進性に溢れているBMWの内装も、2012年ごろは意識的にレトロさを残している。
瞬間燃費系にマイルドハイブリッドの回生ゲージが含まれているが、回生ブレーキと言えるほどの減速Gは出ない。
左側はクルーズコントロールやスピードリミット機能。
自動追従式のクルコンが付いているため渋滞中でもラクだ。
ブレーキホールドは付かないが、前にクルマが居れば停止保持を行える。
ライトやメーターパネルの明るさ調整、車線逸脱警報のオンオフスイッチが並ぶが、このへんは全て樹脂。私のNCロードスターと大差がない。
ドアの内張りもブラウン色の部分以外は全てハードプラ。
しかしレザー部のクッション性が良いためアームレストとしては有用。
「何を割り当てたか絶対忘れるやろ」と思われがちな数字たちだが、指で表面を撫でるとナビ上部に登録内容が表示されるという賢い設計となっている。
1番を自宅に設定するのは定番だろう。
ハザードの下には施錠と上部の送風口から出てくる風の温度を変えるダイヤル。
この青と赤のエアコンの謎のダイヤルの正体について調べてみたところ、冬場に暖房を効かせつつも、顔には冷えた風を当てて目を覚ますといった使い方を想定しているらしい・・・
赤色だと暑すぎるので青側で運用していたが、どうするのが正解なのかよくわからない…
物理のエアコン操作系。
シートヒーターがハンドルで隠れて見えづらいことや曇り取りが左下にあること、左右を連動させるSyncボタンが見当たらないのが気になるが、すぐになれる。
「内気循環かオート」という選択肢なのは新鮮。
カップホルダーの間にシガーソケットを置くという配置。
スマートに見えるが、分岐器を直差しするとカップと当たる。
↓こういうタイプの製品は使えないだろう。
ちょっと使いづらく感じる電子シフトだが、「Pはボタン」「Dはボタンを押して下」「Rはボタンを押して上」覚えるのはこれだけ。
NからD、DからNは倒すだけで入るが、Pからギアを変える場合はボタンを押す必要がある
Dから一回左に倒すとSモード。その状態で上下に動かすとマニュアルシフトだ。
ツーリングにはパドルシフトは装備されない。オプションで良いから付けてくれればいいのに…
その右側にはモード切り替えのボタンやトラクションコントロールなどが並ぶが、モード切り替えボタンとトラコンのボタンを間違えやすいのが気になる。
もう少しボタン形状を工夫して欲しかったところ。
アラウンドビューモニターはないが、舵角連動のアシスト線が出る,小回りが利く,車体が小さいなどなど親切な点が多いのでラクができる。
サイドブレーキの引きが甘いとクルマが動くので注意。
インナードラムなのだろうか?
ナビのコントロールはこのダイヤルで行う。
2012年発売のクルマだと考えると、かなり高度な車載システムを搭載していたと言える。
ブラインドでも操作性は抜群だ。
しかしマツダ車には付いている、オーディオ専用のダイヤルは無い。
カーナビの移動操作ってどうやるんだ…
センターコンソールボックス内にはUSB-A端子とAUXのみ。このボックスも体積があまり大きくない。
何馬力/何Nm出ているか表示するパワーメーターも表示できる。
ピークホールド機能付きだが、馬力では無くて「kw」となっている点は謎。
100kwで135馬力だが、184馬力しかないことを誤魔化すために馴染みのない単位を使ってるのか?と思ってしまった。単位を変更する設定項目は見当たらなかった。
アンビエントライティングには2つのモードがあり、クラシックを選択すると幻想的なオレンジ色で照らされる。そのためのライトが装備されているのだ。
ちなみにシートメモリー付き。
一列目は樹脂が目立ったが、二列目は一面がブラウンレザーで非常にオシャレだ。
ファミリーカーとしても問題なく使えそうである。
足元は拳が2個入らない程度ではあるが、別に狭いわけではない。
温度調整付き..とはギリギリ言えないが二列目用のエアコン吹き出し口はある。
その下にはシガーソケットが1つ。適当に分岐器でも買って挿しておけば充電需要は賄えそうだ。
↓こういう系の商品。
二列目中央を倒すとアームレスト兼カップホルダーが使えるようになる。
FR化の代償はかなり大きいようだ。握りこぶし3つぶん近い高さのセンタートンネルが二列目中央に鎮座しており、ハッキリ言って5人目の人は窮屈だと思う。
荷室の使い勝手は非常に良い。ユーティリティに妥協はない。
荷掛けフックや電源などの装備も充実。
床下には謎の銀色のバーがあるが、これは荷室を仕切って荷物が揺れ動くのを抑えるために使うらしい..
車中泊適正について
荷台をほぼフルフラットにできる上に長さも充分に担保されているためうってつけである。
荷台を倒して寝転がると、身長170cm+α程度では頭がはみ出すこともない。
ただ、車中泊が目的ならわざわざステーションワゴンを選ぶ必要は無い気がする..
オーディオと静粛性について
オールシーズンタイヤが履かされていたため純正装着と静粛性が異なっているが、それでも静かだ。
180km/hにリミッターが設定されていたが、その付近の速度で流しても風切り音が大きいなと感じることはなかった。
オーディオについてだが、純正スピーカーらしいスカスカ感こそ消えないがかなり良い音をしている。
低音域のドラムはしんどいほどズンズンと響いて来るし、音量を上げても高音域は非常に綺麗に響く。
音響にこだわるなら、このレベルの音質ならスピーカーは交換だろう。
しかしペラッペラ感のある純正スピーカー系の音の中ではかなり良い方だ。
音響設定で少しだけリア寄りに、そして高音を2~3メモリ下げるとバランスが良くなる。
実走行インプレッション
取り回し
どことなく乗りづらそうなイメージがある外車だが、3シリーズは車体がコンパクトなためむちゃくちゃ乗りやすい。
狭いところでもスイスイ入って行ける。
クセのないセダン型ボディーだからか、本来のサイズよりもむしろ小さく感じるほど。
Uターンもそんなに苦ではないが、低速域で非常にハンドルが重いのは難点。
パワートレイン
エンジン音があまり聞こえてこないのは残念だが、気持ちのいい音を響かせて高回転域まで回っていく。
しかし2リッターの直4ターボなのに184馬力/270Nmしかない。
数値的には大して速くはないのだ。
zn6のハチロクは自然吸気で200馬力あるのに…
加速力は上位グレードに譲っているのだろうか。燃費優先なのだろうか。
充分に速くて気持ちの良い加速をしてくれるが、BMWらしい運転フィールを求めるなら別のグレードを選んだほうが幸せになれるだろう。
しかしトルクは270Nmあり、全域でグイグイと気持ちよく速度が乗って行くぞ。
なおツーリングにはパドルシフトが装備されていない。
マニュアルモードを使うことになるが、レブりそうになればシフトアップは自動で行ってくれるし、ダウンシフトも急に強い減速Gが出ないように抑えてくれる。
乗りやすさと走る楽しみが両立されていると言える。
ちなみにマイルドハイブリッドシステムが搭載されているが、ハイブリットらしい動作を感じ取ることは出来ない。
アクセルもブレーキも踏まずに流しているような場面で瞬間燃費計の回生ゲージが振り切れる程度。
乗り心地
街乗り領域
段差を超えるたびにしっかりとストロークしてくれるため非常に乗り心地がいい。
四輪のアシがしなやかに動くのを感じ取れる。
揺れの抑え込みも自然で、硬すぎずダルすぎない快適な乗り味を楽しめる。
このツーリングは街乗り領域での快適さに振っている一面があるため、日本の市街地を40km/h程度で走っていても普通に快適だぞ。
高速域
ある程度のストロークはありつつもビシッと揺れを抑え込むため安定性は高い。
しかし上下への動きが少々大きく、抑え込みも少々甘いように思う。
アウトバーン級のスピードでも走ってみたが、極端にブレたり危険な動きが出ることは無いが、道路状況が完璧でない環境下では恐怖感と共に走ることになる。
Bmwだと考えるとスピードレンジは低め。
街乗り領域の快適性に振っている印象
年式や車格は異なるのだが、2019年に登場したF40型の3台目の118iMスポーツのほうがアシの動きの上質や直進安定性はあからさまに上。
新しい世代のアシと内装の次元の高さを知っているだけに、「これ買うくらいならもっと貯金か借金して新しい世代を買ったほうがいいんじゃないか・・・?」と思ってしまった…
安いんだけど、値段を考えると性能も非常に高いけど、2025年に乗るクルマとしては私は物足りない…
(私が6代目F30世代の3シリーズは2012年に登場した。両者には7年の世代差がある。)
ハンドリング
セダンとステーションワゴンでは味付けが異なっているようだ。
ツーリングの旋回初期はゆったりしており、舵角に対してあまり切れていかない印象を受ける。
旋回中盤からはリアタイヤにトラクションを掛けつつ立ち上がっていけるFRらしいフィーリングとなっているが、スポーツセダンからは一歩引いたような乗り味。
…ではあるのだが、コーナリングの限界性能自体は非常に高い。
前後の重量配分がほぼフラット~リア寄りだからだろうか、前後のタイヤグリップを使って曲がっていくことが出来るため安定性が高い。
なんなら旋回中に「いまリアタイヤも使って曲がっているな」と感じ取ることが出来る。
前タイヤだけで遠心力に抗うFF車とは大きく違うポイントだ。
(車両重量1660kgの中で前の軸重は800kg,後ろの軸重は860kg)
急ハンドルを切ると大きく動いてしまうのはBMWお馴染みだが、大きめにロールしたところでスパッと収まって俊敏に旋回する。
ちゃんと抑えて乗っていれば危険はないレベルだが、やはりBMWで急ハンドルを切るのはやめておいたほうがいい。
FRらしい旋回性だが、NDロードスターのようにフラフラになったりはしない。