手ごろなEVが欲しいときに真っ先に選択肢に上がるのが日産リーフである。
バッテリー容量が40kWhの方と、60kWhの「e+」の方。
今回乗って行くのは40kWhのほうの廉価グレードだ。
冒頭のまとめ
フニャフニャでヤワいところがある一方で、ガッチリ安定した刺激的な乗り味もある。
そんな相反する2つの要素が共存する不思議な運転フィールを持つ。
試乗車のスペック
2024年式のXグレード、新車価格は408万円だ。
最廉価グレードということで色々な装備が省略されている。
タイヤサイズが16インチだったり、 スピーカーが4つのみであったり、電動パーキングやプロパイロットが上位のGグレードのみ標準搭載されていたりする。
「e+」以外はバッテリー容量が40Kwhで急速充電スピード、航続距離、長旅での冷却に致命的な弱点を抱えていたりする。
公式サイトの諸元・主要装備一覧表から書き留める。
- 車体サイズは4480mm x 1790mm x 1560mm
- 車両重量は1520kg
- モーター出力は150Ps/320Nm
- バッテリー容量は40kWh
- EPA航続距離は243km
- EPA電費は5.36km/kWh
- 最小旋回半径は5.2m
- タイヤサイズは「205/55R16」
- フロントサスは独立懸架ストラット
- リアサスはトーションビーム
e+と通常モデルとの違いについて
e+になるとバッテリー容量が60kWhまで増量され、EPA航続距離が364kmまで伸びる。モ-タートルクも218Ps/340Nmまで強化される。車重は1670kgまで増加。私のオススメはe+だ。
公式サイトによれば、40kWhモデルは最大50Kw、60kWhモデルは最大100Kwもの急速充電スピードに対応している。
実走行インプレッション
乗り込んだ最初の印象としては、「新車が400万円もするのに高級感が無いなぁ…」と思ってしまった..
EVとしては安い方なんだけどね。
さて車体サイズとしてはコンパクトカーなので、普通のクルマとして何の問題も無く運転することが出来る。
パワートレインについて
ノーマルモード・エコモードの2つが用意されているが、ノーマルモードで少し踏み増すだけでグイグイと加速していく。かなり速い。
また少しでも強めに踏み込むとタイヤからスキール音が鳴る。
350Nmオーバーの加速性能を持つクルマに何台も乗っている私は、このスキール音はタイヤの特性によるものだと解釈する。
さて持ち前の加速性能は恐ろしいほどのモノであり、120km/h巡行なんて歩いているのと変わらないレベルだ。
ベタ踏みすると覚悟を求められるような加速力で伸び続ける。コンパクトカーセグメントのあの外観からは想像も付かないような速さ。
320Nmもの加速性能はダテではない。だが加速が速すぎて危険というわけでもない。快適にEVライフを楽しめる。
制動力について
元の車重が1.5トン程度に抑えられていること、大きなモータートルクを回生力に使えることなどが合わさって、かなり強い減速Gを出すことが出来る。
大きなノーズダイブが起きて前の2輪で抑え込むような形にはなってしまうが、安心して止まれるぞ。
モータートルクでもガンガンに速度を削れるため、凍結路や低ミュー路でも安心だ。
ただe-Pedalオフ時の、ブレーキペダルの踏力に対する回生減速力の立ち上がりが弱すぎる。
かなり奥の方まで踏まないと減速できないため、普通の街乗りのカーブでも少し怖い思いをする。
さっき言った通り乗り物の絶対的な制動力は足りているため、なおさら残念に感じてしまったポイントだ。今思えばBレンジも試すべきだった…
e-Pedal・ブレーキホールドについて
e-ペダルを使うと、停止中でもブレーキホールドとして利用できる。
試乗車は左足でサイドブレーキを踏むタイプだったが、これで信号待ちの最中もラクができる。
停止中にe-ペダルをオンにすれば、そのままブレーキから足を離せるぞ。
なおe-pedalでのブレーキホールド中に手元のスイッチをオフにしてしまっても、「ブレーキが踏まれていないとe-pedalが切れない」という安全設計のおかげで勝手にクルマが動き出すことは無い。
肝心のe-pedalの動作についてであるが、少しでもアクセルを緩めただけでガックンと揺れるような減速Gが起きてしまうため、個人的にはこの手のワンペダルドライブ機能はあまり好きではない。
アクセルから足を離すだけで最大の回生力が出せるので、峠の下りや高速道路から降りていく場面、ストップアンドゴーが連発する区間などを見極めて使っていくのがオススメ。
乗り心地と独特なボディの剛性感について
このクルマはヤワいような硬いような、不思議な乗り味を持っている。
段差を越えるとそこそこ大きく足がストロークした後に、ゴツンと来る。
大きな段差ではフワッと飛ぶような動きになった後に、不安定な感じが出てくる前に揺れを抑え込む。
このふわふわとした動き、足のストロークというか上下動はかなり大きいが、後揺れもしっかり抑えてくれる。
またボディ剛性についても、頑丈さがしっかりとあるのだが、その一方で2010年代中盤頃のヤワい感触もある。
ヤワいのと硬いのが共存している不思議な乗り味である。
旧世代の低価格帯っぽさはあるが、総じて快適性と安定性のバランスは良い。
ゆったり流しても快適で、航続距離的に考えられないようなスピードで走っても、ワインディングを攻めてもしっかり安定する。
他に見ないような世界の乗り心地だ。
ハンドリングについて
乗り物の素の運動性能は高いのだが、ご年配の方が40km/h制限の田舎道を32km/hくらいで流すのにうってつけなゆったり具合。
旋回初期は穏やかで優しい走行フィールなのだが、グッと切り増すとある程度のロールの後にビシっと抑え込まれる
全体的にダルさが多いが、旋回性能は高い。
nismoになってハンドルのレシオがシャープになり、足も引き締められたようだ。
nismoの担当チームがちょうど痒い所に手が届くような改良をしてくれた。
外観
お馴染みのデザイン。
カギを開け閉めすると、フロントの日産マークやポジションランプが光るようになっている。
ボディーカラーは黒なのだが、メタリックが散りばめられていて高級感のある黒だ。レクサスっぽさすら感じるほど。
後ろ姿もお馴染み。スマホに取り付けたライトにリフレクターが赤く反射している。
ナンバー灯がクリーム色なのはEVのイメージに合っていないので残念だ。LEDに変えたい気持ちがある。
ホイールは開口部を抑えた空力重視のものが入っている。奇抜な形状だが純正品ゆえのデザインバランスの良さを持つ。回生ブレーキだけで結構な減速Gが出るため、ブレーキの放熱への不安はないだろう。
充電口はフロント。前側に充電ポートがあると頭から突っ込んでサクッとプラグを挿せるので充電開始までがラクだが、窮屈なステーションだと出す際に辛い。私は入庫が面倒でも充電ポートは後ろ側に欲しい。
ボンネットはまさかの鉄。明らかに重い。これもコストダウン要素である。
EVである割には1.5トン程度とそこまで重くないため、これはまぁ良い。
色々と覗き込んでみた。アンダーカバーは装着されているようだ。
バルクヘッドには遮音材が貼られているらしい。ステアリングのシャフトも見える。
内装
最廉価グレードであるということもあり、正直言うと高級感はあまりない。
ステアリングこそレザーでありソフトパッド素材も随所に使用されているが、樹脂は目立ちシートは手動。2024年からは世代も古い印象を受ける。
運転席に座った際の感触は悪くないんだけどね。
ステアリング左側はカーオーディオとナビ内のインフォディスプレイの操作。シンプルで操作感も良い感じだ。
右側はクルーズコントロール関連と音声コマンド。
日産お得意のプロパイロットはこのクルマには搭載されていなかった。
だがクルーズコントロールシステムはシンプルな使い勝手で、複雑化した昨今のクルマたちのことを考えると安心して使える。
120km/h以上の速度にもセットできる。
ちょっとシンプルなウインカースティック。オートの位置ではオートハイビームと手動ハイビームのオンオフが自然に切り替えられる。
フロントの充電口はハンドル右側のこのエリアか、キーの一番下のボタンでのみ開けられる。
ステアリングヒーターや充電タイマー、自動ブレーキ機能を操作する。
充電口なのにガソリンのマークなのはスイッチの部品をガソリン車と使い回しているからなのだろうと思ったら、先端にコンセントのプラグマーク。他の日産車はどうだったか、次に確かめるとしよう。
パワーウィンドウやミラーの操作系もシンプルで、逆に私は安心感を感じている。
400万円もするのに運転席のみがオート。
カーナビの使い勝手は悪くないが、スマホとのBluetooth接続ができないという致命的なトラブルに見舞われた。
ぱっと見は古そうに見えるマップだが、GoogleMapのスマホアプリに負けないようなヌルヌルサクサクな動作をしてくれる。
BYDと同じく、走行中に使い勝手が著しく悪化するのは嫌いだが。
エアコンの操作を行うとナビ画面上部にポップアップが表示される。エアコン操作パネルの液晶を省くコストダウン設計だ。
そんなエアコン操作パネルがコレ。
温度が左端にあるのは少々使いづらい。
また左上の「HEAT」が何のことなのか分からない。
「MODE」で風向を切り替える。全体的な使い勝手は特に悪くない。
これは冬場に暖房を使用する際は「HEAT」をオンにし、曇り取りも行いたい場合に「A/C」もオンにするものなのか・・・?
なら曇り取りのボタンを押した瞬間に、空調設定が20℃程度でもHEATが連動してONになるのはなぜだ…
公式サイトのオーナーズマニュアルを巡った結果、これが答えだと判明した。
一般的なエアコンなら一体化されているエアーコンプレッサーとヒーターの操作系を、空調の効率のために別々にオンオフできるように設定してくれたらしい。これで冬場の航続距離が数%~10%ほど伸びるなら有難い。
その下側にはスタートストップボタンとUSBポート、シートヒーターのスイッチやシガーソケットがある。
その下側にはちょうどスマホを放り込んで置けるスペースがあるが、ワイヤレス充電には対応していなかった。オプション装備かと思って検索したが、別にそういうものでもないようだ。
シフトやe-Peal、エコモードのスイッチ。
シフトはいわゆるプリウスシフトで、Pに入れるには先端のボタンを押す。
その後ろにはカップホルダーと謎の小物入れ。
ルームランプはクリーム色で、これがまた高級感を削ってしまっている。LEDに変えたいところ。
二列目にも座ってみたが、車内スペースや居住性は特に悪くなかった。
床下をめくってみるとまさかの鉄板丸出し。叩いてみるとそこそこ響いてしまう。デッドニングもやりやすいので、私だったらなにか施工する。
またトランク背面の内装は絶望的に安っぽく、2000年代前半のトヨタ車みたいな樹脂が使われている。
気になることは無いだろうが、400万円を超えるような価格帯のクルマにこんなコストダウン要素があったとは…
車中泊適正について
二列目を倒してもかなりの段差が産まれてしまう。
元々前後長が長いセグメントでも無いため、ここに布団を敷いて車中泊をしようと思ったら高低差を埋めるための工夫が必須となる。二列目足元のスペースも埋めないといけないかもしれない。
しかしバッテリー容量が40kWhしかない点には要注意だ。
公式サイトによると全車にヒートポンプ式のエアコンが搭載されているようだが、特に真冬の車中泊の際は、窓の目張りや電気毛布の採用などで電力消費を抑えることをオススメする。
バッテリー容量が大きくないため立ち往生にも比較的弱いほうであり、そういう地域でそういう期間に運用するなら本腰を入れて対策装備を積んでおく必要がありそうだ。
静粛性・オーディオについて
静粛性はかなり高い。内装は安っぽいが、乗り味や走行フィールに価格相応な雰囲気が漂っている理由にこの静粛性が含まれているだろう。
なおオーディオについては装備表によると4スピーカーであるらしいが、私の感覚ではフロントのドアスピーカー2つじゃね?と思ってしまった。
その程度の貧弱な音響空間だが、純正スピーカーの能力が意外なほど高い。
高速域でもロードノイズにかき消されずに快適に聞けるし、高音域でもこの手の内装コストダウン車の中では驚かされるような音質でなってくれる。
良いと呼ぶかは迷うが、中の上。スピーカー交換無しでもギリギリ耐えられるレベルの性能を持つ。
走行状況ごとの電費と見込み航続距離について
高速道路を120km/hで流す:224km
高速道路をだいたい120km/hくらいで走ってみたところ、電費は5.6km/kWhであった。
この場合の見込み航続距離は224kmである。
SUVほど投影面積や重量が大きくないためか、速度の割には悪くない数値が出た。
bz4xでは同じペースで走って4.5km/kWhだったし。
下道を普通に走る:276km
40~60km/h制限の知多半島の海沿いの道路を、普通のペースで流し続けたところ6.9km/kWhであった。
この場合の見込み航続距離は276kmである。
このことから、満タン時の航続距離は250km程度を見込んでいれば良さそうである。
特に40kWhモデルのリーフは長旅における電池の冷却に致命的な弱点を抱えているため、無駄な電力消費と電池の発熱を抑えるために、長距離ドライブにおいては走行ペースや電費の最大化が重要となる。
50kw級の急速充電器に30分繋いだ際の回復距離
50kW級の急速充電器のある日産ディーラーにお邪魔して、2時32分ごろから3時10分ごろまで充電した。少しだけおかわり充電を行っている。
これが充電開始前の状態。
このタイミングで徒歩10分の距離の公衆トイレまでジョギングをしていたため、残念ながら記録が残っていない。
87%時点で20kwの出力が出ている。熱ダレは起きていない。
22分で29%入ったことになる。
少しの延長を経て3時10~11分ごろに充電終了。96%まで入った。
22分で29%。146kmが217kmへ、71km増えた。
22分で71kmは30分で96km.
40kwhの29%は11.6kWhであり、電費を6kWhとすれば69.6kmである。
50Kw級に30分繋いだ際の回復距離は約70kmであると言えそうだ。