冒頭のまとめ
BMWの魅力が目に見えるところ・走り込まないと分からないところの両面に凝縮された、約400万円という価格に対する満足度が非常に高い一台。
見た目だけで選ぶ層にも、色々なクルマを乗り継いで「分かる」層にも、それぞれ刺さる魅力を持っている。
先進的で美しい内外装に、アウトバーン走行での使い勝手も考えた機能的な設計。
快適性はしっかり担保しつつも、不安定さの原因になりそうな動きを徹底的に抑え込んだ足回り。
軽快さを楽しめるようセッティングされたハンドリング。
一部の国産車のような「生き物らしさ」はあまりなく、どちらかというと「精巧な腕時計」のような運転フィール。
一般的な国産車の2倍のペースで危なげなく走っていくことが出来る安定性を持つが、それと同じだけの速いペースで運転手も消耗していくような走行フィールとなっている。
総じて436万円という新車価格が破格に感じる一台となっているが、いくつか弱点や不満点はある。
具体的に示していこう。
試乗車のスペック
2020年式の新車価格436万円の118i MSportsだ。
- 4355×1800×1465mm
- 車両重量は1390kg
- エンジンは1.5L 直3ターボ
- 最大出力は140ps(4600rpm)
- 最大トルクは220Nm(1480~4200rpm)
- FFの7AT
- タイヤサイズは前後とも「225/40R18」
ちなみにフロントサスペンションは「シングル・ジョイント・スプリング・ストラット式、コイル・スプリング」であり、リアサスペンションは「マルチリンク式、コイル・スプリング」となっている。
いつも通り、グーネットカタログの諸元表ページから引用した。
内外装レビュー
外装
クルマのイメージに合った鮮やかなブルー。
この1シリーズはリアから見るのが美しい。
安定感を感じるリアビューだが、横幅は1800mmありイメージほど狭所での取り回しはよくない。
フロントバンパーからタイヤに向かって、実際に空気が抜けていく穴が開けられている。
エンジンルームを開いてみれば、国産車では見かけないような補強が入っているのが分かる。
足回りを下から覗いてみる。
こっちはフロント。暗い中でスマホを差し込んだだけだが、アルミ製の部品がチラっと見える。
こっちはリア。
サスペンションアームが長いように見えるのは気のせいではないだろう。
ミラーとドアノブに照明が内蔵されており、近づくとこの部分が光るようになっている。
こちらも光る。
しかしこの手の演出にバッテリーの電力を使いすぎだと感じてしまうのは私だけだろうか・・・
エンジンを切った後も、しばらくは車内が真っ暗にならない仕様となっている。
アイドリングストップまで加わるのだから、補器バッテリーの残量や寿命が心配になってしまう。
設定で切れるはずだけど…
内装
美しく高級感があり、先進的かつ機能的なインテリア。
細かいところを見て行くと気になるところがあるが、400万円台のクルマとは思えない。
ステアリングホイールの触り心地は市販車トップクラスに良い。
表面がしっとり・すべすべとしており、握り込んだ際にもっちりとする感触がある。
ステアリング左側はクルーズコントロール関連。
スピードリミッター機能も搭載している多機能なものだが、初見では少し使いづらい。
メーター右側のインフォディスプレイは、左側のウインカースティックの先端のボタンを押し込むことで表示内容を切り替える。
右側はオーディオ関連のコントロール。
視認性に優れるディジタルメーター。
左側が速度、右側が回転数や各種インフォディスプレイ。
回転数は反時計回りに上がっていくものとなっているが、運転していても違和感を感じることは無かった。
むしろ左右対称なデザインが美しい。
運転席右側にはライト類のスイッチが集約される。
フォグランプやパーキングライトの他には、メーターやオレンジのイルミの明るさを調整できるダイヤルも加わる。
ちなみにこのライト類のコントロールパネル、夜間の走行中は右ミラーに映り込んでしまう。人によっては気になるかもしれない。
デザインと手の触れる部分の素材をしっかりと造りこんだドアの内張り。
この価格帯の外車としては質感はかなり高め。
下段にあるのはテールゲートを開けるスイッチ。
さてさて、気になる中央部分の操作系を見て行こう。
一番上はハザードと運転支援装備関連のショートカットボタン。
押し込んだらグニャグニャとしたクリック間の無い感触となっており、正直安っぽい。
またボタンそのものも同じ色・形状で並んでおり、可動域が狭いので操作には少しクセがある。
「MENU A/C」というボタンから設定メニューを開ける。
またハザードが左側というのも、左ハンドル用の部品を使い回しているのだろう。
クルマアイコンの中央から色付きのリングが広がっているボタンは、1回押すだけでステアアシスト関連を一瞬でオンオフできるもの。
クルマにアシストしてもらうか、妨害を嫌いながら全てを自分でコントロールするか、ワンタッチで瞬時に切り替えることが可能。
公道を長時間走っていく際に便利な機能となっている。
1番に「自宅に帰る」を設定するのは定番。
「MODE」の下の謎のアイコンは、交通事故や突発的な工事・規制などのメニューに入るためのショートカットボタンとなっている。
アウトバーン走行を意識されていそうな設計だ。
最高の位置にカップホルダーが2個用意される。
カップホルダーの間のスペースにシガーソケットとUSBポートを配置。非常に合理的だ。
一番奥にはスマホを挿し込んで置けるスペース。ワイヤレス充電機能はない。
様々なサイズを走行中の振動でカタカタ言わせず、強いGにも負けずにホールドするためか、やけにグニャリグニャリとする。
具体的には「スライドしたら奥に小物入れスペースがありそうなレベル」でグニャグニャする。
元々が奥まった位置にあり、差し込んでしまうとスマホの下側が覆われてしまう。
取り出すには不便。
シフトやナビの操作系が集約された中央部。
ここは全体的な質感と操作性がよろしくないと思ってしまった。
具体的に、明確に何が悪いと思ったか紹介しよう。
まずインフォディスプレイの操作系。
ダイヤルもボタンもグニャグニャとしていて操作感が悪いし、望んだボタンを見つけづらくてブラインド操作がやりづらいのだ。
全体的にボタンを押すというより、バランスボールを上から押し潰しているようなクリック間の無い押し心地なのだ。
デザインや配置そのものは悪くないと思うのだが、BMWのイメージには合っていないのではないかと思った。
またドライブモードの選択が非常にやりづらいという点も不満だ。
ボタン同士が平面にちょっと突起を設けただけのもので、しかも手前側に配置されているせいで走行中にブラインド操作ができないという仕様。
長押しをせずにオンオフが切り替えられるアイドリングストップの停止ボタンや、パーキングセンサー類は悪くはない。
しかし、この部分の上下は入れ替えても良かったのではないかと思う。
シフトは右側のボタンを押しながら一回下げるとDに入る。
左に倒すとシフトアップはGの掛かる方向に合わせたものとなっている。パドルシフトが無いのは残念。
Pレンジはボタンなのだが、押しづらい位置にあるのだ。
もう少しサクッと押せるような場所にPボタンを配置して欲しかった。
なおアラウンドビューモニターは搭載されていなかった。
淡い青色のアンビエントライティングがじわっと光る。
運転を邪魔せずに夜間も美しい車内空間を演出してくれるぞ。
センターコンソールボックス内にはUSB-Cポートが一つ。ボックス自体はそこまで大容量ではない。
ルームライトはこんな感じ。
ちなみにテールゲートは電動。
エンジンを切った後の車内では、メーター中央に車両のイラストが表示される。
書き忘れていたが、ブレーキホールド付きの電動パーキングブレーキを搭載しているぞ。
小ネタ:ETCカードはミラー内蔵
初見に対してあまりにも不親切なのだが、BMWのETCはミラー内蔵となっている。
ミラーの右側面に差し込む用の口があるのだ。
角度はこの向き。
読み込みが上手くいくと緑色のライトと共に「ETC OK」と表示される。
このディスプレイだけ2000年代前半以前のクルマのようで懐かしい。
なおルームミラー調整はバチっと角度が決まるものとなっており、ガッチリ感を演出している。
小ネタ:パーキングライトについて
軽く流してしまったが、ドイツ車には片側のポジションランプだけを施錠後も光らせ続ける「パーキングライト」という機能がある。
もちろんこの1シリーズにも装備される。
意味があるのか無いのか分からないような機能だが、軽く考察してみた。
実走行インプレッション
コンパクト(?)なサイズ感と視界性能について
前後に4355ミリ、横幅は1800ミリというサイズ感。
ギリギリコンパクトカーとして乗れるものとなっているが、立体駐車場内の窮屈なカーブだけは話が別だ。
どういうわけか、フルサイズSUVに乗っているときと同じほど窮屈に感じてしまう。
基本的には乗りやすいサイズ感だけどね。
乗り心地について
足はストローク感が小さい。
すぐゴツゴツするが不快ではない。
しかし段差が連続する区間では断続的にビリビリダンダンと揺れ続けてしまう。
良くも悪くも平均ペースが高いところを想定している。
むしろ長距離も疲れなさそう。
バンプラバーヒット時に優雅に持ち上げるような動きあり。
ハンドリング・ステアフィールについて
ハンドリングは機械的ニュートラル。ただシャープで車は道具でしか無いという感覚。
自分の意思で走り続けるようなフィーリングはなく、ちょっとしたうねりでも大きく進路を乱されてしまう。
しかし前が元気よくグイグイと入っていくためワインディングでも気持ちいい。
タイヤグリップを使い切りにいく感触が楽しめる。
ターンインの際に外側に寄せてからリアを流しに行くような走らせ方もできる。
グランツーリスモを現実世界でやっているみたい。
もっと言うと段差を超えた際のハンドルへの衝撃のフィードバックや進路の乱れ方が大きいため、正直いって疲れやすい。
ブルフラットなアウトバーンなら良いんだろうけど。
高速域でのレーンチェンジは恐怖感を伴う。
切り始めは穏やかだが、ある瞬間から急激にスピンするように真横に移動する。
繊細に乗ってやらないとどう転ぶか分からない。
総合的に見て、なんかただ機械的で生き物らしさが無い感じがする。楽しいのだが、個人的には違う。
想定するスピードレンジとメーカーの考え方の違いがあるのだろう。
ブレーキについて
ブレーキはドイツらしく初期から強いが、ゆったり踏むとズドンと揺れない。
ありえないほど制動力が強い。GT-R並みに止まってくれる。
左足ブレーキもやりやすい。
油断しているとカックンとしてしまうので丁寧に踏んでやる必要はある。
しかし街乗り領域でのフィーリングとのトレードオフは、純正パッドでも許容できる範囲に収まっている。
パワートレインについて
Eco proは走り出しが遅すぎて使い物にならない。
絶対的な加速性能自体は独断と高く無いが、気持ちよく伸びていって車速がスイスイ乗っていく。
ただアイドリングストップ関連がクソ。
ほんの一瞬の一時停止でも容赦なく作動する。ドイツは一時停止ないのか??
オフにしていても停止前にクラッチを切るような動作が入って揺れる。
それ以外の場面では酷いシフトショックが無いのでこれは高得点。
エンジンブレーキは全く効かないので長い下り坂では不安が汚る。
劣悪なアイドリングストップ機能
このBMW、アイドリングストップ作動時の振動とシステム設計が酷すぎる。
アイドリングストップが作動するたびに大きな振動がガタンと来てしまう。
マツダ車のように停止後にブレーキを踏みこんで作動するものではなくて、止まりそうになったら酷い振動と共にガタガタンと止まってしまう。
一時停止で非常に不便であり、エンジン始動時の振動・衝撃も非常に大きいためストレスが溜まる。
ボタン1つでオフに出来るのが唯一の救い。信号待ちが長そうな場面でのみオンにすることになりそうだ。
もともと燃費に期待して買うようなクルマじゃないし…
ちなみにアイドリングストップオン+Pレンジとサイドブレーキでドアを閉めてクルマから離れると、自動でシステムをオフにする機能があるようだ。
再発進する際はスタートボタンを押してやる必要がある。
煩わしいが切り忘れ防止にはなる。インロックに注意したいところだ。
超高速走行時のフィーリングについて
明確には言えないが、設計速度の違いがハッキリと現れるような速度域で走ってきた。
鈍重なSUVならタイヤが暴れまわってしまうような段差を超えてみる。
このBMWはそんな段差が元から無かったかのように足回りが動く。
というか、ガタンと乗り越えてもアシが動く間もなく収まっているような感覚。
かといって、ショックアブソーバーの減衰の縮み側をギチギチに締めているという動きとは少し違う。
ある程度はアシを動かすのだが、動き出しと同時に不安定感に繋がるような動きを収束させるようなセッティングになっているようだ。
この動きを裏付けるのがリアのサスペンションアームの長さだ。
安定性のためにはアシの動きは徹底的に抑えてやる必要がある。
そのためにこのBMWは、サスペンションアームの付け根にあるブッシュもショックアブソーバーの一種として考えているように感じた。
具体的にはブッシュの角度で言うところの30~40度程度動いたあたりで、もうショックアブソーバーを縮めて来る入力は完全に収束させてしまう。
しかしアームが長いので、限られたアームの稼働角でもアシのストロークが長く確保される。
これにより安定性と快適性が両立されるのだろうと思った。
おかげで何km/h出しても不安な感触が一切出ない。
路面に吸い付くような安定性がどんな速度でも持続してしまう。
タイヤグリップもしっかりと高めで、完全にニューラルという訳では無いがコーナーをスイスイと曲がっていく。
乗っていても苦しい感じがない。
名古屋の都心環状は色々な車種で走ってきたが、その中でも最も速く、最も不安感が無い一台だった。