購入者の99%が生涯の99%をアスファルトで終えるのに、車の設計が本格オフローダー過ぎて乗り手に苦痛を強いる。
そんな割り切りと我慢と後悔にまみれたファッション車ジムニーのラインナップに颯爽と登場した5ドアバージョンのノマド。
たった340mmだが、これはジムニーの苦しみを知る者にとっては果てしなく大きな340mmだ.
※私が今回乗っていくのは日本で正式に発売されたジムニーノマドではなく並行輸入モデルだ。
基本的には同じクルマであるが、リアフォグやナビなどの仕様や使い勝手が日本で買えるバージョンとは異なっていることもあるだろう。
冒頭のまとめ
ホイールベース延長の効果はみんなが思っている以上に大きい。
高速道路に上がっても70km/h台で走行車線を走るしかなかったところが、追い越し車線に入って瞬間的に120km/hくらい出せるようになったのである。
市街地や高速道路を走る上では拷問車でしかなかったジムニーが、“ちょっと乗り味と使い勝手が気になる”程度で収まるようになったんだぞ!!!!
速くはないし上り坂で失速するが必要最低限の加速力を持ち喚かないエンジン。
相変わらずクセは強いが慣れれば普通に乗れてしまう。
乗用車の括りに入れられるレベルまで改善した乗り心地やハンドリング。
前後に長くなったぶん小回り性能は悪化したが、この延長により信じられないほど多くの恩恵を得られた。
日本で乗るジムニーとしてはこれがベストだろう。
いま3ドアを持っている人も、過去にジムニーの乗り心地でギブアップした人も、乗り換えを検討していいレベルの乗り味となっている。
あくまで3ドアのジムニーと比較して格段と良くなったという話であって、300万円相当のクルマだと考えると相変わらず快適性や使い勝手に難はある。
見た目にこだわりがない限り、同じ300万円なら素直にヤリスクロスのハイブリッドを買った方が幸せになれるということは言わないでおこう。
外観
当たり前ながら3ドアモデルのジムニーと全長以外の外観の違いはない。

前後に間延びした印象が強いためスタイリングでは従来の3ドアに軍配が上がるだろう。
もしこの間延びした姿が気に入らなくて購入を躊躇っているなら「すぐに慣れる」とお伝えしておこう。


どうでもいい話を挟むが、ジムニーはハンドルの要求回転量が多いわりに低速域でのハンドルが重い。
写真撮影のためにフロントタイヤをめいっぱい切ろうと思ったら一苦労することになる。

ジムニーはやはり大自然が似合う。

エンジンルームはスッカスカで整備性が最高だ。

内装

5ドア仕様自体がジムニーの最上位バージョンということだからなのか、公式サイトを見るとジムニーノマドのグレードは1つのみ。
レザーのステアリングやクルコン、AppleCarPlayカーナビ、フォグランプにLEDヘッドライトなどが標準搭載される。
プッシュスタートのスイッチは右奥。
ヘッドライトウォッシャーを装備するが、LEDライトなので雪が溶けるかどうか不安である。

ディスプレイオーディオが付いている。Apple CarPlayにも対応しているがナビがすぐ非表示にされるという不具合に遭遇。海外向けの個体なので多少の不具合は仕方ないか…

エアコンやパワーウィンドウまわりのスイッチは従来モデルと同じ。


ストレート式のシフト。ギア同士はハッキリと分かれているので間違いづらい。
4ATだがシフトノブ右側の「O/D(オーバードライブ)オフ」スイッチを押すと3速以下を指定できるので、パドルシフト非搭載だがすべてのギアを手元で選べる。

リアのパワーウィンドウスイッチは左手前の地点にある。

クルコンが装備されるのは非常にありがたい。
追従機能はないが無いより遥かに良い。
しかし現在の設定速度が何km/hなのかわからない点は不満である。意図せぬ急加速の原因になるため修正を望む。

アイドリングストップについては停止した後に奥底までブレーキを踏み込むことで初めて作動するためストレスがない。
エアコンの効きについても非常に良く、アイドリングストップ中でも冷たい風は出続ける。
どうでも良い話として、ワイパーの通常モードの速度が遅いという不満がある。
市街地などの視界確保が大事となる場面では普通の雨でも視界が遮られがちになり最速モードを使うことも。
その割には間欠作動の間隔を決められる。
二列目の居住性
流石にミニバンやミドルサイズセダンほどの快適性はないが、普通に座れる二列目になった。

一段階のみだがリクライニングも搭載しており、日常の移動でも特段と問題が無いレベルである。
静粛性とオーディオ
ジムニーに静粛性なんて誰も期待していないだろうが、実車は思っていた以上に優秀だ。
エンジン音はスポーツカーのように元気よく響いてくるため不快には感じず、ロードノイズも実用上充分な遮音がなされている。
元の期待値が低いだけに、意外にも快適なレベルで保たれている遮音性には驚かされた。
しかし雨が降るとザーザー音がうるさい。
なおスピーカーについても普通に聞く程度なら全く問題がないレベルの音量や鮮明さを持ち合わせている。
遮音においても音響においても、あなたがマニアやDIY好きではないならば購入後に追加で何かを施す必要はないだろう。
仮眠・車中泊適正について
時間や借りた車両の都合上、運転席を倒して合計20分ほど仮眠しただけであった。
車中泊できるか検証するだけなら自分がやる必要はないし…
さて運転席のシートはそこそこな角度まで倒れてくれるが、ちょうど首や頭が当たるあたりが硬いためあんまり快適に寝られない。
ちょっとした仮眠で疲れと眠気を和らげる程度にしか使えない。
車中泊については検証しなかったが、心配は要らないと思う。
従来の3ドアのジムニーで車中泊をしている人が数多くいる。
そこからさらに340mmも前後に延長されているのだ。
二列目が邪魔なら外してしまっても良い。
人気車なので車中泊関連のノウハウやキットは問題なく出揃うだろう。
価格・スペック・諸元など
先ほど申し上げた通りジムニーノマドはグレードが1つだ。オートマとマニュアルの違いのみ。マニュアルのほうが少し安い。

実走行インプレッション
取り回し
延長されたとはいっても所詮は全長3890mmなのだが、数値以上に小回りは効かない。
それもそのはず。最小旋回半径が5.7メートルもあるからだ。
これはCX-60やアウトランダーのような一部のフルサイズSUVよりも悪い数値である。
駐車場の中で回っていてもクルマが膨らんでいくのを感じるぞ。
前輪の切れ角が足りない、ハンドルの要求回転量が多い、低速域でハンドルが重いの三重苦と合わさって、駐車場やUターンなどの切り返しの場面では少し体力を消耗することになる。
しかし幅は1645mmしかないため狭いところでのすれ違いに苦労することもなく、駐車マスにもスイスイ入る。
パワートレイン
ノンターボの軽自動車以上軽ターボ未満程度の加速力は持たされており、街乗り程度ではエンジンもそこまで唸らない。
前が開けたタイミングで加速して速度を乗せる場面ではエンジン音が響いてくるが、これくらいの音は小排気量の自然吸気エンジンでは全く珍しくない。
むしろスポーツカーのような元気の良い音が響いてくるので楽しめる。
トランスミッションからのメカニカルノイズも抑えられており乗用車感が高い。
平地では高速道路上でもそこまで加速力に問題が無いが、上り坂になると途端に失速する。
ATモデルはギアが4速しかないというのも問題だ。
3速4000回転・アクセル開度80%くらいで踏んでも踏んでも加速しない感を味わうか、2速5500回転・アクセル開度MAXで2秒間だけレッドゾーンまでブン回してまたすぐ3速に上がるかの2択を迫られる。
まぁ4段しかないおかげで、シフトノブの「O/Dオフ」ボタンを押すと3速に入れられるし、シフトノブを下に「2」「1」と入れていけば全部のギアを選択できるわけだが…
ストレート式シフトのDと2速の間が明確に区切られているため、走行中でも堂々とDから2速に落とせるのが救いか。
ちなみにDに戻す際に行き過ぎてしまっても、ボタンを押さなければNで止まる。
そこからアクセルを踏まずにDに戻せばそのまま復帰できるぞ。
120km/hを超えるとアラームが鳴る、4速AT、エンジンルームスッカスカという3つの90年代要素を持ち合わせている。
ブレーキについて
ブレーキを半分くらい踏まないと制動力が立ち上がってこないため、慣れるまではかなり戸惑う。
ハンドリングにもブレーキにも独特の”間”が存在するため、慣れるまでも慣れた後も無理ができない。
数時間も乗っていれば慣れるし、ブレーキングを追い込んで走るようなクルマでもないのでこのことは無視しても構わない。
ハンドリング
ステアリングはボール・ナット式だ。
ステアリングを30度切るまでの領域がスカスカで、トラコンを切りながらFF車で雪道を登ってるのかというレベルで反応がない。
そこそこ流れの速い田んぼ道を70km/hオーバーで走ろうとすると、ただの直線でも結構な修正舵を要求される。
いまハンドルをどのくらい切っていて、クルマがどの方向に行こうとしているのか非常にわかりづらい。
そのうち慣れるけど…
またステアリングレシオも遅く、多めにハンドルを回す必要がある。
カーブに入る際は早いうちから多めにハンドルを回そう。
一旦コーナリング姿勢を作ってロールを収束させてやれば、安定した姿勢のまま曲がって行ってくれる。
一旦旋回モードに入ると動きは悪くない。
だが旋回中に段差を超えると高重心なグラついた動きが出るため無理は出来ない。
あくまで田舎道をつっかえさせない程度のペースで走れるといったレベルだ。
交差点を曲がるためにたくさんハンドルを回さねばならず、曲がり終わった直後はハンドルを戻すのに一苦労だ。
また交差点を曲がり終わった際の戻る動きも遅く、自分で意図的にハンドルを操作しないといけない場面が多い。
これらのハンドリングの弱点は従来のジムニーからあまり変わっていないかもしれないが、注意して乗ればクセが強い程度に収まるとも言えなくはない。
クルマの特性を踏まえた適切なペースで走ろう。
乗り心地
ジムニーと聞いてイメージするほど悪くは無いが、もっと乗り心地の良い車はいくらでもあると言ったところ。
強い衝撃を受けるとダンッと真上に飛び上がってしまうような動きが出るが、全体的に良好な範囲に収まっている。
乗用車的な乗り心地を手に入れていると言っていい。
しかし風や路面のうねり方、走行ペース次第では腰高ラダーフレームゆえのイヤな動きが出ることがある
運転席の足もと、ちょうど車体の底面を前後に伸びるラダーフレームが左右にねじれ、グニャグニャとクルマ全体が揺さぶられるような動きを感じるのだ。
状況次第では50km/h台でもこの感触が出てくる。
別に走行にはなにも問題ないんだけど…
走り出して数分の時点でちょうどこの路面を通過したため「この安定性に300万円も出すのか…」と思ってしまった…
しかし多少の揺れなら足周りのストロークで吸収してくれる。
体もそこまで揺さぶられず、ボディにもあんまり衝撃が入ってこない。
一定以上の強い衝撃を受けた場合に大きく動いてしまうが、全体的に許容できる範囲内であると言って良い。
高速道路
ホイールベースを伸ばすと直進安定性が上がるというのはクルマの基本だ。
これはジムニーノマドのアピールポイントでもある。
失礼ながら私は「どうせ公式が売り文句として言っているだけで、たかだか34センチ伸ばした程度で車の特性が変わるわけない」と思っていた。
以前3ドアバージョンに乗ったことがあるのだが、あれを10%ほど伸ばしたところで特段と良くなるとは思えなかったからだ。
しかし高速道路における実車の安定性は驚くべきものであった。
80km/h制限の高速道路を120km/hで走れるレベルなのだ。
レーンチェンジ直後は30°切るまで無反応はハンドルのせいで怖い。
しかしアクセルを踏めば110km/hほど出ていても普通に加速していくし、そんなに左右にフラつくこともない。
昼間のほどほどの追い越し車線の巡行なら乗っていくこともできるレベル。
強い風が吹いたり、前のクルマが120km/h以上で加速していったりすれば付いていけなくなるなるけどね。
(ついていけないというか、その先のペースにこんなクルマで付いていくようなバカは生きていてはいけないというべきだろう。)
さすがにトンネル出口では横風が怖いし、そこそこな風が吹いている区間では無理にアクセルを踏む気は起きない。
しかし、い~~~っつも高速道路の第一車線を70km/h台で走るしかなかったジムニーに追い越し車線を110km/h台で走る選択肢が与えられたのだ。
(ジムニーの110km/hで余裕っていうのは、プリウスにとっての160km/h台と同じくらいの話)
再加速も遅いし直進性に余裕がないため、個人的にはジムニーノマドは追い越し車線を詰まらせる側のクルマになるんじゃないかと懸念しているけど…
というか、このクルマで高速道路の追い越し車線を走っていて煽られたならジムニー側の運転に問題がある場合が大半だろう。
後ろから車が来ているような場面で追い越し車線に立ち入るのはやめたほうがいい。
スピードが出やすい割には高重心でハンドルセンターもスカスカであるため、横転して吹っ飛んで事故りそうである。
1~2年後のゴールデンウィークで、中央道で誰かしらが盛大にやらかしてニュースに出演することとなりそうだ。
クルコンも付いているので、新東名の真ん中のレーンを115~120km/hで周りに合わせて走ることもできるだろう。
ジムニーノマドをゲットしたら、高速道路で人権を感じて欲しい。
インターネットの普及により私たちの心から人権意識が失われ、失政により日本国民が家畜と化したこの戦乱の世の中で恵みを感じられるぞ。
動画制作用メモ
この先はジムニーノマドの動画を作るためのメモだ。
ーーーー意外な不満
カップホルダー
車中泊
ドアロック
エンジンブレーキ
小回り ハンドルも重く要求回転量も多い
ーーーーー90年代要素
ーーーー高速道路
※ありとあらゆる経験値があった上で、安全マージンをたっぷりとった上でやっている。
「あ、そうなんだ、ジムニーノマドは高速道路で120km/h出せるんだ!よくわかんないけどとりあえずふんじゃお!」みたいな状態の人は真似してはいけない。
ユーチューバーの特性上、煽ってしまうようなコメントとなった点は反省している。