レクサスの高級SUVであるRZを24時間借りて、千葉県の房総半島を観光しつつあちこち走り回ってテストしてきた。
冒頭のまとめ
先進性を感じられる斬新なデザインや各種装備を持つ、サイズ以上に扱いやすい名車だった。
WRX STIに勝るレベルの加速力と恐ろしいほどのコーナリング性能を持っており、頭文字Dで言われている「コーナー2つでバックミラーから消す」を本当に実践できるほどの高性能。
2トンを超える車重がある割には全くアンダーも出ずにタイヤグリップで踏ん張り、シャープな走りをとことん追求することができるスーパースポーツカーでもある。
それと同時に街乗りも快適にこなせる懐の広さを持つが、電費が悪くバッテリー容量のわりに航続距離が伸び悩む印象。
また内装の質感も「素材の再利用を重視した」と言えば聞こえはいいが,880万円のクルマとしてはプラスチック素材の利用が目立ち高級感を感じづらい。
中国EVと戦うには内装の質感も静粛性もオーディオも足りていない。
また街乗りフィールもレクサスらしい特別感は正直言ってない。ただ乗りやすいだけだ。
どうでもいい話として、車内に突き出した二列目格納用の金属金具に思い切り頭をぶつけてしまった。
数日経ってもズキズキとした痛みが治っていない件については恨んでいる。
外観・デザイン
ネットで画像を見たときは酷いデザインだと思ったが、いざ実物を見ると上品でカッコよかった。
写真で見るとダサい系のクルマ、いつもいつも損している。スープラしかり、レイバックしかり…
↑この色とこの画像、正直言ってカッコよく見えないんだけど…
そんなイメージは実物の前に覆されることとなる。
サイズが大きく、レクサスの象徴であるスピンドルグリルを押し出したデザインを持つ。
駐車場に停めていても存在感があり、レンタカーではあるが満足度が非常に高かった。bz4xでは感じなかったタイプの所有間である。
横幅は1895mmミリもあるため、狭い駐車場だと出入りには苦労するだろう。
1895mmの横幅に加えてドアも分厚い。
空力優先で寝かされたルーフ。
スポイラーのように引き延ばされたテールランプ部がヨットのような伸びやかなスタイリングを実現している。
ボディ造形とは独立するように左右に貫いて配置されるテールランプ。
従来の自動車とは丸っきり異なるデザインであり、個人的には良いこだわりだと思う。
真下から見上げれば力強さがある。
私は特大サイズのSUVは取り回しの悪さゆえ基本的に好まないが、RZは素直に好きになれる。
ウインカーや後退灯は非常に小さい。レクサスのEVらしい先進性を感じる要素ではあるが、小さいところが鋭く光ると後続車は眩しい。先代NXのブレーキランプのようになっていないことを祈る。
バンパーの樹脂が思いっきり白ボケしている…
ホイールボルトを採用。整備性を犠牲にしてまで剛性を優先しているが、走りのガッチリ感には凄まじいものがある。小さいことの積み重ねた効果は確実に出ている。
ちなみに正面のレクサスエンブレム、充電中に光るぞ。
特に夜間に凄まじい存在感を誇る。
ドギツすぎる気はしないでもないが、所有間を大きく高めてくれる要素だ。
給電口のフタが閉まらない問題
どういうわけかこのRZ,給電ポートのフタが閉まらない。
致命的に閉まりづらいというリコールになってもおかしくないレベルの不具合に遭遇している。
何度押しても無駄。そのまま走り去ろうとするとメーター内に繰り返し警告表示が出る。
おそらく本体の鍵がロックされていることや、システムのオンオフが関係しているのだろう…
内装
First Editionのバッジが誇らしい。
特別なクルマに乗っている感が増す。
bz4xと比べると内装の質感はかなり高められており、EVとしてのリサイクル素材の利用こそあるがフィーリングの良い車内空間となっている。
ところどころプラスチックやピアノブラック素材などのコストダウン要素がないわけではないが、全体的な質感は高いと言える。
800万円台のEVとしては、内外装と走りの質感、その総合バランスは実は結構良いと感じた。
ステアリングスイッチは表面にセンサーがついているが、正直言って普通のボタンのほうがよかった…
選曲ボタン押しても無視されたり、クルコン作動中はメーター内の情報表示を切り替えられなかったり…
すぐ慣れるし、この車の魅力を踏まえると大した問題にはならないけど…
bz4xと同じシフトだが、メタルリングになっている。
センターコンソールは二階建てだが、グローブボックスが無い点はbz4xと共通。
クルコンの復帰操作が特にわかりづらい
トヨタと共用の例のナビだが、起動直後は地図の読み込みが追い付かず手の操作に対しても大きなラグが発生する。
ドアはEVらしい再利用素材であるが、そのぶん簡素で高級感は他車に一歩譲っている印象。
私は別に悪いと思わないが、見栄と高級感で車を選ぶ人は素直にRXを買うだろう。
夜間にはアンビエントライティングが入る。
この模様が本当に本当に美しい。
カラーラインナップも豊富であり、いろいろな好みに合わせられる。
サングラスホルダーがついているが、小さすぎて普通のメガネすら入らない。
完全に使い物にならない。
ガラスルーフ
本車に搭載されるガラスルーフはワンタッチでクリアな視界を得られる。
東京タワーのようないろいろなスポットの下で最高の景色が楽しめるのだ。
それは市街地の芸術的な建物かもしれないし、紅葉かもしれないし桜並木かもしれないし、星空かもしれない。
ガラスルーフによる解放感は二列目の乗客こそ楽しめる。
静粛性とオーディオ
ドアパッキンやフードの一面のシール、インナーフェンダーの素材などの努力が見られる。
高速道路でスピードを出してもbz4xよりは比較的静かだが、BYDシールの静粛性を知っている私からすると遠く及ばない。
オーディオについても純正だと考えるとかなり良いものがついている。
二列目の居住性
車体サイズがデカいだけのことはある。二列目はしっかりと広く、普通に快適に乗れる。
シートヒーター、左右の送風口にUSB-Cポートに加えて1500WのAC100Vコンセントもある。
ここに電源があれば掃除機もパソコンも使い放題である。
車中泊適正(とある機構のせいで後遺症が残る大ケガをした)
4.8メートルもの車体サイズとフラットな床面のおかげで快適に眠れるスペースがある。
EVなのでガソリン浪費やアイドリングによる排ガスまき散らしも行わずに空調を使える。
しかし床が岩盤レベルで硬いため、これを無効化できるクッションは必須である。
私は寝袋一個を持ち込んで合計6時間ほど仮眠したが、硬い床がしんどかった。
真冬の寒さは特に気にならなかったが、ちょっとだけホームレスになった気分だった。
さて二列目を起こした際に固定する金属製のフックが飛び出しており、仮眠から起き上がる際に頭を思い切りぶつけた。
数十秒身動きが取れないほどの痛みで、その後数時間にわたってズキズキとした痛みが続いた。
数日たった今でも頭の中が痛いし、脳みその内部が物理的に破壊された感触もある。
自分の不注意が悪いのと、このクラスの車で車中泊をする人も少ないので意味があるのかわからない話だが、車内に飛び出した二列目格納用金具は自動車の明確な欠陥である。
スペック・諸元
新車価格940万円のRZ450eファーストエディションである。
公式サイトの諸元表を貼っておく。
https://lexus.jp/models/rz/pdf/specificationslist.pdf
実走行インプレッション
EVとしての使い勝手
「バッテリー残量のパーセント表示がない」
「充電中に何kwの出力が出ているか表示されない」などなど、
bz4x譲りの使い勝手の悪さを受け継いでいる。
長距離による電費悪化と合わせ、長旅の計画は立てづらいだろう。
取り回し
意外なほどに乗りやすく車体がコンパクトに感じる。
もちろん数値・物理的には1895mmある。
狭いところではかなり気をつかうし、最小旋回半径が大きすぎて曲がりきれないこともある。
路肩に停める際、左を縁石に当たるスレスレまで寄せる。
しかし右側にかな~りはみ出す。普段乗ってる1760mmのコンパクトカーと比べて2~3回り大きい。
ドカンと圧迫する。
運転性が非常に良いので走行中に1895mmの横幅を恐れる必要はない。
しかしクルマを停めることに対しては気を遣うことを覚えておこう。
終わってる小回り性能について
本車の最小旋回半径は5.6メートルであり、全長は4805mmである。
これだけ聞くと大型のSUVとしては平凡な数値であるが、小回りが全く効かない。
駐車場内での切り返しにも一苦労。めいっぱいのサイズ感である。
↓この左カーブでちょうど対向車が来たが、フルでハンドルを切って左に沿って徐行したのに曲がり切れずにぶつかりかけた。
運転性が抜群なので大したストレスにはならないが、小回り性能についてはRZを運転するうえでぜったいに忘れてはならない注意点である。
街乗り編
4805mm x 1890mmというサイズは使い物にならないのではないかと思っていたが、いざ乗ってみると恐ろしいほどに運転がしやすい。
センターラインがある道では一度たりともすれ違いが大変だと感じたことはなかった。
狭い住宅地ではさすがに物理的なサイズが効いて余裕がなくなるが、視点の高さや車幅の掴みやすさでスイスイと走っていける。
狭いところでは最小旋回半径が足りずにつっかえることもあるが、立ち回りでカバーできる範囲内だ。
最小旋回半径は5.6メートルらしいが、この数値を見たとき「ウソだろ絶対5.9メートル以上あるだろ」と思ってしまった。
さて乗りやすさという面ではピカイチだが、はっきり言って走行フィールには特別感がない。
ガソリンモデルのような緻密に組まれたエンジンは味わえず、足回りはありきたりで特筆するようなポイントがない。ハンドルも街乗り程度ではただスムーズなだけ。
パドルシフトで回生力をコントロールできる機能は神がかっている。
一番弱い設定は空走。つまりニュートラルで流すことができる。
クルコンに頼るほどでもない微妙な状況で速度を維持したまま流せるぞ。
最大まで引くとワインディングアタック時にも黄色信号への停車でも、速い交通の流れにも対応できるほど強い減速Gが出せる。
このパドルシフトのおかげでブレーキペダルを踏む頻度は最小限で済んだ。
日産のe-Pedalとは違って常時回生力の強さを意のままにコントロール可能。
他社のパドルシフトと違ってしっかりと使い物になる。
前走車に合わせて自動で回生ブレーキの強度を調整してくれる機能もある。
運転フィールには特別感がないと言ったが、レクサスのSUVを上品に操っていると優雅な気持ちにはなれる。
【速すぎ】ワインディングアタック編
このレクサスRZはWRX STI並みに速い。
言われても信じないだろうが、これは私が実車で確認した事実だ。
踏み込むと炸裂する圧倒的な加速力に、2トンある車重をしっかりと受け止めてくれるタイヤ。
この2つを使い切っていけば光の速度でのワインディングアタックが可能。
ハンドルは前がアウトに逃げることもなく気持ちよく切れていき、サイズや重量からは予想もできない身軽さでスイスイと旋回するぞ。
ゆったり走るクルマを安全な直線で抜き去って気持ちよく走れば、2個目のカーブを抜けるころにはさっき抜いたクルマはどこかへ消えている。
SUVでもこういう走りができる時代が来たのかと感動させられる。
ディズニーランドで乗ったジェットコースターに乗った際に味わったものと全く同じ疾走感。
高速道路編
ハッキリ言うとこのRZ、電費が非常に悪い。
ただですらbz4xは高速走行時の電費があまり良くないと言われていたのに、RZの4WDモデルはこれに輪をかけて悪い。
71.4kwhという比較的大きめのバッテリーを搭載しているが、この電費が足を引っ張って航続距離は400kmも越えられないだろう。
特にスピードを出していった際の電費低下は著しい。
高速道路を長時間走るなら、電費のために巡行スピードを最大110km/h程度に落とすしかないだろう。
せっかくの加速性能を活かせないのだ。
追従クルコンやステアアシストがあるので運転は比較的ラクだが、クルコンをオンにしている最中はメーター下のインフォディスプレイを切り替えられないという仕様は不便である。
表面にタッチセンサーがついたステアリングボタン、機能が大して多くないわりに押しても反応しないことがあり使い勝手は最悪。
2012年ごろから売られていたBMWに搭載されていたものと全く同じ仕組みなので新鮮な感触も先進性もなく、ただ不便なだけなのだ。
ハンドリング
軽くて扱いやすいハンドルだが、追い込んでいくと恐ろしいほどんの旋回性能を発揮する。
車重の割にはタイヤが踏ん張ってグイグイと曲げて行ってくれる上にアンダーステアも出ない。
段差を超えた際は車重のせいか足が暴れそうになるが、スパッと抑えて突き進んでいく。
各所の強化パーツが効いてダルみのないシャープな乗り味が実現した。
甘いところがないわけではないが凄まじい総合点である。
正直言って感動した。翼を手に入れた気分であった。
アクセルを緩めただけでノーズがインに向くような過激さはないが、追込みに対する応答性が圧倒的で恐ろしいコーナリングスピードを実現可能。
しかしコーナーへの飛び込みについては車重の重さを感じるところである。
もともと奥まで踏まないと制動力が立ち上がってこないのだが、加速性能に対してストッピングパワーが不足気味。
よく考えずに踏みまくっていると止まれなくなってしまいそうだ。
ブレーキングを終えぬまま旋回を始めてしまうと酷いことになりそうだ。
乗り心地
少しのストロークの後にゴツんと入ってくるこのセグメントのSUVでは定番の乗り味。
普通すぎてどうコメントするか迷うレベルだ。
ダンパーのストロークだけで揺れを吸収してくれるような動きもあれば、ゴツンとフレームに気にならない程度の衝撃が来ることもある。総じて乗り心地は良好。
段差が多いガタガタな場所ではあちこちに揺さぶられてしまう。
パワートレイン
さすが313馬力。凄まじい加速力を誇る。
街乗り領域では普通なのだが、踏み増していくと突然底知れぬ強大な加速力で前方へと射出される。
あまりのトルクにタイヤが路面を掴み切れず、滑りそうになる感触を味わいながらベタ踏み。
スポーツモードも存在するが、私はちまちまモードを切り替えずにノーマルモードのままベタ踏みして走った。