まずは、以下の短い動画を見てみて欲しい。
これは、直6を積んだスープラのRZと、直3のコペンのエンジン音を比較する動画だ。
得にコペンのトップエンドの音の出方が、スープラに酷似しているのを感じ取って頂けるだろうか?
「GR」の名を冠するに相応しい、コペンのイメージが一変するほど刺激的な中身を、しっかりレポートさせて頂く。
試乗車のスペックについて
トヨタから売り出される「COPEN GR SPORT」には、グレードの区別は無い。
あるのは、5速MTかCVTか。この二択だ。もちろん今回乗るのはCVT。
両者の新車価格を比較すると、CVTは約238万円。5MTは約243万円だ。
なお、ダイハツのほうのコペンの最廉価グレードは、約188万円から購入可能となる。覚えておくといいだろう。
今回はトヨタ様のGazoo Racingの公式サイトから、諸元を紹介する
- サイズは3,395/1,475/1,280ミリ
- 車両重量は870kg
- 最小旋回半径は4.6m
- エンジンは658ccの直3ターボ
- 最大出力は6400回転で64馬力
- 最大トルクは3200回転で92Nm
- タイヤサイズは前後とも「165/50R16」
- FFのCVT
ちなみに、一つの留意点として、「エンジン音がうるさい」のだ。
そのぶん官能性やパフォーマンスの面にメリットがあるが、私のような夜行性ユーザーには、純正マフラーでこれだけの音量が出るのは勘弁して欲しい…
公式サイトを調べても音量が見つからなかったので社外マフラーの「フジツボ」さんからの引用になるが、アイドリングで60デシベルだ。ウソだ。ぜったいもっとうるさい。
トップエンドでは88dBと、「軽自動車コペン」とは思えないほど大きな音が出る。
外観について
GRのコペンなんて、意識して見る機会が無かった。
改めて実物と対面すると、まず「小さい」と感じる。
それもそのはず。
全長は3.4メートル未満だし、横幅は1.4メートル程度。全高だって、1.3メートルもない。
現代車としては驚くほどのコンパクトサイズだ。
また、外観のデザインを、「かなり本格的に作ってあるな」とも感じる。
象徴的なのが、GR印のフロントバンパーだろう。
ただの軽自動車では無いということを、静かに主張している。
リア側はまさにコンパクト。ぶっといマフラーが特徴的だ。
ルーフがカーボン柄になっているのが面白い。
BBSのホイールもなかなかにイカつい。これはリアのドラムブレーキだが、赤色に装飾されているようだ。
フロントはベンチレーテッド式のディスクブレーキ。しっかりと効いてくれる。
また、小ネタにはなるが、ドアノブのボタンを押すことで、ドアの開け締めが可能だ。
内装について
いよいよコックピットに乗り込んでいくが、かなり本格的に作られているのを感じる。
わずかに安っぽさはあるが、カッコ良い仕上げだ。
乗り込んで見るとまず思う。「むっちゃ狭い」と。
私は体格としては小柄なほうなのだが、それでも窮屈に感じるサイズ。
ヘタしたらS660以上に狭いくらいだ。
個人的にコペンは、「S660と比較したら実用性がある」と思っていたが、撤回する。
普通に狭すぎる。助手席を荷物置き場専用にして、車体の小ささを「取り回しの良さ」と捉える。
車内休憩が必要な長距離には行かない。そういう割り切りが必要だ。
また、内装の作りもとてもシンプルで、抑えられた新車価格と、「走りのクルマであること」を感じさせる。
マイカーとして絶望する要素は、「シートのリクライニングのできなさ」だ。
仮眠のために倒そうにも、すぐ後ろが引っかかる。
シートを前に出してスペースを確保すると、そのぶん足元が犠牲になる。
実質的に一人乗り専用だろう。二人乗ったら、カバンの置き場所にも困るレベルだ。
トランク?まあ使い物になるだろうが、現状のEVオーナーの「長距離は余裕」発言に近いものになるだろう。普通に狭くて苦しい。
最近は実用性とスポーツ性を兼ね備えたクルマも多いので、「ここまで苦しい思いをするか」と思わされてしまった。
さて、この新車価格で目に見えないところにしっかりコストを掛けたことと、スペースが限られた中でオープンカーであることが相まって、車内空間はかなり独特だ。
まず目につくのは、シンプルを極めたエアコン操作盤だ。
それも、カーボン柄でそこらじゅうが装飾されている。
普通に使えるのだが、クルマのエアコンというよりなんかの設備のコントロールパネルみたいだ。まあエアコンなんて、効いてくれれば何でもいいだろう???
さて、放置運用メインのカーシェア車ということもあって、車内が汚れている点は目を瞑って頂きたい。エアコンパネルのすぐ下に、シガーソケットが来る。
シフトノブのパネルは完全なるプラスチックで、シフトポジションの印字すらない。
型取りの際に、文字も掘ってしまうという思い切りの良さ。
ちなみに、CVTを多段式として動作させるモード付きで、パドルシフトで操っていくことが可能だ。
サイドブレーキの部分もプラスチックで樹脂樹脂しており、パワーウィンドウと、シートヒーターと、おそらく電動開閉の屋根のスイッチが集約されている。
最初に意味不明であったのが、センターコンソールの収納だ。まず開け方がわからなかったが、運転席側にノッチがある。
開けてみると、トランクのリリースボタンだろうか?
隠されている。
その後ろにはカップホルダーも見られるが、どこまで使い物になるのか、私にはなんともいえない。
その後ろにはネットがあり、車内で唯一、まともに機能していそうな収納だ。
その上側には、屋根を開けた際に風の巻き込みを抑えてくれるであろう板がダイレクトに置いてある。
いま乗っているのがオープンカーであることを感じさせる。
さて、中央に戻ってこよう。
カーナビは、KENWOODのものが装着されていた。
かなり目につくカーボンパネルに、左右対称に配置されたハザードとプッシュスタートスイッチ。
エアコンの送風口は中央に一つしか見えない。
二人で乗るならもう少し快適な車種を選べばいいと思うのだが、取り合いになるかもしれない。
ステアリング左側には簡易的なオーディオ用リモコンが付く。
ハンドル右側に、ミラーの角度調整やらアイドリングストップやら、電子制御のオンオフが隠れている。最初は見つけきらず「ミラーは角度調整が出来ないタイプか」と勝手に思いこんでしまったのは内緒だ。
ドアパネルも簡素そのもので、給油用のカード入れが、申し訳程度にネットに放り込まれている。
幸いにもほどほどの深さがあるため、開け閉めの際に落ちたりはしないと思う。
また、グローブボックスのノブの配置が良いとは言えず、暗いところでは取り出すのに難儀する。
ルームランプなんて、私が見てきた中での最小サイズだ。かなり面白い造りをしている。
ちなみに、またどうでもいい話になるが、公式サイトに書いてある「チルトステアリング」。
コレ実は、前後方向には調整できないのだ。
シートを前後に動かすことで最適化するしかない。まあ大した問題ではないが。
実走行インプレッション
さあエンジン始動だ。「軽自動車のコペン」というイメージは、「うるせぇ」と思わされるほど大きな始動音と、本格的なコックピットの前に消える。
本当にコールドスタート時のアイドリング音がうるさい。
スープラRZもそうであったが、純正でご近所迷惑レベルなのは本当に勘弁して欲しい…
私自身、コールドスタートがうるさいというだけで、購入検討の選択肢から外れかかっている。
大してパワーも変わらないクセに音ばかりうるさくして、何になるというのか。
だが、「うるさいクルマが好き」という、モリゾウ社長の魂が、このコペンというクルマに宿っていること。これを始動するだけで感じ取れた。
これは走りに期待できそうだ。
まだ動き出してもいないのに、本格的な内外装と、威勢の良いエンジン音を前に、私の「コペン」というイメージは崩れ去っていった…
さて、走り出して行こう。
大きな排気音と、地面に近いコンパクトな車内空間、クリーピングで強めに前に出る挙動が、スポーツカーらしさに溢れている。
「コペンってこんなに本格派のクルマだったのか」
と、動き出して数秒で驚かされる。S660の無限RAに乗ったことがあるのだが、あれ以上に本格的だ。
内装のミシミシ音&「ヤバさ」について
私は何台か、そこそこ年季の入った車種に乗っているが、そういう車に乗ったことがある人なら分かるだろう。
「このクルマ、なんかヤバそうだぞ?壊れそうだぞ?」という感じ。
特に、屋根のミシミシ音が酷いのだ。
ただ、忘れないで欲しい。「これはカーシェア車である」と。
つまり、「前に乗った人が屋根のロックを適切に出来てなかった説が濃厚」なのだ。
ちなみに撮影車は6.8万キロと、軽ターボだとしてもまだまだ余裕の距離だ。
事実、エンジンや足回りは現役で、特に劣化があるとは感じなかった。
ただ、オープンカーに拘りが無い人がオープンカーに手を出すのは、お勧めしづらいなあと感じてしまった。
パワートレインについて
870kgの車両重量に、3200回転で92Nmを出すターボエンジンということで、出だしはそこそこ軽い。
だいたい80km/h以上から踏み込んでいくと所詮は64馬力の軽自動車で、正直そこまで速くはない。
だが忘れないで欲しい。コペンのエンジンの最大の魅力は「音」だ。
再掲になるが、トップエンドのエンジン音の出方が直6のスープラと同じなのだ。
この官能性は凄まじいもので、一時期本気でスープラを買おうとしてた身には「コレを買っておけば充分じゃないか」と思わされてしまった。
正直うるさくて、大人しく走ってても深夜ならご近所迷惑感があるのだが、それだけのことはある。
プリウスにはあった「排気が詰まってる感」も無い。
乗り心地について
むちゃくちゃ硬い。段差でダンダン跳ねては屋根の接合部からミシミシ音が鳴って「硬派なクルマだなぁ」と思わされる。
トヨタのGR系統らしく、アシは僅かにストロークしてくれるのだが、「コペン」という可愛い系をイメージして乗ると、絶句するレベルかもしれない。
私のプリウスPHVのGR S P O R T は、ショックアブソーバーが上下にしっかりと動いてくれることで、乗り心地がとても良いのだ。
それと同じ「GR SPORT」だと考えると、正直硬すぎる。SPORTなんていう名前は取って、「GR」にそのままランクアップして良いレベル。ここまで硬くするか。
ステアフィールについて
アシを硬くしただけのことはある。
軽自動車と聞いてイメージされるような、高速域での不安定感は皆無だ。
不安定になりそうな動きはすぐ収束し、車重に見合わぬ安定感でもって、ドシっと路面に吸い付く。
また、ハンドルもクイック&ダイレクトで、僅かな入力に対しても鋭く応答するため、一体感があって気持ちいい。
トヨタらしく基本的には安定し続けていて、「ちょっと怖いなあ」と思うような領域でコーナーに入っていっても、なんの不安定感も無くクリアしていく。慣れるのが大変だ。
面白いのが、相対的にフロントが重いFFであるはずなのに、ターンインの際に、内側に吸い込まれるような挙動が出ることだ。
「オーバーステア」と呼ぶには安定感が強すぎるが、持ち前の軽さ&小ささで、かなり深い領域まで飛び込んでいける。
「街乗りができれば充分」程度の設計のクルマが多い中で、このコペンは、「そのままサーキットで限界に挑める」。
運転していても、コペンだとかオープンカーだとか軽自動車だとか、そんな乗り物ではなかった。
これは「屋根&エアコン付きレーシングカート」だ。
まとめ
「かわいい見た目のオープンカー」なんてモノは無かった。
そこにあるのは、「S660より遥かに本格派な、スープラ並みの官能性があるエンジンと、日本刀のように鋭い走りを持つコンパクトレーシングカー」だった。
コペンという名前から完全に実力を見誤り、カーシェア試乗企画を始めてから今まで、手を付けられてなかった。
読者さんに、S660を上回るほど本格的な、GRのコペンの真の姿を分かって頂けたなら幸いだ。
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