冒頭のまとめ
鮮烈なスタイリングと刺激的なエンジンはそこらへんの快適な街乗り乗用車とはまるっきり別世界だ。
ドロドロとしたエンジン音と特別なセットアップで刺激的なドライブが楽しめる。
しかしこの突き抜けたキャラクターを手にするために犠牲にしたものが多すぎる。
このサソリの毒に刺され、買うしかなくなってしまった人が買うようなクルマである。
試乗や実車の体験無しに購入することはやめておいたほうが良い。
なおデアロジックと呼ばれる2ペダルATにはかなりクセがあり、右ハンドル化で足元も狭い。
私はこのATを「595を買うような車好きなのにMT免許を取らなかったという罪に対する罰だ」と評した。
買うなら左ハンドルのMTを強く推奨する。
もしAT免許しか持ってないなら、この車を買うために限定解除しても良いレベル。
私みたいにMTはちょっと面倒くさいんだよなぁ…
と思っているユーザーもMTで買え。ドラポジが悪いので左ハンドルはマスト。
個人の感想:コンセプトの時点で無理があったのでは・・・?
約100台のクルマを乗り比べ、本当にいい車の仕上がりを知っている身には尖(トガ)ってるのか劣(オト)ってるのか分からなかった…
そもそもフィアットの縦長でちっこいボディーに大出力を乗っけるという基本コンセプトの時点で破綻していたのでは…とさえ思ってしまった。
まず車体が窮屈すぎるのだ。
エンジンをみっちみちに詰めたせいでハンドルは切れ角が取れず小回り性能が終わっている。
また卵のような縦長な車体は高速域で風に吹かれて吹っ飛びそうになる。
アバルトの特性エンジンで強引に加速させて特注の足回りで抑え込んでも、風には勝てないのだ。
こんな車体が風に煽られればまっすぐ走らないのに、これだけのスポーツモデルとしてはエンジンのパワー到達できる最大のスピード域とアバルト愛好家の好みに合わせて高いスピード域に向けて足回りをセットしなくてはならない。
このせいで街乗り領域での乗り心地は犠牲になり、まともな神経をしている人は風におびえてアクセルを踏み続けられない。
犠牲にしたものが多すぎる割に得られたのは見た目とエンジン音程度。
車体が小さいが小回りは効かず、右ハンドル化が拍車をかけた窮屈さはペダル操作を妨害して安全を損なってくるレベル。
鮮烈な外観とカラーリングは素晴らしいし、加速感とエンジン音自体は魅力。
外観・デザイン
「鮮烈」という言葉が似合うスタイリングとカラーリング。

ベース車のカワイイ系の形状は踏襲しつつもカッコよく引き締まったデザインを獲得している。

黄色やアバルトエンブレム、イカツいホイールやステッカーで十二分に特別感が演出される。

1.1トン台の車重に見合わぬ豪勢なブレーキが装着される。

ご近所迷惑な騒音を垂れ流すレコードモンツァの四本だしマフラー。
うるさいクルマが嫌いな私としては、EVに負けるレベルの加速力しかない小排気量の直4をここまで迷惑にする意味が分からない。
こういう自分のことしか考えていない人々の行いがクルマ好きの撮り鉄化を招くのだ。

エンジン音がうるさすぎて、エンジンを掛けて空調を効かせたまま仮眠をとることもできない。
180馬力を発するアバルト製の1368cc直4ターボ。
ミッチミチに詰め込まれている。ターボの配管には余裕がない。

ところどころ手作り感があるが、これくらいなら走行にはなんの支障もないだろう。
内装

カッコ良い車内空間が広がる。あの外装にこの内装アリだ。

一面プラスチックで高級感はあまり感じないが、高揚感はあるぞ。


スポーツモードに入れるとメーター内の表示も変わる。水温も常時表示されるようになる。

ブースト計がボンと付く。出っ張っていて見るからに邪魔そうだが、実は運転していて邪魔にならないどころか、左に寄せる際の目印となってくれるくらいだ。

3660mmx1625mmというコンパクトサイズゆえ、車内空間は終わっている。
コペンと同じくらい車内は狭いが、二列目を倒せばそこそこの荷物は積めそうである。

スマートキーは装備されておらず、毎回鍵を取り出して施錠・開錠を行い、カギを差し込んでキーを回して始動するというステップを要求される。

鍵穴が見づらい位置にあり、頻繁に乗り降りするような用途では面倒である。
古典的な機構を好む懐古主義者向けのクルマなのでこれで良いんだろうが。。。

バックカメラはミラーの中に内蔵されている。
画質も悪く画面も小さくて見づらいが、慣れれば必要充分である。
車体サイズは小さいため小回り自体は効かなくても乗りやすい。

アバルト595のオートマの乗り方
以下の動画で分かりやすく紹介しているが、5速MTを強引にオートマ免許で乗れるようにしたトランスミッションだ。
始動後は前進する際はDの代わりに「1」。
後退する際は「R」を押すだけ。

ニュートラルボタンは停車する際に使う。
エンジンを切る際はマニュアル車と同じく1速かバックギアに入れよう。
キーがオフの状態ではギアを操作できないため、エンジンを切る前に1かRを押す。
「A/M」はマニュアルシフトモードの切り替え。
「ギアを入れたまま停めると壊れる」とも、「持ってるけど壊れない」という意見も聞く。
私は素直にMTで乗ることをお勧めしているが….
ナビの使い勝手
アップルカープレイ前提ではあるし、画面は小さくタッチして使うには距離が遠い。
しかし動作には問題なく道に迷うこともない。
不便すぎるシートと乗降性
このバケットシート、まず高さ調整機構がない。
ステアリングの前後調整もない。
その割にはペダルが高いところから生えているというか、足元が窮屈で靴が引っかかって踏み間違えそうだ。
ドラポジがなんか合わない現象に慢性的に悩まされることになるし、常に踏み間違いの危険を負う。

MTならばクラッチペダルを配置する場所で左足を上げ下げすると、靴の右側がブレーキペダルにぶつかり、左側はふっとレストの隔壁にぶつかる。
こんなに狭くてMTでまともに乗れるのかと不安になる。
※MTモデルではブレーキペダルが小さくなるようだが、左足の窮屈さは改善しないと聞く。


また角度調整のダイヤルがかなり奥まったところにあり、微妙に硬くてドアとのクリアランスも皆無なのでドアを開けないとリクライニングの調整はできないと思った方がいい。

車両の幅自体は狭いが、ドアは分厚いので乗り降りの際は隣のクルマとの衝突に気を付ける必要がある。

またリクライニングの角度もダメダメで、座面も硬くて視線の高さは一面がガラス。

車内で快適に休むのは無理かもしれない。
後ろに体を倒すのではなく、ハンドルにもたれかかって眠ることになりそうだ。
長距離に行くつもりなら体力勝負を覚悟しよう。
ドライブ中の休憩についてもう1つ言えば、エンジンをかけて空調を効かせようにもアイドリング音がうるさすぎる。
試乗車のスペック・諸元・グレードや価格など
2019年式のコンペティツィオーネだ。
新車価格は400万円。MTなら20万円ほど安く手に入るぞ。

- 3660x1625x1505mm
- 最小旋回半径:5.6~6.0?(未公表)
- 車重1120kg
- 1368cc直4ターボ
- 180馬力/5500rpm
- 230Nm/2000rpm
1368ccは1.3リッターなのだろうか、1.4リッターなのだろうか…
実走行インプレッション
取り回しについて
サイズこそ3660x1625x1505mmと小柄だが、ハンドルの切れ角が取れないのだ。

最小旋回半径は公開されていないが、おそらく5.6~6.0mくらいはあるだろう。
ネットで「小回り効かないぞ」と散々言われているのを聞いたが、これに対して私は「そうは言ってもコンパクトだし大したことないでしょ」と思っていた。
しかし実車は思っていた以上に酷かった。
駐車場のちょっとした転回が膨らみまくって曲がり切れないのである。
「え?ここ曲がり切れないの?」や
「え?こんなに膨らむの?」という旋回性能。
ただ車体自体は小さいため、ちゃんとした運転感覚で丁寧に乗ればスイスイ行ける。
トランスミッション関連
操作方法
マニュアルトランスミッションを2ペダル化したものであるが、その中でもかなり特異な操作系を持つ。
DレンジもPレンジもない。
前進なら1、バックならRボタンを押し、サイドブレーキを下ろすと発進可能だ。
クリーピングは実装されておらず、アクセルをじわーっと踏み増していくと半クラッチが始まる。
そこには独特な間があるため慣れるまでは戸惑う。
手際よく発進しようと思うなら、2台前の車が動き出したあたりからアクセルを踏み始めることになるだろう。

時速8km/hあたりまでは半クラッチでじわーっと発進させ、繋がったあたりでアクセル開度を少し増す。
1速から2速にシフトアップされたらまたアクセル開度を増やす。
こういうアクセルの踏みをしていけば、流れの速い国道でも後れを取らずに行けるだろう。
信号待ちや始動、車内でエンジンをかけて休憩する間はNに入れてサイドブレーキを引く。
1速やRに入れたままエンジンを始動してしまっても、コンピュータが勝手にNに入れてくれる親切使用。
「駐車するたびに手動で1かRに入れ、始動する前にキーオンのままニュートラルに戻してからキーを捻る」といった操作は必要ない。
坂道発進
なお坂道発進は苦手だ。
ヒルホールドアシストはついているようだが動作は安定しない。
抑えてくれることも、抑えてくれずに下がることもあった。作動の基準がわからない。
アクセルを踏んでから少し後に半クラッチが始まる特性を踏まえつつ、左足でブレーキを踏みながらアクセルを入れて両足で発進するのを勧める。
右ハンドル化の弊害・劣悪なペダルレイアウト
なお右ハンドル化の影響かペダルは右側に寄っており操作しづらい。
ただですら足元が窮屈な上の右ハンドル化。
ATならなんとかなるが、これでMTのクラッチ操作まで行うのはしんどいかもしれない。
本車を買うなら左ハンドルがおすすめだ。
クセが強すぎるATの変速動作
シフトアップはオートマ車にしてはかなり遅め。
「もうシフトアップだろう」と思ったポイントからさらに数百回転はエンジンが唸ってからやっとシフトアップに入る。
大抵のATは「いまシフトアップしてね」という気持ちでアクセルを緩めるとシフトアップされるが、この車ではそういうことは起こらない。
「マニュアルトランスミッションならここがシフトアップだよ??」というポイントでそれが起きてしまう。
また流れの速い道路にちょっとした切れ目で合流するような強い加速の欲しい場面でも、勝手にシフトアップをして妨害してくる。
1速から2速と、2速から3速。
時間にするとほんの一瞬でも、加速が一呼吸ぶん途切れるため危ない。

急加速中もシフトアップが入るとガツンとブレーキを蹴り込んだかのような衝撃が入る。
エンジンも獰猛さの割にレブリミッターの回転数は高くない。
オートマモード中もパドルを引けばギアチェンジが可能だが、これもまた人間の意思にいまいち寄り添ってくれない。
カーブに入る前にシフトダウンを入れても、いざ立ちあがろうと思った頃には元のギアに戻っている。
(長い下り坂でのエンジンブレーキは問題ない。)
はっきり言ってこのデュアロジックは「アバルトを欲しがるような車好きなのにMT免許を取らなかったという罪に対する罰」である。
エンジン
ボンネットを開けただけで「よく詰め込んだな…」という言葉が溢れるほどのミッチミチインストール。
そりゃタイヤの切れ角が無くなって小回り性能が終わるわけだ。

このエンジンは始動しただけで相当な騒音を撒き散らす。
アイドリングもドロドロとうるさく、エンジンをかけてから呑気にカーナビをセットしてたら卵のようにガラスが割られそうだ。
ちょっと踏んだだけでドロドロと響くエンジン音はアバルトならではのもの。
スポーツモードになると加速に恐ろしいほどの鋭さが生まれる。
しかし数値的には200馬力以下であるため、高速道路の追い越し車線で踏み続けているとさすがに加速が鈍ってくる。
後述する風に煽られやすいという特性を踏まえると超高速走行は苦手だ。
しかも、段差でハンドルが暴れるという症状のせいでワインディングもうかつにベタ踏みできない。
フィアットのゆったりボディーに強引に獰猛なエンジンを載せたせいで、足回りや車体がエンジンの加速力とかみ合っていない印象だ。
乗り心地
世間からの評価の通り、確かに乗り心地はよろしくはない。
しかし許容できないほど悪いようなものでもないので気にしなくていい。
というか、他の要素に弱点が多すぎて乗り心地の悪さに目が行くことは無いというレベル。
確かに硬派な乗り味ではある。
穴ボコのみならず、橋の継ぎ目やちょっとした路面の舗装の盛り上がりでも飛び跳ねる。
そのたびにドラレコの衝撃録画が作動する。
外観はタマゴみたいな形状だが、この段差で飛び上がったあとの衝撃は床に卵を置いていたら割れそうなレベルだ。
ひどい穴ぼこではなくて、そこらじゅうにあるような橋の継ぎ目レベルの段差を超えるだけでかなり飛び跳ねてしまう乗り心地はあまりにもしんどい。

このコンパクトサイズでは超高速域での安定性を気にする必要があまりないだけに、他の快適で上質なクルマを知っている私には意味が分からなかった。
でもこれくらいぶっ飛んでるほうがアバルトには合っているだろう。
好き好んでアバルト595を選ぶような人たちにとって、現行のWRX S4や先代のクラウンのような優秀な足回りでは刺激不足だろう。
そもそも乗り物として許容できない系の悪さでもないし。
だが同乗者もオーナーと同レベルのモノ好きでないとダメだ。
ハンドリング
刺激的な味をイメージしがちだが、意外と切り始めには間があってゆったりとしている要素がある。
そこから大きくハンドルを切るとコンパクトFFらしい安定感を維持しながら切れ込んでいく。
EVのようなニュートラルな曲がり方はしない一癖あるものとなっている。
高負荷・高速走行
乗り物の安定性自体にそこまでの弱点はないが、風に吹かれると一気に持っていかれるのでスピードを出せない。
無風状態なら安定してスピードを出して走れても、突然横風がビュンと吹いてきたらどうするのか。

トンネル出口や淡路島の高速道路、新東名の富士周辺や標高の高い橋の上など、スピードが出やすい上に突風が吹きやすい場所はいくらでもある。
この車体でスピードを出すのはあまりにも危険だ。
これを考えるとちょっと速いスピードで追い越し車線を走るのが関の山である。
だがスピードをある程度出している間だけはダンパーの動きがすばらしい。
しっかりと奥深くまで沈み込むことで、逆に車体を路面に吸い付けるような動き方をする。
横風には弱いが、ダウンフォースではなくショックアブソーバーの力で車体を路面に吸いつけるという魔法のような新鮮な乗り味を味わうことができた。
なお3速あたりからの上の加速自体は特段と速くなく、音自体もアイドリングでうるさい割に風切り音にかき消され気味。
ただ2速のスポーツモードはターボ車らしい恐ろしいほどの加速で吹っ飛んでいく。恐ろしい刺激だ。
しかし最悪なことに、荒れた路面で急加速をするとあちこち飛び跳ねて真っ直ぐ走らないという欠陥をもつ。
これが怖くて迂闊なベタ踏みができない。
ワインディング特化なセットアップかと思いきや、段差でガタガタに暴れる足回りのせいで安心して踏めないのである。
スピードレンジが高いわけでもなければ快適でもなく、低速域で安定しているわけでもない。
超高速域でのダンパーの動きだけは素晴らしいが、こんな車体にのっけてしまったせいで風に吹かれて台無し。
そもそものコンセプトの時点で無理があったのだろう。
間違いなく愛好家たちが新車を買い続けていることによってのみ存続できている一台だ。
あなたがこの非合理的なむちゃくちゃなクルマに対して今後も残っていてほしいと思うなら、借金してでも新車を買ってあげよう。
