フォルクスワーゲンが贈る横幅1785ミリの乗りやすいサイズや320~390万円の買いやすい価格が魅力なコンパクトSUVであるT-Cross.
誰にでもすぐ乗りこなせる乗りやすさとSUVゆえの実用性、信じられないほど鋭い加速力にフラットなコーナリング性能など、色々な総合性能の高さが光る。
しかし、エアコン操作パネルやカーナビなどの一部の使い勝手が養護できないほど悪い。良いところも悪いところも紹介していこう。
外観について
コンパクトサイズのSUVとしてオシャレにまとまっている。
ほどよく先進的で程よくカッコよく、スタイリング目当てで買いたくなるような魅力を持っている。
内装について
新車価格300~400万円級のクルマとして充分な質感を持つ。
ドアを開けた瞬間にパネルの樹脂が目立ってしまうのと、シートが電動ではなかったのは少し残念。
特段と良いわけではないかもしれないが、私が座った限りでは質感の高さを感じられた。
ステアリングの革はすべすべで肌触りが良い。しかし握り込むともっちりするような感触ではない。
上の画像だと高級感は感じられないだろうが、実物に触れても居ない状態で決めつけなんかするもんじゃないぞ。
なお一部のグレード・オプションではこのようなオシャレなカラーリングを選ぶことが出来る。
動作がカクカク&致命的に使いづらい最低なナビ
このクルマのナビは酷過ぎる。日本で売る気あるのかよと思う。
フォルクスワーゲン社が日本での販売網構築を始めてから長い年月が経っているはずなのだが、ローカライズが充分になされているとは到底言えない。
というかヒュンダイのアイオニック5にボロ負けしてるレベルの使い勝手の悪さと不案内だ。
まずカクカクしすぎ。指でぐわんぐわんと動かすとあからさまに遅延する。
「おまえそれでも高級外車かよ」と言いたくなる。いや、ドイツ車の中でこの価格帯は実際に高級車ではないんだろうが、「このクルマは向こうでは高級車ではないんだろうな」と判断するための材料となってしまっている。
また目的地を設定するのも不便。普通はマップ中央に照準アイコンが表示されるものだが、このクルマは適当なポイントを長押しすると表示される下記のメニューから「開始」か「ルート」のどちらかを選ばなければならない。初見では混乱する。
詳細な動作については動画版を見て欲しい。
ちなみにナビの案内自体も非常に分かりづらく、ボーっとしていると曲がりたい地点を通り過ぎる。
カーナビではあるんだけど、ナビをしてくれるんじゃなくて通るべき道に線を引いてくれるだけといった感じ。
メーター中央にナビを映す要素はあるだが、拡大などの使い勝手は普通に悪い。
史上最低の液晶エアコン。自動車の歴史に残るレベルの汚点。
このクルマのエアコン操作パネルは使い勝手が酷過ぎる。こんなに酷いもの見たことが無い。乗ってきた数十台の中でも最低クラスだ。
まず完全に液晶となっているので、ブラインドで操作するのはまず無理。
風量と温度の部分はスライダーになっており、指を左右にスワイプするだけで自在に動かせる。これは悪くない。
不満点はいくつかあり、まずオフボタンのレスポンスが微妙に遅いのだ。
触れてからワンテンポ遅れてから反応するため、指が誤照準でミスったのか、正しく押せたのか分からない。ミスったと思って連打してしまう。
またアイドリングストップをオフにした拍子に指が触れて勝手に空調が入るという劣悪の極みのような誤動作も頻発した。
この左奥にあるアイドリングストップストップボタン、物理ボタンで長押しも不要なのはありがたいがあからさまな左ハンドル用配置だ。これについてはこの次に触れる。
走行フィーリングが最高に良いだけに、目に見えるところにこんなにも悪いものを配置されてしまうのが残念でならない。ナビの使い勝手と合わせれば一発で外車が嫌いになりかねない。
デザインの高級感はあるのだが、使い勝手の悪さに起因する開発陣への憎悪が余裕で上回る。
内装関連の開発チームとドライブフィール周りの開発チームは分かれているだろうが、内装チームはもっと自動車の運転をして欲しい。開発ドライバーはもっと空調を使いこなしながらテスト走行をしていって欲しい。
↑こんなこと言われても誰も言い返せないレベルで酷い操作パネル。
クルマは乗りやすいし最高のフィールを持つ。デザインも良い。
他が良いだけに残念で残念でならない。どこぞのセダンみたいに、マイナーチェンジでボタンに戻してくれるなら私は掌を返して大絶賛しよう。
あからさまな左ハンドル流用
ウインカーのところのスティックについては、ヒュンダイ以外は共通で左ハンドル用を右に使ってコストダウンしているので突っ込まない。
1つめの左ハンドル流用要素はアイドリングストップストップボタンだ。左奥に置かれているが、あからさまに左ハンドル向けの配置だ。
次にエンジンのスタート・ストップボタン。これも絶対左ハンドル用だ。
シフトノブの向こう側にあるので非常に押しづらく、右ハンドルを買った人はエンジンを掛けるたびに蔑ろにされた感を受けてフォルクスワーゲンにヘイトが溜まりかねない。
しかし所詮は300万円台の外車なので、コストダウン要素に文句を言う方がナンセンスであることは忘れないで欲しい。
しかしドライビングポジションに違和感は無かったことは言っておこう。
ハンドルやペダル配置がズレてる車種ってあるからね。Tクロスでは特にそういったものは無かったぞ。
入れ間違いの絶対起きない、操作も多様な最高のシフトノブ
このクルマのシフトノブはストレート式だが、ギアの1つ1つが明確に離れており、入れたギアのポジションが手元で光ってくれる。
入れ間違いのリスクは皆無だ。
Dの位置から下に倒すとスポーツモードとノーマルモードの切り替え。
右に倒すとマニュアルモードだ。実はステアリングの後ろにもパドルが隠れている。あまり目立たないが手を動かすと的確に触れられる位置にあるので、パドルシフトを活かしたドライビングも楽しい。
普通のゲート式よりも動かせる幅が広くて楽しい。
これについても詳細な動作は動画版を見て欲しい。
ちなみにアラウンドビューモニターは非搭載だ。これも付けて欲しかったところ。
とはいえコンパクトサイズなので、適当に駐車を始めてもなぜか一発で狙ったところにピンポイントで入るという魔法を持っている。
アシスト装備が豊富な物理的にデカいクルマよりも、サイズが小さいクルマのほうが駐車ってラクなんだよなぁと実感する。
手で引っ張るサイドブレーキについて
今となっては懐かしささえ覚えるハンドタイプのサイドブレーキ。
これだけ聞くと悪くないように思うがブレーキホールド未搭載という致命的な弱点となっている。
一旦ブレーキホールドの便利さを知っていると、これが付いていないというだけで迷った際の選択肢から外れる原因になりかねない。
価格帯ゆえ仕方ないのかもしれないが、私としてはブレーキホールド付き電動パーキングの追加を望みたい。
先進性と使い勝手の良さが融合した素晴らしいライトスイッチ
ハンドルの右側にはライト関連のスイッチが集約されている。
選択した部分が光ってくれる仕様付きで、非常に見やすく扱いやすい。
先進性と従来の使い勝手が完璧に融合した素晴らしさの極みのような操作系統だ。
このライトスイッチとエアコン操作パネル、たぶん別の人だかチームが作った。片方は既にクビになっていてもしょうがないし、もう片方は最終的に内装の設計を統括的に担う立場に昇進していて欲しい。
独特なミラースイッチ
普通ミラーの調整ノブは約90度の限定旋回だが、このTクロスの調整ノブは360度回転する。
上半分は通常のミラー調整だが、斜め下に持って行って押し込むとミラーが閉じる。
上半分に持っていくとミラーが開く。ちょっとクセがある。
試しそびれたが、右下に持って行って押し込むとミラーの電熱線だろう。
実走行インプレッション
一部の機能をボロクソに言ってしまった気がしないでもないが、このクルマの運転フィールは素晴らしいぞ。
しっかり見て行こう。
エンジンについて
このエンジン、排気量は1リッターしかない。ターボは付いてるけどね。
そのクセやけに加速が速くてトルクに溢れている。
トルク、加速性能、共に目を見張るものを持っている。
116馬力・200Nmものトルクでもって1270kgのボディーを加速させていく。
116馬力と聞くとあまり速く感じないかもしれないが、今いる地点から瞬間的に抜け出せるレベルの加速を提供してくれる。
さすがに「吹っ飛ぶ」と評するほどではないが、あの見かけからは信じられないくらい速い。素晴らしい。
エンジン音も直3の中では比較的官能的な方で、気持ちのいい音を響かせてくれる。
またトルクもかなりのもので、踏めば踏んだぶんだけじわじわと車速が増えていく。
いくらターボが付いているとはいえ、明らかに1リッターの排気量とは思えないレベルのトルクでもってモリモリと加速していく。
このクラスでこれだけの加速性能と充分な経済性を持つSUVはほぼ見ない。
これだけのスペックでガソリン車に乗れるのは最高だと思った。
微妙に痒い所に手が届かないスロットルレスポンス
さっき書いた通りDレンジから下に倒すと「S」モードとノーマルモードを切り替えられる。
しかしDレンジでは出足があまりにも遅く、周りにワンテンポ置いていかれてしまう。
一旦走り出すとトルクで引っ張ってくれるんだけどね。
その出足の遅さを補うために市街地で「S」モードに入れると、今度は加速がギクシャクしてしまう。
あっちを立てればこっちが立たず。こうなるくらいならエコモードを追加して、今のノーマルモードをそのままエコモードへ移行し、ノーマルモードは出足があんまり遅くならない程度に設定して欲しかった。
エンジンブレーキがほとんど効かない
小気味よくシフトダウンを繰り返して回転数を上げていき、下り坂などでエンジンブレーキをかけることができる。
しかしいくら回転数を上げても全く減速Gが立ち上がらない。
急な下り坂が長く続く場面ではフットブレーキを多用することとなりそうだ。
DCTゆえの制御の弱点
このTクロスには非常に変速が速いDCTが搭載されており、それゆえの俊敏な動作が楽しめる。
しかし特定の状況下で不自然な動作をしてしまうことがある。
私が遭遇した事例を書いていこう。
まず1つめ。上り坂を止まるか止まらないかくらいのスピードでじわじわ進んでいた場面。
トルコン式ATのような変わらぬ動きではなく、突然勝手に前に進みだしたり不規則に回転数が上がったり、イマイチ動作が安定しないことがあった。
次に唐突にシフトダウンを入れた際、パドル入力に対するギアの切り替わりがワンテンポ遅れる。
これはR35のGT-Rでも発生する現象で、DCTが抱える構造上の弱点だ。いま4速に入っていて奇数側が5速でスタンバイしている中、パドルを引いてシフトダウンの操作をしたとする。
この場合DCTは、ギアの内部を5から3速に組み替えてから変速をする必要がある。それで変速が遅延するのだ。大した問題ではないかもしれないが、微妙なペースで走っている場合に起きやすい。
まあR35とは違って、パドルシフトを減速時に連打しても無視はされないし、不快なシフトショックが起きるということも無い。
カクつきがちなブレーキ
欧州車の例に漏れず、ブレーキは踏み始めからガッと効く。
最初期に遊びがあるが、制動力がいざ出始めれば瞬間的にズドンと来がち。
慣れていても丁寧に乗らないとカクついてしまう。
非常に優れた加速性能を持つため、純正でこれだけ鋭いブレーキが入っていてもまぁ受け入れられる。街乗りではカックンしちゃいやすいけどね。
SUVの中では非常に俊敏&フラットで安定感あるスポーティーな旋回フィール
曲がり始めは旋回しづらいが、一旦旋回姿勢を作るとフラットなまま曲がっていく。
スタビライザーをかなり強めに効かせていて、「ロールしていないのでは?」と感じるような圧倒的な安定した挙動を維持する。
この旋回時のフラットさがターンインの瞬間の曲がりづらさとトレードオフになっているが、こうすることでコーナーにオーバースピードで突っ込みづらくなり、直線でも安心感が出る。
一石二鳥のセッティングだと思う。
乗り心地・ダンパーの動作について
ストローク量自体は多くないが、ゴシュンと奥深くまで沈み込んでくれるようなショック。
硬めといえば硬めだが、全く不快になることがない。
それでいて不安定な動きを抑え込む。
方向性としてはRAV4や新型シビックに近い、タイヤが動く高低差・距離は短いのに不快な衝撃がフレームに来ない。
急ハンドルを切っても一切フラつかずに追従して来てビシッと姿勢が収まる。それだけの安定性を有しながら快適性も損なわれていない
微妙な腰高感が消滅しているわけではないが、ここまで俊敏に仕上げられるならスポーツカーから乗り換えても不満は出ないと思った。
まとめ
エアコン操作パネルやナビ、あからさまな左ハンドル要素などの一部の要素に足を引っ張られているが、SUVとは思えないほどの運動性能を持った素晴らしいマシンだ。
おまけに見た目もオシャレ。なんやかんや値段とモノに対するパフォーマンスは高い方なのではないかと思う。
(新宿サブナードは出入りが致命的に不便で時間が掛かるが、近くから首都高に上がるとすぐにパーキングエリアがあってアイスも楽しめるぞ。)
試乗前のリサーチ
(※ここから先の項目は、乗車前に私が行った事前リサーチだ。)
今回の試乗からは、乗車前のリサーチもしっかりと行うことに決めた。
さて、フォルクスワーゲンの公式サイトなんて人生で初めて開いたぞ。
去年度の輸入SUV登録台数でナンバー2を取ったらしいが、私はどれだけ記憶を振り返ってみてもT-Crossとすれ違った記憶が無い…
価格について
公式サイトで見積もりを始めようとすると、大量のグレードが並んで混乱してしまう。
印象的なカラーリングを選択することが可能で、「人生を豊かにしてくれるような個性的な一台を選べる」と好意的に捉えよう。
グーネットカタログで見る限り、大きく分けて3つに分けられるようだ。
320~390万円の新車価格となっている。
ドイツの外車ブランドということで高そうなイメージを持たれがちだが、”Volks”という単語の通り普通に買えそうな価格に収まっている。
ちなみに4WDの設定があるのは最上位のRラインのみだそうだ。車内空間を優先したらしいが、凍結路や悪路走行は捨てちゃったのか…
パワートレインについて
排気量1Lの直噴ターボエンジンだ。
排気量だけ聞くと弱いように感じるが、2000~3500回転で発生する200Nmものトルクでもって1270kgのボディーを加速させていく。
最大パワーは5000~5500回転で116馬力あるらしい。
ターボがあるとはいえ元は1リッター。どんな加速性能・トルク特性を持つのかぜひ確かめたい。
またトランスミッションについてはDCTを搭載するようだが、0.03~0.004秒という驚愕のタイムでギアチェンジを行えるらしい。
…とはいっても、街乗り領域でのスムーズさという面では多段式トランスミッションは不利。
シフトチェンジによる不快な揺れが起きないかは注意して確かめて行きたい。
ボディーについて
横幅が1700ミリ台(1785)に収まっている。
昨今の自動車としては考えられない。
前後長も4.1メートルとかなり短いため、取り回しの良さが光ることだろう。