国産SUVの中でも最高級の質感を誇るものの、リコールや乗り心地に関して良くない噂ばかり聞くCX-60。
深夜の東京でPHVモデルを借りることが出来たが、雨の中でのこのクルマは思いもよらない走りをしており…
他で擦られまくっている内外装はほどほどに流しつつ、問題の運転フィールについてしっかりとレポートしていこう。
冒頭のまとめ
「図体のデカイ優美な街乗りSUV」という見かけに反して生粋のスポーツマシンだった。
フロントミッドのエンジンレイアウトは驚くほど俊敏な旋回能力を実現しているし、エンジンも速過ぎてちょっと怖いほど元気よくブン回っていく。
しかり雨の中で乗るにはタイヤグリップの絶対的な限界性能や安定性が足りず、段差を越えるたびに瞬間的に滑るような印象があって怖かった。
外観と内装について
外観について
CX-60の本命は黒いツヤアリホイールを身に纏ったこの仕様だろう。
街で見かけても「なんだあの上品で美しいクルマは!」と視線を釘付けにするスタイリング。
ツヤアリのブラックやボディと同色で塗装されたフェンダーモールをしっかりと使いこなして引き締まった印象を与えている。
こっちは私が乗ったモデル。
小ぶりなホイールや樹脂のフェンダーモールのせいで勿体ないことになっている。
もし購入を検討している人が居たら、外観もケチらないで欲しいところ。
テールランプは美しく光っている。
晴美フラッグの街並みにも溶け込んでいる。
内装について
ネットで散々語られているので飛ばし気味に行く。
ステアリングのレザーは少し薄っぺらいが表面がすべすべで握り込むともっちりとするような感触となっており、BMWっぽさを感じる握り心地だ。
まず最初に戸惑ったのがシフト。何をどうやっても動かないと思ったら、システムがONにならずにイグニッションになっただけだったという事態に何回か遭遇した。
Lを上下反転させたものとなっており、ボタンを押しながら一旦左に行ってから下げるというもの。
リバースとパーキングを間違えないため慣れると扱いやすい。
Pは右上、Dは左下、Rは左上と、全てのギアを別々の方向に動かして選択するためミスることもない。
初見でもすぐに動かせるだろう。プリウスシフトの上位互換である。
ブレーキペダルの踏みが甘かったのかボタンの押し時間なのか、慣れの問題なのか…
さてヨコ方向に幅広いセンターコンソールは車格を感じさせるものとなっているが、カップホルダーが遠いのが不満。特に奥側のドリンクは腕を伸ばさないと届かない。
国産車らしからぬ広々とした車内空間だが、ドリンクの使い勝手や車体サイズ・重量ゆえの走行への影響を考えると手放しで褒め称える要素ではないような…
エアコンパネルは物理。上品で見やすく使いやすく、市販車の中でもかなり良い状態でまとまっている。
温度のアップダウンが左右に分かれて配置されている点に不満を述べる声を聞いたことがあるが、すぐ慣れると思う。夜間でも赤と青で分かりやすく光るため操作ミスも無いだろう。
ナビがタッチパネルではないのが残念。
別にこのインフォシステムの操作系は悪いと言うほどではないが、指で直感的に操作出来たほうが良いと思うのだ…
レクサスNXのように、次のビックマイナーチェンジあたりで液晶が大型化して手前に来てくれたらいいのになぁ…
なおドアには手を入れられるような穴が無いため、基本的にハンドルを引っ張って閉めることになる。優しく閉めることがやりづらいため、丁寧に優しくドアを閉めたい派の私には少し寂しかった。
車体サイズゆえドアはそこそこ重いが、テコの原理を利かせられるので意外となんとかなる。
液晶メーターは見やすくて芸術的だ。
スポーツモードになると一気に引き締まり、幻想的な世界観を演出してくれる。地味にCX-60の神要素だろう。マツダの芸術性がリミッター無しで炸裂しており非常にカッコ良い。
エンジン音と相まって感性に響いて来るものを感じる。
実走行インプレッション
取り回し・車体サイズのデカさについて
まず明らかに車体がでかい。これがカーシェアのステーションの状態である。ピッチピチ。
返却時には頑張って左に寄せたので少し余裕が増えたが、相変わらず乗り降りスペースに余裕はない。ドアは重たく薄いわけではないので、乗り降りが億劫になるレベルで狭い。
このステーションにはジムニーもあるんだから、せめてフォレスターではなくジムニーを隣に入れてくれよと思ってしまった。
しかし視界性能自体は思いのほか悪くなく、ミラーを覗き込んだり窓から身を乗り出したりして丁寧に扱ってやれば意外となんとかなる。
アホなサイズであることを承知で買っても、立ち回りで補えるレベルだ。
意外なのが最小旋回半径が5.4メートルしかないことである。
車体サイズ自体はどうにもならないが、この旋回半径のおかげで図体のデカさからは想像も付かないような小回りが可能だ。
なお動き出しからハンドルが重く、力が無い人には少ししんどいのではないかと感じてしまう。
パワートレインについて
ノーマルモードではワンテンポ遅れて加速が来る。市街地では静かに走れるが、前後にも左右にもギクシャクする乗り心地のせいで「優雅」というイメージが運転フィーリングのレポートにはどうやっても使えないレベル。
エンジン音は驚かされるほど気持ちよく響いている。高回転域の官能的な反響はオーケストラのようだ。
音の方向性的にスピーカーからエンジン音を流している気がするが、ここまで綺麗に音を響かせられるなら大満足である。
加速性能については、しっかり踏めば速すぎて怖いくらいに伸び続ける。
しかしリアタイヤのグリップが雨の首都高を走るには足りておらず、段差をガタンと超えただけで滑って加速とグリップ感が途切れてしまう。
トランスミッションについて
17年式のGT-Rに乗っていた頃を思い出すような乗り味だった。もちろんこれは悪い意味である。
信号待ちから発進して40km/h程度まで加速する間に、だいたい3回くらいのシフトチェンジを行っているようだ。
このせいで加速にギクシャク感が生じてしまっており、上下だけでなく前後に揺さぶられてしまうことがある。
CVTを選択しなかったことは乗り物のキャラクターにマッチしているが、見るからに上品に市街地を走れそうなSUVでここまでハードな乗り味のトランスミッションにするのかよ…と思ってしまった。
なおマニュアルシフトで操っている際は、踏み続けても自動シフトアップは行われない。
ハンドリングについて
まずこのエンジンルームを見て欲しい。
直6ディーゼルも積む車体なのでフロント側にはスペースが大きく開いており、完全なるフロントミッドシップである。このことを覚えておいて欲しい
さて雨の中でベタ踏みしてみたが、あからさまにタイヤのグリップ限界が足りない。
急加速時はすぐにスリップして加速が止まってしまうし、減速時も眠気防止舗装のガタガタしているところの上で強い負荷をフロントに与えると「止まらねーー」という感触が強くなっていく。
段差を越えるたびに瞬間的に滑っているような感触があり、 雨の中ではハッキリ言ってむちゃくちゃ怖かった。
重さとタイヤグリップのせいで、良くも悪くもロードスターっぽい運転フィールになってしまっている。
晴れの日の理想的な状況下で乗らないとこのクルマの素の運動性能は評価できないだろう。
なお運動性能は図体のデカさと2トンある車重からは想像もつかないほど良い。
急ハンドルを切るとその場で倒れ込むようにグイッと曲がっていくし、ターンインの際の身のこなしにも重さを感じない。
フロントミッドの縦置きエンジンがあからさまに効いている。どう考えても鈍重なマシンなのに、身軽なコーナリングを楽しんでいくことができる。
どことなくロードスターっぽいような軽快感さえ味わえるほどであった。
ただ「アクセルを緩めるだけでノーズがスッと入る」と言えるほど軽いわけではなく、「切った瞬間にロールが収束する」というほど不安定な動きを抑え込めているわけでもない。
大雨の中で深夜の首都高を走っている際に、ルーレット族っぽい走りのBMWのセダンに遭遇したので追いかけてみた。
しかし段差をガタンと超えるたびに瞬間的に滑るような不安感がどうしてもぬぐえず、イマイチ攻め切ることが出来なかった。WRX S4だったら追い回せていたのに…
不安要素が残るが、それと同時に無限の可能性も感じるのだ。
エンジンレイアウトや内外装は既に最高の仕上がりであり、課題となるのはトランスミッションと足回り。
トランスミッションのほうは制御だけでなんとかなるのか不明だが、足回りは何年も熟成を進めれば大きく改善できる余地を残している。
まぁマツダ社には感動するほど良いアシを持った車があまり思い当たらないため、メーカーの潜在能力的には過度な期待はできないけど…
まぁ既に乗っている人も、モデル末期にもう一度新車を買うことになる未来があるかもしれない。
ビッグマイナーチェンジやモデル末期の状態に乗れるチャンスが出てきたら、次は乾燥路で試してみようと思う。
乗り心地について
非常に硬い乗り心地で残念である。
ある程度スピードを上げていかないとバランスが取れないので、みるからに街中で華やかさを誇るような車としてはしんどい。
外観や世間のイメージとはかけ離れた乗り味で、交差点内の段差やちょっとしたマンホールでもダンダンと跳ねて身体が揺さぶられてしまう。
シートと身体の接地が失われるレベルで跳ねる。
スポーツ性最重視のダンパーとして受け止めれば、まぁギリギリ許容範囲だと思う。普通に乗り心地は悪いが、2時間ほど借りて乗っているうちに乗り心地悪いなりに慣れた。
でも600~700万円級のあの外観に期待した人は裏切られたと感じるレベルでひっどい乗り心地である。
諸元・グレード・価格
布シートかつPHVであったことを考えると、おそらく539スタートの「PHEV Sパッケージ」だと思われる。
いつもは車検証の写真を撮っておいてフレーム番号からグレードを特定するのだが、今回は忘れていた…
いまCX60の公式サイトでコンフィグレーターを起動しても、PHVとファブリックシートの組み合わせは無かった。PHVモデルにおいては最廉価グレードが廃止されてしまったようだ。
ちなみに純ガソリンの最廉価グレードあら299万円と、ギリギリ300を切る価格に設定されていた時期があった。
今では少し値上がりしたようだが、質感に対する価格は充分に手ごろだ。
最上位グレードは約640万円。
いまPHVの最廉価グレードを自分で適当に見積もったら、税込みで約650万円となった。
さて諸元を書き留めよう。
- 車体サイズは4,740×1,890×1,685mm
- エンジンは2.5リッター4気筒の自然吸気
- エンジンの最大出力は188ps/6000rpm
- エンジンの最大トルクは250Nm/4000rpm
- モーターの最大パワーは175Ps/275Nm
- エンジンとモーターを足すと363psと525Nm
- 車両重量は2040kg
- 電池容量は7.5Ah
- 最小旋回半径は5.4m
- タイヤサイズは前後とも「235/60R18 103V」
- 4WDの8AT
- ホイールベースは2,870mm