冒頭のまとめ
タイヤが滑らずに伝達できるギリギリのパワーで恐ろしいほどの加速力を出す。
ハンドリングもニュートラルでドライビングが楽しい。
オートパイロットに運転を任せれば操作もほどんど要らない。
しかし荒れた路面へのいなし方や130km/hオーバーの速度域でのフワフワ感、高速巡行時の著しい電費悪化や意外と短くない充電時間など、EVとしての弱点も垣間見える一台。
初見には意地悪な操作系と合わせ、「このクルマが好きだ!」という人以外には勧めづらい一台だ。
この試乗では、東京から仙台の間を1日で往復した。詳細な旅程は以下の記事で解説している。
外観
私が借りた個体はラッピングがされていた。
内装
動画や写真をほとんど撮っていなかったが、モデル3はグレードごとの内装の違いはほとんどない。
ヒートポンプが搭載された2021年式は、センターコンソールの開口部がピアノブラックからマット調に変更されている。
慣れるまでは使いこなせるか分からないような操作系。
位置関係を正確に把握していないと、走行中に操作するのはかなり危ない。
静粛性とオーディオについて
以前スタンダードのRWDモデルに乗った際は、明らかにカーオーディオの音質がショボかった点を愚痴った。
当時の私はオーディオにも疎かったのだが、それでもケチを付けたレベルで音が不鮮明で音量不足だった。
しかしロングレンジグレードになればまるっきり世界は変わる。
音量を上げれば感動するほどの音響空間が車内に広がる。
鮮明な音が大音量で響き渡るのだ。感動的である。
よっぽどのガチ勢でもない限り、スピーカーに手を加える必要は無いだろう。
音量調整はステアリングの左側のボールを上下に転がして行うのだが、指で投げ飛ばすように回すと一気に音量を大きく上げ下げできる。
タップタップタップタップタップタップタップタップ短時間超連打みたいな操作を要求される車種も多い中では地味にありがたい。
遮音性にも特に不満は感じなかったが、BYDシールを100とすると本車は83点程度だろうか。
別に本車自体は悪くない。快適な音響空間で過ごせるのだが、BYDシールの凄さを知っていると見劣りしているなとは思ってしまう。
車中泊適正について
最高である。
まずセダンタイプとなっているため、シートを倒して寝そべれば身体の半分はトランクの暗闇に隠れる。
窓の目張りと快適な布団のセットさえ行えば、かなり快適に眠ることが出来るだろう。
2021年式以降ではヒートポンプシステムが搭載されるため、寒い環境下で暖房を使っても電池の消耗が抑えられるようになった。
試乗車の価格・グレード・スペック
EVsmartのグレード・年式の一覧表を見るのが最も分かりやすい。
実は2019年式から新車価格は150万円もダウンしているのが注目点。
その上にバッテリー容量が約5kwhアップしている。コスパが劇的に上がっているのだ。
個人的には車両重量の増加が気になる点ではある。
機関部の効率性が向上したのか、電費改善により航続距離低下はあって無いようなレベル。
エアコンも2021年からヒートポンプ式を搭載しているため、寒冷地で長距離・長時間運用する場合は21年式の方が電池の持ちが良い。
- 車体サイズは4694x1849x1443mm
- 車両重量は1801kg
- バッテリー容量は79.5kwh
- フロントモーターは158kW(215PS)/240Nm
- リアモーターは208kW(283PS)/350Nm
- epa航続距離は568km
- epa電費は6.44km/kwh
モデル3のグレードごとの違い
モデル3には3つのグレードがある。
価格もバッテリー容量も加速力もカーオーディオの質も削ったエントリーモデルのRWD。
四輪駆動化して加速力を大幅強化しつつ、大きなバッテリーを積んだロングレンジ。
運動性能に特化するために航続距離性能を削った最上位のパフォーマンス。
この年式のロングレンジは約449馬力だが、パフォーマンスは約480馬力を有する。
これは約6%の出力増加である。
しかし車両重量は約130kg(約7.5%)増加し、電費は16%悪化する。
電費悪化による航続距離減少や車重が増えるとワインディングにおけるコーナリング限界の悪化などを考えると、個人的なオススメはロングレンジである。
そもそもロングレンジモデルでも恐ろしいほど加速は速い。
実走行インプレッション
取り回し
大きいと言うほどではないがコンパクトだとは呼べないようなサイズ。
窮屈な駐車場では余裕がない。丁寧な操作を求められる。
軽自動車ならサッと出られる駐車場でも、1回は切り返さないと当たってしまいそうだ。
横幅は1850mmしかないため狭い道でのすれ違いは普通にこなせる。
これだけカメラが付いているのにアラウンドビューモニターが非搭載なのは残念であったが、アップデートでコレに近いものが追加された。しかし精度がよろしくないため状況把握程度にしか使えない。
パワートレイン
正直言って速すぎて怖い。
ベタ踏みするとタイヤが滑りそうになるギリギリのトルクでパワーが伝達されて行くのを感じる。
滑らずに伝達できるギリギリのパワーで危うい加速をしているのが分かる。
ベタ踏みすると恐ろしいほどの加速力で吹っ飛んでいく。
400馬力以上あるので当然と言えば当然だが、こんな恐ろしいクルマが”エコカーですよ”っていう顔して乗られているのは意味不明。先日乗ったWRX STIよりも速い。
強い加速力を要求される場面でも合流は余裕。
普段から加速設定をノーマルにしていると、クルコン走行中に前が開けた際に怖いくらいの加速をするので”コンフォート”設定で抑えて乗ることになるだろう。
回生ブレーキ強化モードをオンにすると、ブレーキペダルを踏まないで良いレベルの減速Gを自動で立ち上げられる。ダウンヒルも安心して走れるぞ。
乗り心地
硬めにセットされているが、アシがある程度はストロークをしてくれているので充分な快適性が出ている。
しかし本車のスピードレンジの高いアシと、工場地帯で見かけるようなガッタンガッタンの劣化しまくった穴ぼこ路面を30~40km/h程度で流す状況との相性は最悪。
不快な叩きつけを断続的に喰らう。
乗り心地を犠牲にしたくないなら過剰なインチアップは避け、空気圧も気持ち低めにして運用したいものだ。
なおだいたい130km/hに迫って来るあたりだろうか。
減衰力が不足気味になるようで、上下方向へのフワフワとした動きが出始める。
電子制御ダンパーで減衰を締められれば解決できるんだが…
ついでに言うと法定速度の+15%以上のペースで走っていると電気の減りがむちゃくちゃ速くなる。
見込み航続距離は400kmを下回って来るレベルだ。ロングレンジを名乗れないくらいの悪化。
加速性能をこれ以上上げる必要はないが、フワフワ感と電費悪化がもたらす高速域の弱さはロングレンジグレードの弱点である。
ハンドリング
意外と小径なステアリングホイール。一回転でロックするのが印象的。
重量配分にも重心の低さにも安定性にも優れるEVセダンとしての基本構成をフルに活かし、非常に優れたハンドリング性能を実現している。
旋回時には全く重さが無く、ニュートラルな操作感で気持ちよくカーブを曲がっていく。
モータートルクと相まってコーナリングの全てが楽しい。
カーブの入り口から出口まで、タイヤグリップを気持ちよく使い切って走ることが出来るぞ。
交差点の左折1個取っても、乗りものの動きを味わいながら楽しいコーナリングを行うことが可能。
気になることとして、以前乗ったスタンダードよりもバッテリーが大きい分車重が増えている。
これがコーナリングにおいて確実に重りとしてのしかかってきている。
雨にぬれた路面でもしっかりとグリップはしてくれる。
BYDシールとは異なり、不安感も特にない。
しかし、40km/h制限のワインディングの急カーブで追い込んでいくと明らかに重い。
回生ブレーキでガッツリ車速を削ってくれるのと、前後の重量配分が優れておりリア側のグリップも使いやすい点が救いとなって問題は起きないが…
私が普段乗っているアンダーステアのフロントヘビーFFとは異なり、ダウンヒルのUの字カーブでもアウト側のフロントタイヤだけが踏ん張るような曲がり方はしない。
バッテリーの大きさとのトレードオフであるが、この程度なら私は許容できる。
逆に言えば、これ以上重くなるようなら日本のワインディングを走るのはしんどくなってくるなぁという重量。