キックスはオンロードスポーツに振り切りすぎだ【インプレッション】

クルマ・バイク

約300万円の本体価格でオシャレかつ上質な素材を用いた内装が特徴的なコンパクトSUVのキックス。

e-Powerこそ滑らかで快適な車内空間を持つが、パラメータを走行安定性に振り切り過ぎていて乗り心地が犠牲になってしまっている。

スポーツカーに勝るレベルの圧倒的な走行性能を始めとした、実物に触れて乗ってみないと分からないあれこれをレポートしていこう。

kicks
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外観と内装について

賛否両論があるようだが、運転してみて上質さを知れば中身に見合った外観であると思える。

SUVスタイルを感じさせるモッコリとした後ろ姿。

内装は非常にオシャレ&上質なオレンジ色のレザーで彩られており、特別感が味わえるものとなっている。

樹脂が目立つ部分もあるが、300万円のクルマであることを忘れてはいけない。

価格に対する世界観の演出は高いレベルにあるぞ。

試乗車のスペックと価格・グレードについて

オレンジ色のオシャレな内装が最大の魅力である、新車価格290万円の「X ツートーンインテリアエディションだろう。

FFのe-Power搭載モデルで、1360kgの車重に対して280Nm(136PS)のモーターでフロントを駆動する。

運転してみてのフィーリングとしては、微妙に加速性能が物足りないので買うなら4WDをオススメするぞ。

オレンジのレザーが内装の質感を大きく高めていて、基本的な装備やパワートレイン・走行性能も充分で値段に対する満足度は中々に高い方だと思う。

実走行インプレッション

e-Powerについて

発電専用のガソリンエンジンを搭載したEVである日産お得意のe-Power。

登場からはかなり年数が経っているが、何気に私は初搭乗だった。

始動するとエンジンが掛かるため走り出しはガソリン車っぽい。

だがアクセル開度を抑えて走行している限り、いまエンジンが始動しているのかいないのか判別できないレベルの静粛性を誇る。

合流加速などでベタ踏みが必要になる際も、そこそこ気持ちの良い加速を披露してくれる。

でもせっかく元気よく唸るガソリンエンジンを搭載しているのだから、このエンジンを加速に使わせてくれよと残念な気持ちになる。

コンパクトカーとして考えれば充分なのだが、電動車として評価するなら微妙に加速性能も物足りない。

4WDモデルならさらにモーターが追加されるため、私は4WDモデルをオススメする。

強く踏むと相応にエンジンも高回転まで回るため、e-Powerの近未来的なイメージは広告戦略の賜物だったのかと思ってしまった。

スポーツに振り過ぎたハードな乗り心地

段差を超えた際にほんの少しだけ動いてくれるが、全く吸収せずにフレームにゴンゴンと衝撃を入れてきて身体が揺れまくる。

下の画像の路面、微妙に色が変わっているのが分かるだろうか。

ちょっと継ぎはぎしてある程度のなんてことはない路面なのだが、この程度の段差でもかなり激しく揺れる。

「日本の公道って、こんなに路面が荒れていたんだ」と再確認できるレベルの硬さ

レンタカーだから空気圧がパンッパンに高くて、
温間時に測定したら3.0に行くレベルで空気詰めてる。
そうでもしないと説明できないレベルです。

私の試乗動画中のコメントより

快適性を犠牲にしたぶんで圧倒的な走行安定性を手に入れてはいるが、明らかにスポーツ性に振り切り過ぎ。

優れた雪道性能を知ってから私はXVとキックスのどちらかを雪道用のアシ車として検討していた。

しかし乗り心地を犠牲にしすぎたキックスは少なくとも私の選択肢から外れてしまった。

「GT-RのNISSAN」を感じる同格の中でもトップクラスのシャープさ

快適性を犠牲にしているだけあって、走行安定性はピカイチだ。

大雨の中で名古屋の都心環状の急カーブを攻め込んでも、SUVであるクセに全くフラつかない。

ロールは強く抑え込み、切った瞬間から吸い込まれるようにシャープに曲がっていく。

この手のSUVにありがちな、持ち上げられた最低地上高と大きくて重たいホイールのコンボによる鈍重&不安定な旋回フィールは一切出てこない

フロントのスタビを強くしてアンダーステア傾向にしているようだが、追い込んだコーナリングをしていても全く違和感がない。むしろ適度にフロントタイヤを路面に押し付けられるため、地を這うような安定性が維持されて安心してコーナーを攻められる。

外側のサスペンションをフルに踏みつぶしながら急加速も同時に行い、左フロントのサスペンションとタイヤに最大の負荷を掛けた状態で雨の段差をガタンと超える。

こんな考えうる中で最悪な入力を与えても、一瞬だけ滑っただけですぐに揺れが収まった。

不安定に繋がりそうな動きを徹底的に排除している。

硬派な足回りと剛性の高いボディーによって、この手のSUVの中でもめっぽう高い走行安定性を手にしている。

300万円程度のコンパクトSUVではあるのだが、「さすがGT-Rを作ったメーカーだな」とどことなく思わされるような切れ味だった。

しかし快適性を犠牲にしてまでここまでやる意味はあったのかと私は思った。

グレードがnismoだったらこの動きでも納得したのだが、そういうの無いみたいだし…

都会派SUVみたいな商品性なのに、アシが硬すぎるのよ。

C-HRやXVのように、ある程度はしなやかに上下に動かしてから不安定にならない程度に収束させるようなショックアブソーバーだったら良かったのだが…

悪路走行について

最低地上高が担保されているので悪路走行も擦らずに行ける。

「キックバック」の懸念について述べる動画をネットで見かけたのだが、運転してみて理解した。

ガタガタ路面を走っていると、穴ぼこに落ちたり段差を超えた際に、フロントタイヤがガタンと落ちる場面がある。

そういう状況でのハンドルの暴れ方というか動きが少々大きい。

ステアリング周りの方式の違いが表れているようだ。

本格的なオフローダーとしては設計されていないことを頭の片隅に入れておいたほうが良さそうだ。

…とはいってもe-Powerの電子制御は同格と比べてもトップクラスに優秀だけどね。

その他のあれこれ

非常に優秀な小回り性能

5.1メートルという最小旋回半径はダテではない。

普段だったら躊躇う、大柄なクルマならそもそも試さないようなUターンがすっきりと決まる。

画質は劣悪だが静止画よりは分かりやすいはずだ。2車線道路でもUターンし放題である。

またハンドルの戻りのフィーリングも自然で、自分で切らなくても勝手に戻っていく。

静粛性について

遮音性を意識したガラスを採用していたようだが、ある程度スピードを出すとあんまり静かさは感じられなくなってしまう。

40~50km/h程度の街乗り領域なら良好な静粛性があるように思う。

アラウンドビューモニター機能のショートカットボタン(☆)の分かりづらさ

ナビの右下に付いている「☆」のボタンを押すと、アラウンドビューモニター機能を走行中でも使うことが出来る。

なぜ「☆」マークなんか選んだのか。パッと見でお気に入り機能の割り当てにしか見えないし、いま振り返ってみれば実際に「お気に入り」機能に本体設定でアラウンドビューモニター機能を割り当てていただけだったのかもしれない

1回数十分~3時間程度乗るだけのレンタカーで、そんなに詳しいことを調べている余裕がなかった。

しかし少なくとも、車内を探し回ってもアラウンドビューモニターのショートカットボタンは無かった。

カーナビの見づらさ

アラウンドビューモニターや日産のコネクティングシステムと対応しているカーナビだが、40km/h制限の道路と住宅街の路地との区別が付かないという欠陥を抱えている。

これは同じ場所をGoogleMapで表示したものだが、道の太さでだいたい道路幅が分かるようになっている。

カーナビはわざわざ大通りを使って迂回していくような無駄に遠回りするルートを案内してくる。

グランエースやダンプカーのような大型車ならまだ分かるが、経路探索の知能が低いと言わざるを得ない。

プリウスシフトについて

Pがボタン。

右下に入れたらD。

右上に入れたらR(バック)。

そんな動かし方をするプリウスシフトを搭載。

カーシェア車だからホコリっぽいのはあまり気にしないで欲しい。

ここだけ2015年くらいの低価格車みたいなフィーリングであったし、プリウスシフトは世間では不評の極みである。

このクルマのボトルネックになりかねない要素だ。

走行システムに関するボタン配置について

スタート・ストップスイッチはセンターコンソールの右上に埋め込まれている。

個人的には不慣れな場所であったので、実は初回の走り出しの際に探してしまった。

ちょっと奥まっていて押しづらい気がしないでもないが、慣れればスムーズに発進できるため良い配置だと思う。ちょっとだけGT-Rっぽいかも。

また左端の「DRIVE MODE」でエコ、ノーマル、スポーツを切り替えられる。

真ん中の「EV」は押すとマナーモード(EV走行最優先モード)と通常モードを切り替えられる。

長押しでチャージモードが起動する。

プラグイン系ハイブリッドとしては標準的な機能となっているが、少々案内が足りないかも。

ワンペダル機能の使い勝手について

ブレーキを離すだけで勝手に減速してくれて、完全停止→ブレーキホールドまで自動で行ってくれるので街乗りではラクだ。

しかし、完全にペダルから足を離すと制動力が強すぎるので、微妙な力加減を探りながらアクセルを踏んで停止位置を調整しなければならないという本末転倒現象が起きがち

ペダルを踏む力に対する制動力の立ち上がりが通常のブレーキと比べて不自然に感じやすいため、私の場合は逆にこの動作は疲れるしストレスになる。

切ってしまいたかったのだが、どこを探してもそういうメニューやボタンが見当たらなかった。

ネットで「キックス ワンペダル 切り方」と調べても有力な情報は出てこない。

私みたいな「普通のブレーキホールドで充分すぎる」と思っているユーザーのために、すぐ見つけてオンオフ出来るところに選択肢を用意してくれれば良かったのに…。

エアコンの調整ダイヤルの質感の高さ

エアコン操作は物理ボタンだ。これは素晴らしい。

シートヒーターも自然に埋め込まれており、デザインと機能のバランスが良い感じだ。

またエアコンの風量・温度調整ダイヤルの回し心地が上質で高級感があるのだ。

一段階ごとにしっかりと重さがある。ぜひ試してみて欲しい。

センターコンソールの奥側にはスマホを置けそうなスペースがあり、USBとシガーソケットもあるので使い勝手が良さそう。ワイヤレス充電パッドがオプションや社外品で付けられればもっと良くなるのだが。

微妙に遠いハザード

車内に溶け込んだデザイン的に良い位置に配置されるハザードだが、そのせいで微妙に奥まったところにあって押しづらい。

運転していると咄嗟にハザードが使いたい場面というのは少なからずあり、それが安全に関わることもある。

(流れの速い国道区間での、急カーブ直後の交通事故現場への遭遇など。)

ブラインドで押すには位置が分かりづらく、サイズも小さいため押しづらいハザードというのは個人的には理想的とは思えない。

試乗前のリサーチ

価格について

300~400万円程度の価格帯である。

買いやすい価格と上質さが両立しやすい領域だ。

スイッチの感触に対して苦言を呈するようなコメントも見たことがある。触れた際の質感はしっかり確かめていく。

デザインについて

公式サイトでかなり美しく紹介されている。

上質感がある。

パワートレインについて

第二世代になったe-Power。

トルクが向上してさらに強力な加速力を手に入れた上に、ペダル操作に対する加減速の効き方も自然に感じるような調整が入ったようだ。

FF車(1360kg)の場合は280Nm(136PS)のモーターをフロントに、4WD車(1480kg)の場合はこれに比べて100Nm(68PS)のモーターもリアに追加される。つまり4WD車はシステム合計で380Nm(204馬力)となるわけだ。

(乗車後の振り返り:FFモデルに乗ったが、初期加速こそ恵まれているものの特段と速いわけではなかった。せっかくのモーター駆動車なのだから、よりパワフルな4WDをオススメする。)

フレーム・足回りについて

公式サイトでもあまり深くは語られていなかった。

(実際に運転してみて振り返ると、かなりオンロードスポーツに振り切った足回りだったぞ。)

プラットフォーム

安定性や操作性、乗り心地を高めるプラットフォーム

上級小型車向けプラットフォームを採用。車体剛性を最適化することで、ふらつきにくい安定感のある走りを実現。さらに、操縦性や乗り心地、静粛性の向上にも貢献しています。

サスペンション

コーナリングや段差の乗り越しも安定した乗り心地を実現

キャスタートレールを延長したサスペンションジオメトリーを設定。タイヤからのフィードバックを着実に受けることができ、コーナリングでの安定した走りを叶えます。また、専用のダンパーや高性能バルブにより、段差でも快適な乗り心地を実現します。

雪道・オフロード性能について

日産のe-Powerの四輪制御システムは同格と比べても最高峰の実力を有しているらしい。

私は雪道で乗ったことが無いが、凍結路を安心して乗って行く上でベストカーになりうるレベルがあるとか。雪国のアシ車としても前向きに検討したい。

個人的にはこの点がスバルのXVと直接的に競合する。しっかり運転フィールを確かめて来たい。

その他の創り込み

遮音性の高いガラスを採用。エンジンの巡行回転数を下げるようプログラムしている。

目に見えないところにもコストを掛けて、快適な車内空間を作ろうとしているようだ。

(乗車後の振り返り:確かに低負荷走行時においては、いまエンジンが掛かっているのか否か、モニターを見るまで分からなかった。べた踏みすると流石にエンジンがうるさいが、それだけにゆっくり走っている場面での静粛性にe-Powerの魅力を見出せる。)

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