先代クラウンの最上位グレードとほとんど同じ価格帯で、サイズ感や風格もどこかクラウンに似ているレクサスフェイスのミドルサイズセダンであるES。
日本では2.5リッター直4ハイブリッドオンリーで、横置きFFの重量配分はフロント1000kgリア約700kg。これがどう運動性能に影響を与えるのか、与えないのか。
今回はトヨタレンタカーで一晩借りることが出来たので、中央道やヴィーナスラインなどの深夜の長野県を走って様々なスピードや走行条件でこのクルマの快適性や運転フィールを確かめてきた。
冒頭のまとめ
全体的にスポーツ性よりは落ち着いた走りに重きを置いたセッティングとなっており、「雑味の無い」という表現がよく似合う乗り味となっている。
高速域で段差やうねりを越えて姿勢が乱れた際も、微振動が瞬時に収まるため恐怖感がない。
オービスが光る速度域でもビシっと安定して走っていくことができ、雨や登り勾配をもろともしない。
日本で乗るならこれくらいのバランスがちょうどいい。
早い段階から車体を上下に動かしてやることで路面の揺れに追従させるような珍しい乗り味。
絶対的な衝撃吸収量が不足気味なので穴に落ちるような場面ではズダダダンと叩きつけられる。
ワインディングでは安定性に振り過ぎた動きによって身軽さを発揮できない。ターンインの際にフロントがアウト側へと逃げるようにアームとブッシュが配置されている。
試乗車のスペック・諸元
時間が無かったのでグーネットカタログと公式サイトの諸元を貼り付けておく。
運転フィールについて
パワートレインについて
走り出しからトヨタとの違いがわかる滑らかな動き出し。
数値の出力自体はトヨタのクラウンと大きくは変わらないが、明らかにトルクの出方が違う。
純ガソリンほどの気持ちよさや直6エンジンのような官能性はないが、高回転域までスムーズに加速していきグイグイと速度を乗せていく。
じわじわとアクセルを踏み続けてしまうと、持ち前の安定性と相まって知らぬ間にかなりの速度が乗る。その状態で警戒を怠ると、覆面に免許を停止されたりオービスが光るだろう。
擬似的に多段式としてパドルシフトで操作できるモードがあるが、常にゴムのように減速比が連動してしまう印象を受ける。
シフトチェンジをサボりながら、ギア選びを考えずに適当に踏めるのはいいが、スパスパと気持ちよくギアを変えたい人には不向き。
ゆったり快適に流すことを優先して作ってあるので、いちいち回転数を気にせずに適当に踏めるラクさを優先したのだ。
ハンドリングについて
スポーティーというより落ち着きを重視した走り。
市街地
慣れるまではちょっと大きさを感じる場面はあるが、基本的にクセがなく乗りやすい。
ハンドルも軽く操作できる、標準的なセダンといった感覚だ。
普段通りの丁寧な運転操作を心がけている限り、上品な車内空間で移動できる。
高速域
高速道路では非常に安定しており、いちいちグラつかないためスピードを上げていっても全く不安定感がない。
ブレーキを踏んでもあまりノーズダイブせずに動きがビシッと収まる。
特に中央道のうねりや段差を越えた際の安定性が素晴らしく、恐怖心や不安定感に繋がるような細かい動きが瞬時に打ち消されている。
これによって非常に高いライントレース性を実現しており、シャシーの余力だけで巡航速度を決めてしまうとリミッターに当たるかオービスを光らせることになる。
私が中央道を走った際は雨が降っており、轍に雨水が溜まってハイドロプレーニング現象によって片輪だけが大きく持っていかれる状況もあった。
しかし少しだけアクセルを入れつつ落ち着いて操作してやれば、ここでは書けないほどのスピードで巡行していても何も不安要素が無い。
約2倍速のスピードで上り坂の中央道を気持ちよく流すことが出来る。
必死感を出さずにこれだけのスピードで高速道路を走れるうえに、安定性が素晴らしく高い。
高速道路の長距離巡行にこれほど適したクルマは居ないと感じた。
市街地での上質感ある乗り心地の確保のために、微振動を消すような機構が足回りに付いているらしい。
これが走行安定性にも寄与しており、雨の日の中央道をかっ飛ばす際に最高の安心感をもたらしてくれた。
ワインディング
安定性を優先しすぎて身軽さが犠牲になっている。
ターンインの瞬間から全体的に旋回性は控えめで、ダバっとハンドルを切っていくと前が旋回初期からアウトへ逃げて行こうとする動きが出る。
ゴムブッシュの配置を工夫してやることで、アウト側のフロントタイヤのアライメントが曲がりづらい方向に動くように意図的にやっている感すら感じる。
ハンドルを切っても、グイグイ入るというよりはワンテンポ遅れて重さを伴ってじわじわと曲がっていくイメージ。
ノーズの軽さは特になく、ワインディングが楽しめると評するのはちょっと難しい。
約1.7トンの車重を前1000kg:後700kgに割り振った横置きの直4ということもあり、安定性と落ち着き最優先な旋回だ。
明らかに峠道を攻めるような設計で作られていない。
モーターアシストで出口からは気持ちよく加速していくが、素の重ためな旋回フィールはどうしても気になってしまう。
高速道路ではブレない安定性が頼もしかったが、ワインディングでは軽快感に欠ける動きが足かせになってしまっている。ゆったり流すのが一番良い。
ワインディングを楽しみたいなら他のレクサスを選ぼう。
弱点:ステアリングアシストを完全に切れない
メーター内の本体設定からステアリングアシストに当たるものを全オフしても、なぜか完全に切ることができない。
高速道路を気持ちよく走っていても、ワインディングで位置合わせのために白線に寄っても、微妙にハンドルを持っていかれるのが鬱陶しくてストレスで仕方ない。
安全とのトレードオフなのでESとしては良いが、その他のトヨタモデルでもモノによっては完全に切れないのは本当になんとかして欲しい。
スポーツ性をさらに削ぐ要素となっており、走り好きにわざわざESを勧めづらい要素の1つとなっている。
乗り心地について
ある程度は衝撃をフレームに入れるが、その後にボディ全体をイカダのようにゆったりと浮かせながら上下に動かして追従させるような動き。
アシをたっぷり上下に動かしたり、バンプラバーを圧し潰しながら揺れを受け止めていくクルマが多い中では珍しいなと感じた。
ストローク量というかダンパーでの揺れの吸収量はそこまで多くなく、比較的早い段階からボディをゆったりと上下に揺らしつついなしていくような乗り味。
このせいで片輪だけ路面の穴ぼこに落ちるような状況ではダゴンとフレームに打ち付けられるような衝撃が入って来る。
中央道を中津川あたりから名古屋まで流したところ、約10kmに1回くらいのペースでしんどい入力を食らってしまった。
低速域ではビリビリとした振動がなく、高級感のある乗り味を味わえる。
弱点が出るのは肩輪だけ陥没した段差に落ちるような場面だ。
中央道を下っていたが、10kmに一回程度の頻度でこの硬さが出た。
内外装紹介
内外装の写真を撮り忘れたので公式サイトから一部引用していく。
外装について
L字型のスピンドルグリルを前面に押し出したLSと同系統のデザイン。
リアは上下方向からラインが集まってきて、中央部に収束するようなデザインをしている。
正真正銘のレクサスのセダンだが、激しい主張はしない。そんな大人な佇まいである。
内装について
上品なレクサスのセダンに乗っていることをしっかりと体感できる運転席。
特にステアリングホイールが美しく、ウッドの茶色とグレーっぽい色のコントラストはいつまでも眺めていられそうだ。
ステアリングのボタンはデザイン上は美しく配置されているが、奥まった位置にあるからか夜の暗闇の中では微妙に押しづらく感じる場面があった。
ウッドとメタルとレザーの素材の組み合わせも上品で、異なる材質がケンカせずにドライバーを包み込む。
空調の操作系は安心と信頼の物理ボタン。
メタリックなパネルがカッコイイ。
実はこの音量調整ダイヤル、二階建てになっている。
奥側と手前側で異なる機能を持たされているのだ。押すとパワーオフになるっぽい。
置くだけ充電のあるセンターコンソール。シンプルだがカッコいい。
シフトノブの上の謎のフタは、開けるとUSB充電口が出てくる。
奥側には小物入れと、シートやステアリングのヒーターやベンチレーションの操作系がある。
芸術性を感じる凝った形状のドアハンドル。助手席のパワーシートもメモリー機能付きとなっている。
嬉しいことにサンルーフが全グレードに標準搭載される。
二列目について
二列目のアームレストを下げると、シートやエアコン、オーディオなどの操作パネルが姿を現す。カップホルダーと小物入れも兼ねており、二列目の人は大喜びだろう。
センターコンソール後部には2個の充電ポートと家庭用コンセントも備わる。
送風口の下側に入ったウッドが非常にオシャレだ。
ちなみにこのコンセント、トランクにも装着されているぞ。
エンジンルームについて
エンジンを開けてみたところ、残念ながら横置きとなっていた。
50プリウスを所有している私には見慣れたパーツもあったが、よく見るとBMWやメルセデスと同等の工夫が行われており興味深い。
エンジンカバーはただのプラスチックではなく、形状に凝ったレクサスエンブレム付きのものとなっている。さすがにフルカバーではないようだ。
エンジン横のモーターだかインバーターの黒いカバーやラジエーターキャップ、各種ハーネス類はプリウスで見慣れたものが含まれている。
バルクヘッド側を覗き込むと遮音材が貼られているのが見て取れる。
また左右のストラットを繋ぐボディ剛性強化のタワーバーも這っており、さらに観察するとバルクヘッド側にも繋がっているようだ。フロントの重厚感ある走りを産んでいる要素の1つかもしれない。
もっと注意深く観察していると、BMWのエンジンルームでしか見かけないような補強を発見した。
その他のあれこれ
コストダウン・トヨタ要素
なんというか、この価格帯の高級車についてよく知らないままレクサスに対して「コストダウン」だとか「トヨタだ」とか言う人がネットにはやけに多い。
ここではそれっぽい要素について話していこう。
まずはキー。専用のデザインが施されており非常にカッコいいのだが、素材はプラスチックだ。700万円級のクルマってこんなモノだろう。
次にエンジンルーム。理路整然としていて好印象だが、よく見るとエンジンの隣にあるモーターだかインバーターのカバーは私のプリウスと全く同じ色・質感となっている。
リザーバータンクのDENSO印のキャップも私の50プリウスと同じ。
しかし、詳細は記事内で触れたとおりのレクサス仕込み。
またこれは本当にどうでもいい話だが、トランクの床を開けると鉄板がむき出しになってしまう。
コーキング剤のようなものが塗られているが、これは私が所有しているZN6のハチロクと全く同じものだ。
当たり前すぎて言っていなかったがナビシステムもトヨタと同一。
メーター内のエコモニターやアルファベットの羅列が混乱を招く各種設定メニューもトヨタと似通っている。
乗り物としての基本構成はトヨタのものを受け継いでいるのが見て取れる。
レクサスESはメルセデスのEクラス、BMWの5シリーズに競合するだろうが、私は双方に乗ったことがないのでどこかのタイミングで試乗してみたいものだ。その際にまた比較していこう。
オススメしたい人・しない人
オススメする人
- ギリギリ乗りやすいサイズ、買える価格帯に収まっている大人なセダンが欲しい
- レクサスのミドルサイズのセダンが欲しい
- あんまり飛ばさない
- 二列目の人にも快適な移動空間を提供したい
- 高速道路を長距離走る
- そこそこは走りを楽しみたい
- 急ハンドルでスピンしそうになるような危ない挙動のクルマは嫌だ
- 大雨の路面や凍結路も安定して走りたい
- サンルーフが欲しい
オススメしない人
- ハンドリングが軽快で、アクセルを抜くだけでスッと曲がっていくマシンが欲しい
- 高回転域まで官能的に回るエンジンが欲しい
- 車中泊する,大きな荷物を載せる(2列目の背面が倒れないため。)
- 家の駐車場が窮屈
おまけ:深夜の中央道をドライブするときは、駒ヶ岳サービスエリアのソースカツ丼をほぼ毎回食べている。揚げたてのサクサクした味わいと甘いけど衣の触感を崩さないソースが最高だ。
以前から下り(名古屋行き)は量も値段も少しだけ多かったが、値下げがなされたようだ。これに伴ってカツの量も減っている。
最後の2~3枚を胃もたれやお腹の気持ち悪さと戦いながら食べていたところが、このボリュームダウンにより丁度良い塩梅になった。