2代目S4の圧倒的な総合点に感動してから数か月、VAG型のS4にも乗る機会を得た。
しっかりと比較するつもりであったが、意外な結果に…
冒頭のまとめ
私も気になっていた、好きなクルマのうちの一台なのだが、正直言うとガッカリしてしまった…
ネットでは現行型のS4を悪く言う意見が非常に多いが、いざ乗り比べてみると悪い意味で比べ物にならない。年式の差が歴然だ。
エンジンは高回転域で非常に刺激的な加速を魅せるが、逆に2000~3000回転台の出足が悪く排ガスも非常にガソリン臭い。
足回りはストロークこそしてくれるが衝撃吸収はほとんどなく、剛性が不足しているフレームにゴツゴツと揺れが入りまくる。後揺れも多少ある。
ハンドリングもFFのような安定性最重視のアンダーステアで、STIでは味わえたスムーズなコーナリングは本車では味わえない。
私が乗ったのは初期ロットであるが、2014年に発売されてから2021年に生産終了となるまでの7年間の間の年次改良で足回りへの改良・仕様変更が何度か入っている。
最近のスバル車は市販車トップと言えるほどアシの快適性と安定性のバランスが良い。
初期型と最終型で大きく異なる可能性が非常に高いのだが、とりあえず今回は2014年式での評価とする。
試乗車の価格・スペック・グレードなど
2014年式の「2.0GT-S EyeSight」である。
新車価格は350万円。
- サイズは4595×1795×1475mm
- 最小旋回半径は5.5m
- 車両重量は1540kg
- エンジンは2リッター水平対向4気筒ターボ
- 最大出力は300馬力/5600rpm
- 最大トルクは400Nm/2000~4800rpm
- CVTのフルタイム4WD
Wikipedia先代WRX STI比で捩り剛性は40%以上、曲げ剛性は30%以上、フロントトレッド剛性は14%、リアトレッド剛性は38%向上している
外観
この頃のWRXはレヴォーグと顔つきが似ていたが、WRXのほうはヘッドライト内部のコの字型のラインが入ったり、踏ん張りのあるバンパーデザインが取り入れられている。
大きなスポイラーが付いていたSTIとは異なるシンプルなリア造形。
派手過ぎないほうが好きな人も多いだろう。
ボンネットの裏側には右側にだけゴムモールのようなものが付けられている。
下側を見ると、吸気ダクトに空気を効率よく送り込むための機構だと分かる。かなり変わったことをしている。
内装
発売時の新車価格は300~350万円であった。
高級感こそあまりないが、コストパフォーマンスは良い感じだ。
この年代のスバルと言えばオレンジのイルミネーションである。
シートメモリーのスイッチは珍しいところに付いている。
上位グレードだからか、ステアリングのスイッチは一通り揃っている。
スポーツモードとスポーツシャープモードの2種類があるのがWRXシリーズだが、どのみち3000回転を越えないと持ち前の加速力は出てこない。
新型のS4ほどモードごとの違いは体感できない。
センターのインフォディスプレイはハザード下のボタンで制御する。アクセスが少々悪い。
ブースト計や4WDシステムモニタ、油温計などが表示できる。
えあこんはシンプルな三連丸タイプで使い勝手は抜群に良い。
ストレート式ではあるが、ギア同士が明確に離れているので入れ間違う心配はほぼ無い。
CVTではあるが、パドルシフトで多段式ATとして動かすことができる。
電動パーキングブレーキだがブレーキホールドは非装備。
年式が進むと装着されるようになる。
実走行インプレッション
取り回し
WRX STIでは油圧式パワステだったが、S4では電動パワステに変更されている。
これにより駐車時にズッシリと重かったハンドルが軽くなり一気に扱いやすくなる。
クセのないコンパクトなセダンだが、アラウンドビューカメラやソナーなどは装備されていない。
年式が進むとソナーは装備されるようだ。あんまり要らないけど..
ちなみにシートの座面が全然下がらないというどうでもいいけどちょっと気になる弱点もあった。
こういうクルマなので視点を下げてスポーティーに乗りたかったが、これではちょっとしたリフトアップ車のようなドラポジにしかならない。
背の高い人なら頭上空間に余裕がなくなるリスクもある。どうして…
パワートレイン
低回転域からトルクが出るため、街乗り程度ならcvtとの組み合わせで滑らかに走っていく。
3300回転を越えるあたりから強烈な加速力が出始めるというエンジン特性はSTIと同じ。
1速2速はビビるほど恐ろしい加速だが、3速からは道路状況さえ整えば割と普通に踏める。
現行型のS4はこの世代に馬力でもトルクでも劣るが、乗り比べての印象としては明らかに現行型のS4のほうが加速が速い。
しかも意識して高回転域をキープしない限り、2000~3000回転台から踏んでも加速力がすぐに出ない高回転型のピーキーな本車に対して、現行型のほうはムラなく加速力が出る。
明らかに新型の方が速くて乗りやすい。
なお数十秒のアイドリング程度でも、ちょっとドアを開けただけで気分が悪くなるレベルで排ガスが臭い。
冷間始動も深夜帯の外出を躊躇うレベルでうるさい。
最終型でどこまで変わるか未確認である。
しかし初期型のS4なんて、私にとっては買えたものではない。
乗り心地
下回りを覗き込んだところ、前後ともにビルシュタインのダンパーが入っていた。
しかし中華の模造品か?と思ったレベルの酷い足回り。
ある程度は足をストロークしてくれているが、アシ自体は動くけど揺れをあまり吸収してくれない。
市街地のちょっとした段差程度でもゴトゴトとした衝撃が剛性の足りないフレームに入って来る。
また揺れの収まりも少々悪く、上下へと揺れ続けるような動きも出てしまう。
上質なグランドツアラーを想像していたが、特筆するほど良いようなものではなかった。
純正のアシがこの程度のレベルなら、車高調に換えてもローダウンしてしまえばいい。
年次改良に期待したい。というか、最終型をなんとかして見つけてきて乗ってあげないと私の中でのVAGのイメージが悲惨なことになってしまう。
新型のS4やフォレスター,XVなどなど、スバル車はいま世界トップにアシの作りが上手い自動車メーカーである。2020年に入るころには流石にこのS4にも良いアシが入っていると信じたい。
ハンドリング
あえて過激さを抑えているようだが、元々危険な動きは無かった。
なぜ水平対向の魅力を消したんだ…
ターンインからの旋回がダルめで、ワインディングを飛ばしていてもコーナリングの楽しみはイマイチ。
旋回中は常にFF車のようにアンダーステア傾向で曲がっていく。
急ハンドルを切れば俊敏に動いてくれるが、本来の性能が大きく削がれている印象は拭えない。
WRX STIは水平対向の特性を活かした旋回性を感じられたが、本車はただモッサリしているだけ。
STIにも危険性や過剰な刺激は無かったので、S4をここまでアンダーステアにする必要は無かったように思う。
なぜ水平対向の魅力を消したんだ…
常に安定した姿勢を保ったまま、高回転型エンジンをぶん回して楽しめると言えば聞こえはいいけど…
やろうと思えば一晩中借りて乗ることもできたのだが、一通り撮影と運転テストが終わったタイミングで返しに行ってしまった…