ホンダのSUVといえば、「ヴェゼル」や「CR-V」が思い浮かぶことだろう。
だが、今回乗っていくのは「ZR-V」だ。
つい最近出たばかりのホンダ車のSUVらしいが、その中身はどうなっているのか確かめていこう。
なお、今回の試乗車は、ホンダのEveryGoで借りた。
大前提:ヴェゼルとZR-Vについて
実は私は、ホンダ車のSUVについてよくわかっておらず、「ZR-Vって、ヴェゼルの後継車なの??」と思っていた。全く以てのとんちんかんである。
レビューに入っていく前に、簡単に基本事項を確認させて欲しい。
SUVのコア価値である「実用性」と、最新の安全装備と衝突安全性能が生み出す「信頼感」に加え、異彩を放つ存在感のある「デザイン」、そして爽快かつ快適な「走り」を高い次元で兼ね備えることを目指して開発された
グーネット 諸元ページより
これに対してヴェゼルは、wikipediaの情報をまとめると、「SUV・クーペ・ミニバンの特徴を融合させ、3代目フィットをベースに開発した、世界戦略車のコンパクトSUV」となる。
両者の間には、同じパワートレイン・駆動方式で比較すると、100万円近い価格差がある。
「まるっきり違う二車種であること」を頭に入れて、本題に入っていこう。
ちなみに、このZR-Vは、新型シビックがベースとなっているようだ。
それもそのはず。詳しくは後述するが、走りもとびきり良かったぞ。
試乗車のスペックについて
例によってグーネットの諸元ページから、スペックを紹介する。
また、車内装備から、新車価格約295万円の最廉価の「X」グレードであると予想される。
- サイズは4570×1840×1620mm
- 車両重量は1460kg
- 1.5リッター直4ターボ
- 最大出力は6000回転で178馬力
- 最大トルクは1700~4500回転で240Nm
- タイヤサイズは前後とも「225/55R18」
- 最小旋回半径は5.5m
- FFのCVT
なお、上位グレードの「Z」になると、新車価格は50万円ほどアップして約354万円となる。
ワイヤレス充電器やアラウンドビューモニター、外観の加飾やレザーシートなど、差額に充分見合う豪華装備が追加されるようだ。
さらに追加で20万円払うと四輪駆動を選択することもできる。
外観について
叔父様に似合いそうな、大人しいデザインと、精悍なヘッドライトが特徴的だ。
だが、私にはグリルの形が口だかヒゲのように見えて、どうも格好が悪いような気がしてならない…
クーペのように寝かされたリアエンドも、外観のアクセントとなっている。
夜間にライトを光らせているときに見えるラインと、昼間に外から見えるテールランプの形状は、大きく異なっているように感じられる。
それにしても、ヴェゼル同様、町中で全然見かけないのだが、売れているのだろうか…
ちなみに、キーはかなりコンパクトだ。
長押しすると、テールゲートを自動で開けることも可能。
もちろんスマートキーになっている。
電池が切れた際に使う物理キーも、スライドすると引き出すことができる。
内装について
美しい車内空間だ。
シンプルながら上質感があって、芸術性も感じられる。
ルームランプの光量をあえて落として、光による車内空間の演出をしているのだろうか?もしそうだとするなら、ベンツやBMWのような、高級外車ブランドのような世界があると言えなくもない。
運転席に座る。物凄く良い。上質さと、高級感を感じる。
ファミリーカーだか大衆車というと、内装のどこかにコストダウンというか、妥協感があるものだが、このZR-Vは、そういう気持ちに全くならないのだ。
細かいところを見ていくと、現実に引き戻される。
まず、いちばん現実に引き戻されたのが、エアコンのダイヤルの操作感の安っぽさだ。
マツダ車やレクサスに存在するクリック感がまったくなく、回転させると、あからさまに安っぽい回り方をしてしまう。全体が良いだけに、ここが一番の残念ポイントかもしれない。
ちなみに、デザインとしては素晴らしく高級で、物理ボタンであるため操作性にも優れる。ダイヤル内部にも液晶があり、ボタンにもなっている。
なによりも、水平貴重に伸びる、ハニカム状のラインが本当美しいのだ。
エアコン操作盤とも、いい具合にデザインが調和している。
吹き出し口をプラスチックのハニカムで覆うような内装の意匠は、めったに見かけないものだ。
素材自体はプラスチックだが、至高の高級感と芸術性を持つ。
はいそこ、スマホホルダーの取り付けが不便とか言わない。
手を伸ばしやすい位置にカップホルダーがあり、その奥にはシガーソケットもある。
上位グレードになると、奥のトレイ部分がワイヤレス充電器になる。便利に使えそうだ。
センターコンソールはソフトパッド素材で包まれ、触感も良い。
パドルシフトも、マニュアルレンジも無いのは残念だ。
シフトノブの下には、モードセレクターに、ヒルディセントコントロール、電動パーキングブレーキ、ブレーキホールドが並ぶ。
二階建てになっていて、下側には小物置きと、USBポートが覗く。
シフトノブがプラスチックだったのが少し残念だ。ココもレザーで覆えば、一気に高級感を上げられるのに…
新車価格が300万円級であることを忘れさせる車内である。ハリアーと互角だろう。
カーナビの使い勝手もたいへんいい感じだ。
下側に並ぶ物理ボタンのうち、青色になっている部分が「現在地表示」である。
右端の緑色の電源マークはオーディオのオンオフで、ここを押すだけで、オーディオの一発ミュートが可能となる。操作感良好なタッチパネルだ。
ステアリング右側のボタンは、クルーズコントロールの操作系統だ。
中段が設定速度を切り替え、最下段中央のクルクル回す部分で、メーター内部を設定する。押し込むことも可能だ。
左側はカーオーディオ系のコントロールだ。
こちら側も最下段中央部のグリグリで、左側のメーター内部の表示を切り替えられる。
ワイパーは、先端がリアガラス、中央部で間欠作動の間隔調整。カーシェアあるあるだが、ウォッシャー液が切れていた…
パワーウィンドウとミラーの操作系統についても、ダークグレーというかメタリック基調というか、いい具合にカッコよく作られている。個人的にはミラーの角度調整の、まるっこいボタンのデザインが好きだ。
実走行インプレッションへ
素敵な車内空間と芸術性のある外観デザインに見とれていたら、長くなってしまったな。
さあ走り出していこう。
フル液晶メーターの演出について
エンジンを始動する。とても静かだ。深夜帯のコールドスタートであるのに、これっぽっちもうるさくない。静かなクルマというのは本当に素晴らしい。
1.5リッターという小排気量の恩恵は、始動するだけでも充分に受けられるのだ。それでいて、どこかワクワク感を感じるようなエンジンの声が、気持ちよく漂ってくる。
メーターはディジタル液晶なっている。
右側のスピードメーター内部が、まだ私がベルトを付けず、撮影・記録に夢中になっていることを教えてくれる。
警告表示や運転アシスト装備の作動状況に応じて、速度計と回転数計のリングの大きさが収縮する。その場その場で最適なUIに変更されるというわけだ。私はディジタル液晶について、懐疑的な見方をしていたが、「こういう見せ方があるならアリだな」と思わされた。
総じて、「新しい価値観の提案」がなされている車両だ。本当に面白い。
車体のデカさ・運転のしづらさについて
いざ駐車場から出ようとすると、大柄な車体と、高い視点が相まって、たいへん窮屈に感じた。
前後に4570ミリ、横幅は1840と、大柄なほうに入るサイズ。そのうち慣れるが、手足のように扱えるという感じはあまり無かった。
交差点を左折する際も、外側へ膨らむようなボディー形状と、元の車体サイズが相まって、視認性は悪い。
私は普段、世間から乗りづらいと言われている50プリウスに乗っているが、それと比べても劣悪だ。まぁそのうち慣れるだろうし、それに見合うくらいの車内空間の広さはあるが。
上質さについて
走り出した直後から感じたのが、「上質さ」だ。
ステアリングのレザーの触り心地、段差を超えるときのボディーの剛性感、静かなるエンジンの鼓動。
暗闇の中でも車内空間は美しく、CX-5ほどではないが、SUV化によって高くなった視点を、優美な内装に転嫁できている。「いま良い車に乗っているぞ」と、直感的に感じる走行フィールだ。
乗り心地について
最近の、高級系の車格の大型車にありがちな、大きな動きを抑えた、あまり動かない足回りだ。
RAV4に近い動きだが、向こうを10とすると、ZR-Vは7くらいだろうか。
もう少しダンパーに容量をもたせるか、足回りを上下に動かすことで、揺れを吸収させて欲しい。
小さい揺れならそこまで不快に感じないが、強い衝撃が断続的に入ってくるような路面では、さすがに身体が揺さぶられてしまう。
重厚感を感じる乗り味ではあるのだが、硬くするだけが高級さでは無いだろう?
後述する圧倒的な走行安定性と引き換えに、快適性というか、足回りの柔らかさ・しなやかさは損なわれている印象だ。
例によって放置運用前提のカーシェアなので、空気圧を少し下げるとマシになるかもしれない点に留意だ。
パワートレインについて
1.5リッター直4ターボが、1460kgに収まっている大柄なボディーを、余裕のトルクで引っ張っていく。
1700回転から出る最大トルクの240Nmはダテじゃない。走り出した瞬間から、軽やかに加速していくのだ。
軽やかすぎて、ノーマルモードでは、乱暴にアクセルを踏むとギクシャクしてしまうほど。
せっかく低回転域から緻密に回るエンジンを積んでいるので、街乗りくらいはエコモードに入れて、ゆったり走るのが良いだろう。
また、中間トルクと、「トルク感」がこれまた気持ちいいのだ。
ベタ踏みではないが、中くらいの開度で、追越車線に映ってじわじわと車速を足していく。
そのときの回転数の伸び方や、CVTの変速とエンジン音のフィール、トルク感。全てがと~っても気持ちいい。トルク不足も感じず、スムーズに伸びていく、本当に良いエンジンだ。
排気量そのものが1.5リッターしか無いが、ターボであるおかげで、自然に走れる。
なによりも大事なのが「VTECの加速力」だ。
パドルシフトも、マニュアルレンジも無く、あるのは「D」と「S」と「L」だけだが、Sレンジでベタ踏みすると、身体が持っていかれて、びっくりしてしまうほど強い加速力でもって伸びていく。
相当な加速力だ。1.5リッターだとは到底思えない。また、ターボであると分かっていても、その加速感は自然吸気っぽいのだ。自然吸気のフィーリングのまま、大排気量エンジンのような加速力を出す。
新東名120km/h制限時代でも、ガンガンに走っていけるだけの動力性能だ。もちろん、シャシーの方も全く負けていない。
ステアフィール・走行安定性について
私のテストドライブはハードだ。ABSだって使うし、ベタ踏みするし、スラロームだって試すし、フルに荷重を掛けたコーナリングだって行う。そんな厳しい試験を通して、ZR-Vの中身の良さを確認することが出来た。
私が運転してきたSUVの中でも、カローラクロスとクラウンクロスオーバーに並ぶほど、走行安定性が高かった。
おそらく、全SUV中トップクラスの運動性能を持ち合わせていると言える。
私は試乗を行う際、乱暴にハンドルを揺さぶって、急激な入力を与えた際のクルマの挙動を、意識して確かめるようにしている。
身体がダバっと持っていかれて、ビビってしまったり、そのまま倒れそうなほどロールするような車種もあるなかで、ZR-Vはたいへん安定していた。
ハンドルを動かす速度が速すぎると、ダバっと動いてしまうが、わざとスラロームするような運転をしても、ロールはすぐに抑えられ、フラットな姿勢で、走りたいラインをしっかりとトレースしていける。
「ハリアーの重厚感と、カローラクロスの軽快感の良いトコ取りをしたような動きの良さ」だ。
「急ハンドルを切る羽目になっても、その先で危ない挙動が出ない」というのは、本当に大事なことだと思う。
そんなドッシリとした安定感が、免停になるような速度域まで続く。高速巡航中も、なんの不安感も無い。乗り心地の硬さによって10失ったと仮定しても、その5倍のメリットを得ている。
さて、私にとってはお待ちかねの、名古屋の都心環状、直角90度カーブだ。
深夜のここは、急カーブである割に交通量が少なく、スピードレンジも高く、かなり追い込んだ領域で、クルマの挙動を確かめることが出来る。
安全マージンは充分に残しつつ、元気よく飛び込んでいくが、驚くほどの安定性を誇る。
シビックがベースというのも納得だ。SUVというか、「新型WRXレベルのちょいリフトアップ」に収まっているような動きだ。
コーナリング中もフラっとで、鈍重さで崩れていくような挙動も出さない。
ただひとつ、弱点が現れた。
高負荷コーナリング中に、段差をガタンと越えたときだ。
フラットな状態で接地していた四輪のタイヤが、一気に別々に暴れ出す。
もともとの重心と車高が高いせいだろう。挙動のフラつきが大きくなり、足元がバッタバッタになる。
段差を越えただけであんな動きが出るなら、サーキットでもない限り限界に挑みに行くことは不可能だ。フラット路面なら出来た動きは、段差を一個超えただけで崩れる。
自動車メディアがよく行うサーキット試乗なんか、何の役にも立たねえなと思ってしまった。
ただ、駄馬のような、どうしようもない動きをするSUVが多い中では、本当にトップクラスの動きの良さであることは、どうか伝わってほしい。
その他
静粛性について
意外にも静粛性が高い。信号待ちの間に聞こえてくる音の、75%くらいはエンジン音だ。アイドリングストップが付いていないのが残念になるレベルだ。
購入を検討されている読者さんが居たら、ハイブリッドモデルを選んでおくことを、強く強くオススメする。そこには燃費以上の付加価値がある。
燃費について:最低でも30万円は足してハイブリッドを選ぼう。
ついでに言うと、燃費は悪い。2023年に新車で買うクルマとして考えると、市街地走行で、燃費を意識しながら走って、リッター12kmしか出せないのは、流石に厳しいだろう。
ガソリンはレギュラーで良いようだが、市街地在住の、日常的に渋滞にハマるようなユーザーがガソリンを今どき選ぶメリットは、ほぼ無いだろう。本体の差額だって、30万円も無いし。
私は自分のプリウスで、乗り物の特性や道路状況を考えながら、30km/Lを余裕で超える燃費を出す方法を知っている。私の運転が悪いわけでは決してないはずだ。
二列目の居住性について
写真は撮らなかったが、「二列目の居住性もたいへん良い」。
空間も充分に広く、ドア部分の内装素材もキチンと作っており、ファミリーカーとして、なにも問題なく使える設計だ。
シフトノブについて
シフトノブは、上下に移動するタイプだ。この形式の最大の問題は、「SレンジからDレンジに戻そうとしたとき、行き過ぎてNに入ること」だ。他にも、「DからRに入れようとしたはずが、Nで止まっていた」ということもあり得る。
この方式、力加減をちょっとミスっただけで、入ってほしくないギアにギアにすぐ入ってしまって危ないため、廃止したほうが良いと思う。
制動力について
車重としてはそこまで無いはずなのに、ちょっと重たさを感じる。
このクルマを買うようなユーザーさんなら、ここまでのフルブレーキングをするような運転はしないだろうし、するハメになっても、手遅れになるようなスピードレンジでは走らないだろう。
だが、ちょっとだけ足りてない感が否めなかった。
まとめ
内装の高級感、走行安定性、動力性能、走りの上質さ、それら全てが市販車トップクラス。
ただ、走行性能も、高級感ある内装も、使い勝手も、詰めるとボロが出る。当たり前じゃないか、これでも300万円台なんだから。
地味な見た目をしているのに、走りはCX-5以上で、内装の高級感はハリアー以上だ。
こんなに良いクルマがなぜ評価されていない、売れていないのか私には分からない。
だが、思い出してみれば、こうして運転して、記事にするまで、私もZR-Vというクルマ、ヴェゼルとの違いすら分かっていなかった…
中身が物凄く良いのに、話題にされることも無い。MAZDA3以上に不遇な運命を歩むことになってしまいそうだ…
せめてこの記事を読んでくれた読者さんには、ZR-Vというクルマの真の価値が伝わってくれたと信じよう。
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