EveryGoというホンダ公式のカーシェアサービスにて一時期複数個所で借りられたホンダeだが、現在は博多のステーション一か所で現存しているのみだ。
一回だけ名古屋で借りたことがあるが、その際はスケジュールの余裕のなさや名古屋の市街地オンリーで試乗したこと、充電設備も用意せず残量60%台で引き渡してきた店舗の管理体制が不満で正しく評価できなかった。
乗る機会が無くなってしまう前にもう一回だけ丸一日借りて、ちょっとした小旅行に連れ出しつつこの車の真の魅力を探っていく。
ちょうど乗ってきたクルマの数は100台を迎えるところだ。今度は正しく評価してあげられるだろう。
冒頭のまとめ
外観と内装で魅せる近未来感の演出は神がかっている。
しかし肝心のインフォシステムの使い勝手には一癖ある。
またハイパフォーマンスEVを名乗るには加速力や安定性が足りず、乗り心地も無難だが風に揺さぶられたり轍に流されたりしてしまう。車体が小さすぎるのだ。
EVらしい気持ちのいい走りは可能だが、もう少し大きく、もう少し動きが安定してもう少し加速が速く、バッテリーも日産リーフの40kwhよりは大きく航続距離が長いものを積んでいれば良かったのに…
外観・デザイン
Honda e を実際に買った人はほんの一握りだが、この車のデザインや近未来的なコンセプトに魅力を感じた人は数え切れない。

近未来的だけど可愛らしく、女子ウケの良さそうなキュートなデザインに男心をくすぐるガジェットのような一面も持つ。

どの角度から見ても光り輝くデザインだ。


正面は電源ボタンのように見える。

充電ステーションに停めていても、見かけが近未来的過ぎて古臭い充電器に見合っていない。

フロントの黒いところが充電ポートだが、この充電ポートはスマートキーのイジェクトボタンを長押ししないと開けられない。外から押し込んでもなぜか反応しなかった。

充電中はボンネットも開けられない。ここの使い勝手は微妙に不便な気がしなくもないし、気にならないといえば気にならない。
内装
私が借りた個体はガラスルーフを搭載していたが、広角で撮ると実物以上の解放感だ。

2本スポークのヒーター付きステアリング。
必要充分なレーンキープ能力を持つクルコンやナビ内の操作系は最近のホンダではおなじみのモノ。

横一面に広がったディスプレイと左右に広がる机のようなウッド調パネルによって、近未来的な雰囲気とリビングルームのような空間の両方を演出している。

シンプルながら非常に使い勝手の良い物理ボタンのエアコン操作系。
指紋や手垢も付かない素材で非常に洗練されている。

シフトはホンダのハイブリッド系でおなじみのボタン式。
ワンペダルドライブ機能は完全停止まで行ってくれる。ワンペダル中にパドルシフトを引けば回生力を固定できる。

個人的にはドライブモードセレクタと電動パーキングのスイッチが横並びになっているのは誤操作を招きそうで好きではない。
ノーマルモードとパワーモードのみであり、パワーモードはアクセル開度50%地点でマックスの加速をするような制御。

センターコンソールの奥側には1500Wまで対応するコンセント(アース付き)やHDMIポート、各種充電ポートやシガーソケット類が備わる。

ミラーは電子式になっている。私含めみんなが毛嫌いするだろうが、私が一日乗ったところ問題なくなれた。

左側のワイパースティック先端のボタンを押すと、実は装備されているアラウンドビューモニターが表示可能。
個人的には際が識別しづらく、あんまり端に寄せるのには使いたくないかな…
装備されているだけで大満足である。

ナビの使い勝手について
一面に画面が広がっておりかなり珍しく見えるが、実は使い勝手は一癖ある。というかちょっと使いづらい…
戻るボタンが行方不明な位置にある点や、アプリ一覧に見える場所が実はショートカット機能の編集パネルでしかなかったりする点など、なんか機能が多いわりにあんまり使い物にならない印象。

充電中に出てくるのはあんまりアテにしたくない航続可能距離表示のみで、現在何kwhで充電されているのかは教えてもらえない。これ本当に不満だ。

バッテリー容量は35kwhほどあるため、90%も入っていれば30kwhは既に電気があるはず。
電費を5km/kwhで計算すれば150km近く走れると考えると、画面に表示されている航続距離は意外と正確だと言えそうだ。電費の伸び悩みにより、思っている以上に航続距離が無い。
休日を丸一日使ってドライブするような場面では、休憩ついでに2回程度の急速充電が必要になるだろう。
オーディオシステムと静粛性について
スピーカーの数と設計で魅せるサウンドシステムだ。
ありとあらゆる方向からいろいろな音が鳴っているのを感じる。

ドラムの低音が足元を揺らしているのを感じるし、シャカシャカとした楽器の音が上側から聞こえてくる。
BYDシールやテスラのモデル3ロングレンジ、ベンツのBクラスなどを体験してきたが、こういう音の聞こえ方をするカーオーディオは初めて体験した。
スピーカーの絶対的な出力や大音量時の鮮明さは本物に一歩譲るが、鮮明さで臨場感ある音を味わえる。
諸元やスペックなど
新車価格は450~490万円だ。補助金込みで考えてもサイズ感と航続距離のわりにやけに高い点で数が売れなかったのだろう。

公式サイトの諸元表を貼り付けておく。

実走行インプレッション
取り回し
シートポジションはクルマというよりリビングルーム的だ。
コンパクトなサイズ感ゆえ運転性は良好で、圧倒的な小回りを誇る。

「え?これ一発で曲がれちゃうの?」という驚愕の小回り性能でスイスイ走れる。
軽自動車ですら通れなさそうな狭いところにGoogleMapが案内してきたが、奇跡的に通り抜けることができた。幅自体は1750mmと特段と細いわけではないのに。

最小旋回半径なんて過剰に小さくても活かしどころがないんじゃないかと思っていたが、その考えは誤りだったようだ。
あればあるだけ良いに決まっている。
乗り心地
EVらしい乗り味だが安定性に関して弱点を抱える(詳細後述)。
ダンパーをある程度ストロークさせたあとにフレームにゴツンとくる定番の乗り味だが、角が取れており基本的には無難に快適に乗れる。
ダンパーの縮み初めの動きには昔ながらのホンダ車らしさも微かに感じられる。
ただ上下方向への微振動が常に残り続けている感じはある。

バッテリーパックのおかげが底面からのロードノイズは抑えられる。
(別に高速道路を走っていて静かというわけではないが)
ハンドリング
EVならではのフラットな重量配分と低重心を活かしている。
切り始めでバタンと倒れるようなロールをしたあと、コンパクトボディの身軽さのままスムーズに曲がっていく。
開発陣は常にアクセルを入れながら旋回することを想定しているようだ。

ただアクセルを抜いてヨコ方向にタイヤを使って旋回するのではなく、アクセルを少し入れてやるだけで一気にバランスが良くなる。
後輪駆動だが前後のバランスは抜群に良い。
段差には注意が必要だが気持ちのいいコーナリングが可能だ。
パワートレイン
強烈な加速力を持っているが、300馬力オーバーの速い車や大トルクEVに乗り慣れている人には並みに感じるだろう。
不足する場面は全くなく追い越しも普通にこなせる。しかし速さを楽しみたい人にはちょっと足りないかな…
ワンペダルドライブモードを使えばブレーキペダルを踏まずに停止することも可能。
このモード中にパドルシフトを引けば回生ブレーキの強度が固定されるのも便利。

パワーモードはアクセル開度60%程度でマックスの加速をする設定になっている。
元気よく走りたい場面で役に立つ。
サイズ感のわりに少々電費が悪い気がするが…
高速、高負荷域
本車は風に揺さぶられやすい。
当日はかなり強い風が吹いていたが、80km/程度でも車体のふらつきを感じてしまった。あのジムニーと一緒に走ったレベルだ。

またキャスター角でも立っているのか、道路の轍にもハンドルを持っていかれやすい。
風と轍と段差の合わせ技を食らうとハンドルがガッタガタのブレッブレになる。
田舎によくある60km/h制限の対面通行のバイパスを周りに合わせて走っている最中の段差でコレが起きた。
急加速時もフロントの荷重が不足気味になるのかハンドルが少々不安定になる場面がある。
このあたりのリスクについては常に頭にいれておきたい。
リーフよりも高くてデカいを目指すべきだった理由
この近未来的なEVがほとんど売れなかったことは言うまでもないだろう。
しかしこのHonda e、日産リーフよりも少し高く、日産リーフよりも少しバッテリー容量が大きいクルマとして売っていればまた違った結末を迎えていた可能性がある。
そもそも歴史上、コンパクトサイズの高級車というのは売れないものだ。
トヨタのノア・ヴォクシーと並行して売っていたエスクァイアは消えてしまったし、アリオンというコンパクト高級セダンもカローラやクラウンと比べると街で見かけることは皆無である。
本社のバッテリー容量は35.5kWであるが、日産リーフの通常モデルは40kwhだ。
ここで40~45kwh程度でも積めていれば、「リーフより高いけどリーフよりバッテリーが大きくて航続距離性能が高いですよ」と売り込めたことだろう。
そもそも車体サイズが小さすぎるせいで、走行安定性は下がり荷物も人もほとんど入らない。
ホンダは近距離用のシティコミューターとしての効率性を目指したようだが、エコを多少犠牲にしてでもミドルサイズに片足を突っ込んだ方が良かったんじゃないかなぁ…