C+podは意外にも走りに振った系だが公道を走る気にはならない

試乗インプレッション

トヨタが超小型モビリティとして送り出した「C+pod」。

約170万円という価格やカタログ値でも150kmという航続距離、見ているだけで不安になりそうなコンパクトな見た目など乗ってみないと分からなさそうなクルマランキング1位を取りそうな車だ。

TOYOTA SHAREというサービスで借りることが出来たため、大雨の深夜に実態を確かめてきた。

【精密レポート】走りにこだわりがある人がハマる。C+podの走行性能テスト #ゆっくり実況
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冒頭のまとめ

意外や意外。走りの良さに振った系だった。

裏を返してしまうと、

  • 小回りの良さをウリにしている割に超低速域でハンドルが重いこと
  • フロントタイヤの切れ角が不足気味で、ハンドルをたくさん回さないといけないこと
  • 車体こそ小さいが後方への視認性がサイズの割によくないこと
  • イメージしていたほど車体が小さくない
  • 加速性能が終わり過ぎていて周りのクルマに合わせて走れない。

などなど、ここまでコンパクトに振り切った乗り物が持っていて欲しいものを持っていないという一面が目立ってしまった。

これなら軽トラか軽ボンネットバンを買ったほうがまだ安くて快適に乗れる

加速性能が無さすぎる割に、自転車や原付バイクほどすんなりと抜いてもらえるようなサイズでもない

電動アシスト自転車、原付、軽自動車、どれが相手でも何かしら負けるそもそもの価格が高すぎる。また加速力が無さすぎてこんなもので公道を走ろうという気になれない

そんな結論になってしまった。

実はハンドリングについては奥が深い一面を持つ。

すぐスピンしてしまいそうな見かけに反して走りは安定しており、アンダーステア傾向のマシンを荷重移動で走らせるテクニックを持っていればダウンヒルが最高に楽しめる。

試乗車のスペックについて

新車価格173万円のGグレードだ。

  • 車体サイズは2490mm/1290mm/1550mm
  • 車両重量は690kg
  • モーターの出力/最大トルクは12.5馬力/56Nm (後輪駆動)
  • 51Ahのリチウムイオンバッテリーを搭載
  • 最小旋回半径は3.9m
  • タイヤサイズは155/70R13
  • 急速充電は非対応。
  • 充電は200Vなら約5時間。100Vなら約12時間
  • カタログ上の航続距離は150km。この数値はアテにしないことを推奨。
  • 表向きには60km/h上限だが、84km/hくらい出たと言っている動画を見たことがある。

トヨタ公式サイトグーネットカタログの諸元ページから情報を引用したが、どうやら中古は約100万円で売っているらしい。

40km/hから上の加速力よりもすれ違いの容易さや車体サイズの小ささが活きるような地域での買い物グルマとして、お金に余裕があればアリだと思う。

内外装について

外観

ネットの写真ではあまり良いように見えないが、実物は可愛くて良い感じだ。

路駐しているトラックの後ろに停めてみたが、だいたい半分くらいの横幅しかない。

路駐してもほとんど迷惑をかけない。

ルーミーやシエンタ系のような、ご年配の方にも優しい系のデザインである。

ドアを開け閉めした際の印象としては、最低限の骨格はガッチリとしているが基本的にペラッペラという感触だった。

ドアの開け閉めを強めに行っても、体重を掛けてもクルマはゆっさゆっさと揺れる。

足回りについて

これだけ簡素なクルマなら、裏側がどうなっているのか覗いてみたくなる。

まずタイヤについてだが、155幅のブリジストンのエコピアだ。

まともなタイヤが履かされている点は、走行性能をレポートしていく上でも重要なポイントである。

とりあえず後ろ側から覗き込んでみる。

トーションビームが左右を繋いでいる姿や、オレンジ色の電源関連のコードが見える。

後輪駆動であるようだが、普通のクルマならデフがある部分にモーターっぽいアルミ色の物体がある。

そこにドライブシャフトブーツが繋げられているようだ。

フロントはストラット式のコイルスプリングだが、見るからに小さいのが見て取れる。

フロントタイヤ後部からスマホを差し込んでみた。

下からロアアーム、スタビライザーとスタビリンク、フロントのシャフトやブレーキホースなどが伸びているのが見て取れる。

細見ではあるものの、基本的な構成は普通車と同じ感じになっているようだ。

メインフレームは白系の色で塗られているようだ。

内装

事前のイメージに反して、意外にも乗用車としてちゃんと作ってあると感じた。

コストダウンのためのパーツ流用が、全体的に普通車っぽい印象を与えているらしい。

しかし装備は異様に簡素。ちょっとビックリする。

シートに座ってみると普通車と大差ないような感触。

柔らかく沈み込むシートにしっかりと身体がホールドされる。

座り心地においては軽トラに勝っているようだ。

ちなみにカーナビは後付けとなっている。

センターメーターとなっており、シガーソケットやUSBポート、小物を置けるスペースがダッシュボード上に用意される。

このスペースにスマホを置いてみたが、走行中のGで滑り落ちたりカタカタ言うような印象は無かった。

一時的にクルマから離れる際にメガネなどを置いておいても良いかもしれない。(真夏の日中では火災のリスクがあるが。)

走行に関するスイッチがシンプルに並んだセンターコンソール。

プリウスの「P」レンジのボタンの印字だけ変えたようなシフトボタンが並ぶ。

当車にはエアコンが装備されており、ダイヤルを回すと風量。

「A/C」ボタンを押すと冷えた空気を出すことが出来る。これをオンにすると航続距離がビックリするほど激減する

暖房はシートヒーターで賄うようだ。

左上のワイパーの熱線マークはフロントウィンドウの曇り取り。

本車に「P」レンジは存在しない。ニュートラルに入れてサイドブレーキを引くというのが駐車スタイルだ。

Dに入れたまま電源を切ると自動でNに入る機能付き。

サイドブレーキは足踏み式。車両中央に配置されている。

かなり違和感のある配置なので初見では覗き込んで探すことになるだろう。

普通車のパーツを再利用したスタート・ストップボタンが配置されているため、ここだけ違和感がある。

床にはカップホルダーが置かれる。

ドアパネルは何もないが、グリップがあるおかげで閉じるのはラク。

ウインカーのスティックは普通車と同じものが入っており、ワイパーには作動感覚を細かく調整できるスイッチ付き。もちろんオートライト。

運転席右側にはミラーの調整関連のスイッチ。

助手席側の正面にも何かを置けそうなスペース。

ちなみにシートのリクライニングを最大にするとこんな感じ。

ロードスターやコペンよりは倒れると思うが、車内スペースは広いわけではない。

パワーウィンドウは非搭載。

手で引っ張って上下に動かすタイプ。

一番上まで来るとツメでバチっと保持されるタイプになっているため、外車で起こりがちな「パワーウィンドウが落ちる」という故障とは生涯無縁だ。

実走行インプレッション

走り出しのモーター音について

以下の短編動画は「モーター音」だけを切り抜いたものである。ぜひ再生してみて欲しい。

C+Podの電車みたいに騒がしい走行音

聞いてみて貰えば分かる通り、電車のような音が大きく響き渡る。

これとは別に低速時は接近警報の音がかなり大きくなるため、EVであることを忘れるような騒々しさが低速域では繰り広げられる。

せめて接近警報くらいは切れないとうるさくて迷惑で不快だ。なぜプリウスPHVにはある機能が無いのか。

自分で接近警報のサウンドを流すスピーカーを探して配線をカットしたいレベル。

絶望的な加速性能について

まず加速力が無さすぎる

アクセルを奥底まで踏みぬいたところで全く加速しない。

「ノンターボの軽自動車ってあんなに速かったんだ」と思うレベル。

特に40km/h~50km/hあたりから上が終わっており、どれだけ踏んでもどれだけ待っても速度が上がって行かない。

これでは周りの車に大迷惑をかけることが確定している。

加速性能が無さすぎるせいで買ったとしても走れないような道がかなり多い

せめて40~70km/hまでの加速性能がしっかりと持たされていれば、大通りも普通に走って普段乗りをすることが出来たのに…

65km/hあたりを上限とした走行安定性については見かけほど悪くないため、航続距離に響こうともモーターのトルクのアップグレードを行って欲しいところ。

乗り心地

想像していたよりは悲惨ではないが、良いわけもないだろう。

アシはちょっとだけストロークしてくれるが、すぐデンっと跳ねてしまう。

足回りは「暴れまわる」というほどではないが、快適という言葉で評するものではない。

短距離専用のクルマとして割り切って乗る分には、買うのを妨害しないレベルだろう。

フレームや足回り

まずフレームについてだが、想像していたよりは頑丈で剛性のある骨格である。

しかし、強度を出すために硬くしている部分とペラい部分がバラバラな印象を受ける。

硬い部分はしっかりと硬く、「ボディ剛性」と呼べるものを提供してくれる。

しかしヤワい部分は軽トラレベルのペラッペラとなっているため、この部分が段差を超えるたびにバタバタバタと揺れる。

硬いところとヤワなところが内部的に明確に区切られており、それぞれが別々に主張するような剛性感である。

実は普通に走っているぶんにはどことなく剛性感を感じられるのだ。

しかし段差を超えるとガタガタガタンとボディ全体があっちこっちにブルブル震えて暴れまくる。

段差をガタンと超えると壊れたかと錯覚するほどの衝撃が入り、ハンドルを思い切り持っていかれる。

衝撃でショックが底付きした上にフレームがバキバキと激しい振動をしていくので、油断ができない運転をすることとなる。

ブレーキについて

街乗り領域については、踏んでも全然止まって行ってくれないという不安感のあるフィーリングとなっている。

車重が車重なのでフルブレーキング時の絶対的な制動力は充分に高いが、ブレーキングの感覚には常に「一番奥まで踏み込んでもなお欲しいだけの制動力が立ち上がってこない」ような不安を抱えることとなる。

小回りの弱点について

小回りをウリにしているような車種でありながら超低速時のハンドルが重いという致命的な弱点を持つ。

せっかくの強みが台無しになっている状態だ。パワーステアリングをもっと強化して欲しい。

またステアリングのレシオもダルめで、いっぱいハンドルを回さないといけないのも取り回しを悪化させている。

後ろを振り返ると車体の後ろがすぐに見えるが、この姿勢で重たいハンドルを回すと首はキツいし身体は疲れる。

年配の方向きであるとは到底言えない。

小回り性能については大きな改善の余地がある。

せめてバックビューモニターを見ながら、軽いハンドルを回しながら動けるようにして欲しいところ。

ハンドリングについて

コーナリングではロールをせずに曲がっていく。

あの形状で旋回中に姿勢を崩すことが無いよう、しっかりと傾きを抑えているようだ。

旋回中の後ろは落ち着いて構えつつ、前でグイグイと入っていく。

左足プレーキで前荷重をコントロールしつつ、吸い込ませるように曲げると恐ろしいほど楽しい。

タイヤグリップはしっかりあるので雨でも安心安定の走り。

アンダーステアリング車を乗り方で曲がらせるのが得意なら幅広く楽しめそうだ。

すれ違いに難儀するほど狭い、急勾配の下り坂の峠道に限っては無双できそうである。

サイドガラスの曇りについて

実はこのクルマ、サイドガラスの曇り取り機能が無いのだ。

これが致命的な弱点となっており、カーブでは事故の原因になりかねないレベルの危なさである。

一応は送風口をサイドウィンドウに向けてA/Cオンを行うことで曇りを取ることが可能だが、これでは航続距離が一瞬で溶ける。

曇り取り剤の施工を行いたいところだ。

まとめ

トヨタ車らしい運転フィールに仕上がっており、車両特性を活かした走らせ方が出来るので意外にも奥が深い。個人的には高評価。

しかし一番大事な小回りがハンドルの重さや微妙に窮屈な視界に邪魔されており、思っていた以上に強みが引き出せていない

これでは車の中身と買う層がマッチしていないと言わざるを得ない。

こうなるならいっそのことシートを前後2列にでもして、もっと横幅を削って欲しかった

振り切った個性を打ち出すには中途半端にサイズが大きいのだ。

価格の高さや小回りの辛さ、40km/hから上の絶望的な加速性能などの弱点を前に、それでも買おうと踏み切れるユーザーの少なさがこの結果をもたらしてしまった。

自分だったらどう改善するか

どうすればいい商品になるのか考えて見た。

ミライースや軽トラと一緒に検討できるような価格。(最大でも120万程度)。

ハンドルをもっと軽くする。違和感のないレシオにする。

モータートルクを強化して、ノンターボの軽に劣らない程度には加速させる。

もっと極端なことが言えるなら、一人乗りでも良いからもっとサイズを小さくするべきだろう。

また航続距離は夏場にエアコン込みで片道25km程度走れれば充分だろう。

モータートルクを足すか、バッテリー容量とボディを削りながら大幅に価格を下げるか

後者の場合は「センターラインがあるような道は走らない」という割り切りがあっても良いだろう。

本当にご近所用に割り切って、狭い道でもグイグイと入れる小回り性をアピールポイントとするべきだ。

中途半端になってしまった結果、価格が上がって軽自動車に負けている現状にあるのだ。

こういう取り組みが日の目を見る時が来ることを願っている。

試乗前リサーチ

公式サイトから引用しながら要点をまとめていく。

トヨタ C+pod | トヨタ自動車WEBサイト
トヨタ C+pod の公式サイト。サイズやスペース・収納、走行性能、安全性能などの機能をご確認いただけます。

圧倒的な車体の小ささがウリのC+pod.

軽自動車でも入れないレベルに狭いところにも入って行けるのが強み。

免許返納を検討しているような年配の方のアシとしても考えられていて、基礎的な先進安全システムを搭載。

(こういうことを積み重ねたから本体が高くなってしまったのだろう。)

航続距離・充電時間について

カタログ値で150kmの航続距離を持つ。

空調は冷房のみ採用しているようで、気温や走り方によって航続距離は左右されることだろう。

暖房についてはシートヒーターのみ装備される。

急速充電には非対応。

200VのEV用コンセントであれば約5時間。100Vコンセントであれば約16時間で満タンにできるらしい。

なおこの100Vコンセント、三口ある特殊な形状をしているので要注意。

衝突安全性

グレード

廉価グレードの「X(166万円)」と、通常の「G(173万円)」の2つが存在する。

ざっと見たところ、塗装とホイールが変わるようだ。

純正オプション・アクセサリーリストもある。

フロアマットやシートカバー、防滴ミラーやドラレコ・ジャッキや盗難防止ナンバーフレーム、非常用対策キットなどがあるようだ。

この乗り物が始める前から詰んでいた理由

IT media ビジネスの『「C+pod」で考える、超小型モビリティの仕様はどこで誤ったのか?』という記事にて、かなり辛辣なコメントがなされていた。

「C+pod」で考える、超小型モビリティの仕様はどこで誤ったのか?
昨年末の記事で、トヨタの「C+pod」について、限り無く全否定に近い評価をした。試乗する前に開発者とも話しているので、当人の顔が思い浮かんで、非常に気は重かったが、とはいえ、読者に本当のことを伝えないなら原稿を書く意味がないので、そこはもう...

位置づけとして、上に軽自動車ありきでスタートする以上、超小型モビリティの仕様は軽以下である必然性がある、その結果、モーター出力も足りない。車高に対してトレッドもホイールベースも足りないという、クルマとして基本がおかしい規格ができ上がった。

そうやって無理矢理小さくしても、車道の端を走って他のクルマに自在に追い抜いてもらえるほどサイズはコンパクトではない。50ccスクーターとはそこが違う。他のクルマと同一車線を混走させるしかないとなれば、結局一般道の法定速度である時速60キロまで出せないと交通の混乱を招く。高速道路の走行禁止だけがかろうじての防波堤である。

 いびつなディメンションのクルマを時速60キロで走らせるという条件で、無策に設計すれば転倒するに決まっている。それを「なんとかせい」と言われれば、タイヤに無闇にグリップを求めると危ないから低次元でアンダーステアを出してスリップさせるしかなくなる。加えてスライドが突然回復した際に、過大なロールをきっかけに転倒しないようにアシをガチガチに固めることになる。

 だからクルマとして乗り心地もハンドリングもダメなものが出来上がった。その上、ボディの衝突安全もある程度やらなくてはならないのでコスト高に振れる。軽以上に限られたスペースレイアウトに合理性を求めれば、ウェット路面で滑り始めると止めるのが難しいRRを選ぶのがベターになる。となると後輪のスリップに備えてVSC(横滑り制御機能)やTRC(タイヤ空転抑制機能)などのコントロールも必須でここにもコストがかかる。

 しかもこの超小型モビリティは、高齢者の運転免許卒業後のアシとしても期待されているので、高齢者事故対策の盛り込みも求められ、衝突軽減ブレーキは必須。こんなものを安く作れといわれたってできるわけがない。そもそも道路を走る以上、性能要件的には軽自動車とほぼ変わらないのに、ディメンションで不利な設定なのだ。C+podとはそういうクルマである。

「C+pod」で考える、超小型モビリティの仕様はどこで誤ったのか?』IT media ビジネス online

軽自動車が存在する以上は割り切って安く作らないといけないが、原付のようにスイスイ抜けるようなサイズではないので60km/hは普通に出せる必要がある。

それに伴って衝突安全性強化もやらねばならないし、バカのっぽな縦長ボディーを横転させないようにするためにアシも硬くなってしまう。

高齢者の利用も想定するために自動ブレーキを織り込み、最終的に軽自動車と大差ないような乗用車になってしまう。

それでいて走行安定性や加速性能などの全ての要素で軽自動車で見劣りする。

いくつものコストを増加させる要素によって、ちょっと小さくなっただけの劣化版軽自動車になってしまったかのように書かれている。実際の挙動がどんなものであったか確かめる必要がある。

そもそも軽トラ・軽バンの新車が90万円台から買える日本なのだ。

本気でこの規格のモビリティを売り込むなら、同等かちょっと安いくらいの価格に抑えていかないと買ってもらいづらいだろう。

一部の中国EVは既にその価格を実現した。「宏光MINIEV」と言うらしいのだが…

そもそも「安かろう悪かろう」の分野でも、コスパEVの分野でも中国が圧倒的に強い。

日の目を見ぬままに生産終了となってしまう。

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