ずっと運転してみたかったハイエースだが、TOYOTA SHAREにて偶然カーシェア車を発見したため乗って来た。
手短にまとめよう。
「未だに新車で売っていることが信じられないような古典的な要素を数多く持つが、それ故の堅牢さを感じる一台。コストに厳しい商用車である一方、乗用車としての快適性をしっかり担保した造り」といったところだろうか。
動画版はこちら。実際に運転している風景やエンジン音などを見られる。
試乗車のスペック・グレード・価格について
2020年に初年度登録がなされている。
車検証の車体番号をトヨタ自動車公式サイトの検索サービスにかけたところ、「スーパーGL ダークプライムⅡ」であることが確定した。
おそらく新車価格329万円だ。
(型式は3BF-TRH200V。原動機の型式は1TRである。)
主に自分用にだいたいの諸元を書き記しておく。
- 横幅は1695mm、前後に4695mm、全高は1980mm
- エンジンは2Lガソリン
- 最大出力は131馬力(5600回転)。最大トルクは182Nm(4000回転)
- FRの6速AT
- 車両重量は1790kg
- 最小旋回半径は5m
- フロントサスペンションは「ダブルウイッシュボーン式トーションバースプリング」
- リアサスペンションは「車軸式半楕円板ばね」
公式サイトの諸元表を参考にしつつまとめてみたが、ハイエースはグレード名が多すぎる。
また限定グレードということで詳細なデータを把握するのが非常に難しい。どこかで間違えたかもしれない。
https://toyota.jp/pages/contents/hiacevan/005_b_023/4.0/pdf/spec/hiacevan_spec_202401.pdf https://toyota.jp/pages/contents/toyoacecargo/008_b_012/pdf/spec/toyoacecargo_1t_spec_201910.pdfこれはダークプライムのページ下部に貼ってあった諸元表。
内装について
まずざっくりと紹介していき、特徴的な要素は後でまとめて取り上げて行こう。
商用車チックな「DX」と比べると、この「スーパーGL」は乗用車テイストを織り込んだグレードだ。
これに加えてダークプライムIIという限定グレードとなっているため、ウッド柄のパネルで内装が装飾される。
要点だけまとめた動画がコレ。
同格の300万円台のクルマと比べると高級感は控えめだが、スーパーGLに対して言われる「乗用車テイスト」は充分に感じられる。
少なくとも私は特に不満を感じなかった。
思っていた以上に座面が高く、乗るというより登るような恰好となる。
プッシュスタートスイッチ、ミラーの調整、オートハイビームに左右の自動ドアの開閉、ETCユニットがハンドル右側に収まる。
真っ暗闇の中ではミラーの開閉スイッチを探し当てられなかった…
場所を知っていれば指で探るだけで開閉できるだろう。残念ながらオート(ロック連動でミラーを畳む機能)は無い。
ステアリングには幾つかのボタンがある。左側はカーナビ関連。「MODE」は走行モードではなく、オーディオソース切り替えだ。
右側はメーター内のディジタルディスプレイの表示切替。右下には車線逸脱アラートの機能をオンオフするボタンが備わる。なおこの車線逸脱機能、はみ出したらビービー音が鳴るだけのものである。
メーターはシンプルで見やすい乗用車らしいもの。タコメーター装備がうれしい。
取ってつけた感こそ拭えないがインフォディスプレイも用意される。
助手席側を見渡す。吹き出し口のぶん、カーナビを運転席側に寄せてくれたら良かったのに…
ハザードは非常に押しやすい位置にあり、色も赤色で目立ちやすくスイッチのサイズも横長なので素晴らしい配置だと思う。
シフトは動き方に少しクセがあるゲート式。パーキングとリバースへの移動時に大きく左に迂回する。
ボタンは押さなくても良い。反応を見ながらギアを入れていくことになるため直感的ではないが、慎重に操作する必要があるためシフトミス自体は無さそう。使いやすいとは言わない。
詳細な動作は動画版を見て欲しい。
バックビューモニター付き。カーナビ右上には「現在地」ボタンがある。
オートエアコンを装備。物理ボタンなので非常に押しやすい。
温度変更ダイヤルや曇り取り、OFFボタンなどが運転席側に寄っていてコンパクトなのに非常に使いやすい。「REAR」というボタンがあるのがハイエースらしいところだ。
センターコンソール下部には灰皿をシガーソケット。こういうクルマらしい装備。
オートライトが採用されている。停止中にAUTOから下に倒すと前照灯と車幅灯を切り替えることが出来る。下に倒して長押しすると全オフが可能なので覚えておこう。
また小さいながらも無視できないメリットとして、窓の開口幅が大きく全下げが可能であることも上げられる。もともと高めな視点と合わせて、風や景色を味わいながら流すのも良いだろう。
障害物にジャマされる足元について
人生初のハイエースであるが、乗ってみて非常に戸惑ったのがこの足元である。
左右の足の間に謎の物体が張り出している。
慣れてしまえば右足での操作に不満はない。ペダルレイアウト自体も特に悪いわけではない。
最初にこの物体を認識した際は「盗難防止のカギ付きボックスでも付いてるのか?」と思ったけど…
個人的には「左足でブレーキを踏めない」ということが問題となる。
指で引っ張るタイプのサイドブレーキと使い方について
このハイエースはサイドブレーキが曲者だ。
運転席左下に、T字ハンドルで設置されている。
パワースライドドアのオフスイッチが右上にあったことに編集時に気づいた…
解除する際は、引っ張りながら捻ってガチャガチャしよう。
上手くいくと奥までストンと戻る。それで解除完了だ。
作動させる際は指でグッと引っ張るだけ。
実際に使っている風景については動画版を見て頂いた方が分かりやすいだろう。
少し使えばすぐ慣れるが、主に解除がやりづらく初見の人に対して不親切すぎる。
解除忘れの原因にもなる。左足で踏むタイプじゃダメだったのか…
(試乗開始後に駐車場内で少し本車を移動させたが、そのときに解除し忘れた・・・
ピーピー鳴っていた程度で普通に走れてしまった。メーター内の(!)表示をちゃんと見るべきだった。)
独特なサイドブレーキ・隔壁のあるペダル配置・電パ無しによる三重苦について
いま紹介した通り、このハイエースは「サイドブレーキは変な形をしていてスッと解除できない」「ペダルの間に変な壁があるから左足でブレーキを踏めない」「ブレーキホールドが付いていない」という3つの弱点が重なっている。
このせいで信号待ちの間にブレーキペダルを踏む右足に疲労が蓄積しやすいという弱点が際立っている。
ブレーキホールドが無い。
NかPレンジに入れてサイドブレーキを引いてサボろうにも、解除に手間が掛かりそうで迂闊に引けない。
左足でブレーキペダルを踏んで右足の負担を解消しようにも、変な隔壁があるせいで足が届かない。
これぜったいしんどいと思う。
私はこの欠点が解消されるまで購入を見送るつもりだ。
どうしようもなく不便なカップホルダー
カップホルダーがセンターコンソールの後ろ奥にしか存在しない。身体をひねらないとドリンクを取り出せないため使い勝手は最悪。
走行中にアクセスできないわけではないが、1.5時間程度の走行の中で水分補給を諦めた場面が何回も何回もあった。
おまけに穴が大きすぎてガタガタになる。モノによってはこぼれかねない。
せめてセンターコンソールの前側に配置して欲しかった。社外品に期待か…
そう思ってネットで探してみたところ、ちょうど良さそうな製品がたくさん見つかった。
数が売れておりカスタマイズのニーズも根強く存在する車種なので、こういう不満を簡単に解消しながら自分好みの一台に仕上げていけるのはハイエースの大きな魅力だと言えるだろう。
もちろん目に見える内装やエアロだけでなく、車高調やスタビライザーなどの走りのパーツもラインナップが豊富。
買っただけで終わりではないと思っている私のようなタイプにも最高だ。
ドライビングポジション調整について
ステアリングは角度しか調整できない。ハンドルを前後方向へ動かせないのは残念だ。
なおワイパースティックの奥でロックを解除する。
またシートは前後移動とリクライニングのみだ。
座面の高さを変えることもできない。
スペースの制約で厳しいのだろうが、少し残念だった。
左フロントの謎のミラーについて
左フロントについている、どこを映しているのかよくわからない小さなミラー。
拡大するとこんな感じ。前の障害物との距離感と掴みやすい。
しかし運転席はフロントに非常に近く、精度の高いパーキングソナーも付いている中でこのミラーの必要性については迷ってしまう。
実走行インプレッション
なかなか特徴的な装備が多かったため長くなったが、やっと走っていく。
この日は大雨が降っており路面はかなり濡れていたため、このクルマの走行フィールと合わせて限界領域に踏み込んだテストは行えなかった。
さて乗り込んだ際にまず感じるのが視点の高さだ。
そして駐車場から出る際の右左折で前後の長さを意識することになるだろう。
狭いところでは神経を使うが箱型ボディーのおかげで基本的に乗りやすい。
どことなくダンプカーっぽさがあり、私はなぜか「特別感があって楽しい」と感じた。
ハンドリング
レシオがダルいというか、他の乗用車と比べるとハンドルの切れ角に対するフロントタイヤの舵角が小さい。
これにより具体的に、普通のクルマより多くハンドルを回さないといけないという状態になっている。
ちょっとしたコーナリングや交差点の右左折でも、油断しているとハンドルの回転量が足りなくなることがある。注意しておく必要があるし、素早い交差点の左折にはハンドルの早回しが求められる。
全体的な旋回特性としては、フロントに荷重を掛けながら安定させて曲げていくようなフィーリングとなっている。
立ち上がりにかけて後ろから押される様な動きもあり、FRらしさが味わえる。
しかし先述したステアレシオの問題があるため、カーブでハンドルを切っていく際はスポーツカーのようにはいかない。
ちなみに段差を超えた際にハンドルを取られやすく、コーナリング中に段差を乗り越える状況ではこれ以上の負荷を掛けたらどうクルマが動くか分からないという恐怖感を味わった。
片側のサスペンションを圧し潰すようなコーナリングをしながら雨の段差を超える。ハイエースでやるにはあまりにも怖い。
私はタイヤが鳴りそうなくらい追い込んだ領域でのフィーリングを最重視しているが、このハイエースだけはやろうと思えなかった。
いつ警察から声が掛かってもおかしくないようなペースで何回も走っている名古屋の都心環状の直角右カーブだが、この日だけは軽く撫でた程度で終わった。
ハチロクよりうるさくて元気の良いエンジンについて
このハイエース、回していくと無茶苦茶エンジン音がうるさい。
エンジン音だけまとめた動画版がこれ。
まさかと思って車検証を確認してみると「平成12年騒音97dB」と書いてあった。
数値で分かる。ここ数年のスポーツカーよりよ~っぽどうるさいのだ。
排気音も非常に大きく、運転していて「エンジン音が86よりも迫力があるなあ」と思ったのはなにも間違いではなかった。
私は面白いので良いと思うが、乗用車としてはあり得ないレベル。2000年代前半の軽自動車かと間違うレベルの轟音。
高速道路の合流や追い越しなどで元気の良い音を響かせてグイグイと伸びるが、100km/hから上は全く速くない。
古典的なトランスミッション
6速ATだ。これも2000年代のクルマのような動作をする。
発進してから加速していくと、不快ではないもののギアチェンジが行われたことを明確に感じ取れるようなシフトショックが来る。
踏み込んでいってもキックダウンで明確にクラッチを切ってギアを繋ぎ変える。
そしてある一定のアクセル開度から急に低速ギアに落ちてエンジンが高回転域の騒音を大音量でかき鳴らす。
EVやCVT、荒い動作をしない多段式ATが増えてきた中で、2020年代以降に出すクルマとしてあまりにも古典的なパワートレインであると言わざるを得ない。
面白い要素として、マニュアルモードでレッドゾーンまで引っ張ると自動シフトアップは行わずにそのままレブるというものがある。なぜ・・・
ドイツ車の上位互換のようなブレーキ
ハイエースのブレーキはかなり良い。
まず制動力そのものに余裕があり、少し踏むだけで大きく車速を削ることが出来る。
それでいてドイツ車のように踏み初めでドカンと来ることがない。
不快なブレーキフィールが多いドイツ車たちには、ぜひハイエースのブレーキタッチを見習ってほしいところ。
乗用に不向きな基本設計の割にやけに頑張っている乗り心地について
基本設計、サスペンション形式に起因するものであろう、あっちこっちに跳ねてしまう様な動きこそ出てしまう。
しかし揺れ自体もそこまで大きいものではなく、その後の抑え方が素晴らしい。
ある程度のしなやかさ・フワフワ感で揺れを緩和した後に抑え込んでくれるため快適に乗ることができる。
「商用バン」のイメージが強いハイエースだが、これなら長旅も耐えられそうだ。
高速道路について
空気の壁・エンジンパワー・シャシー性能・ハンドリングなどの諸々の要素が合わさって、高速道路の巡行は110km/h程度がいっぱいいっぱいであると感じた。
それ以上は段差を超えた際に恐怖感があり、横風が強くない新東名のような限られた状況でしか安定して走れないだろう。
なお静粛性については特段と悪くない印象だった。
私が乗ったクルマではクルーズコントロールもハンドルアシストも非搭載。乗り心地そのものは別に悪くないけど、長距離はぜったいしんどい。右足が酷くしびれそうだ。
クルーズコントロール自体は社外品で付けられるようだから、長距離を想定したいなら何万円か払ってでも付けておこう。
私は前車追従式のレーダークルーズコントロールと、ブレーキホールド付き電動パーキングブレーキが搭載されるまで欲しくても買えるカネがあっても買わないかな..
恐怖体験と120km/hオーバーの世界
以前に深夜帯の名古屋高速にて、ハイエースが白線からはみ出しながら飛ばしていたところを後ろから追尾してみたところ、160km/hで走っていたのだ。
見たところカスタムをされていないどころかDXの乗りっぱなし社用車だった。
あの人はなにを考えて居たのだ・・・
ハイエースで120km/hオーバーの高速性能は基本的に出来ると思わないほうがいい。
私も出来る範囲で高速域の動きも試したが、しばらくはエンジンパワーで強引に速度を乗せていられる。
しかし何かの拍子に吹っ飛びそうだ。
燃費について(リッター10~12km/Lを記録)
信号待ちだらけの名古屋の市街地で燃費走行をしたところ、リッター8~10kmとなった。
アイドリングストップは非採用であるため、停止時間の長さに応じて燃費が下がっていく印象だ。なんやかんやリッター10くらい確保できたが、状況次第ではもっと下がる。逆に良いペースで巡行できればさらに伸びそうだ。
さて高速道路で80km/h前後に保ちながら巡行してみたところ、リッター12~13kmであった。
これも速度を70km/h台に抑えながら急加速を絞ればもう少し伸びるだろう。クルーズコントロールが非搭載だったのが気になるけど…
まとめ
かなり古典的なパワートレインと基本設計だが、変な新機構を取り込まない堅実な設計で超長距離のハードな運用に耐える堅牢性を持たせているのだろう。
運転していて楽しいし便利な車であることは言うまでもないが、世代遅れな快適装備の改善を望みたい。
2004年から売り続けているようだが、そろそろ電動化や先進安全装備を豊富に織り込んだフルモデルチェンジに期待したいところ。