「VTuber」を知らない人は居ないどころか、VTuber事務所が上場している時代である。
今回は「にじさんじ」でお馴染みのANYCOLOR(5032)は長期投資の対象として適しているのか、見定めていこうと思う。
ANYCOLORの事業内容について
基本的にANYCOLORは「にじさんじ」というVTuber事務所だ。
雑に言えば、「所属してるVTuberが各自で勝手に配信をやって稼いでくる」だけだ。
本質的にはUUUMや、各種芸能事務所と変わらないだろう。
VTuber事務所「にじさんじ」としての活動
公式サイトの事業紹介ページに、所属しているVTuberの一覧ページがあったが、数えきれない。
日本語圏だけでも、公式サイトによれば約150名。
英語圏だけでなく、中国向けに、「bilibili」で配信を行うVTuber達も揃えているらしい。知らなかった。後ほど、海外からの売り上げの内訳も確認しよう。
もはや計測不能である。
私は実はVTuber事情に疎いため、今回は事務所の話を中心にしていく。
マネージャー活動、モデルやアプリ制作、グッズや楽曲,番組の制作、イベントの企画、企業とのプロモーション。
やっているのはこのあたりのようだ。
公式サイトを漁っていると、企業とのタイアップ案件が並べられている。
「志摩スペイン村」は、マスコミが取り上げたレベルの大盛況となった。
食品やスマホゲーム、香水など、意外なほど幅広い案件を取り扱っているようだ。
その下で、「魅了し続けられる容姿、低いスキャンダルリスク」と書いてあったことには、ちょっと草が生えた。
外観至上主義や業界の闇が、際どい衣装のように透ける。
私にとってVTuberは「人間がアバターを使ってお喋りしている」程度のものでしかない。
しかし、ディズニーランドを見てみたまへ。
「夢は夢のままで主義」は何十年も残り続けているのだ。
このことは、VTuberそのものの将来性を案ずる上でも無視できない要素となるはずだ。
また、YouTube以外にも、『Lie:verse Liars 俺たちが幸せになるバッドエンドの始め方1』という、公式同人誌のようなラノベ・コミックを発売しているようだ。
後ほど売り上げに占める割合を確認するが、YouTubeほど大きくはないと予想される。
公式サイトのバナーのHTMLをコピペしてみたが、うまく表示させることは出来なかった。
YouTube内での「にじさんじ」・客層について
これも公式サイトに載せられていたが、若い世代から大人気であることが特徴だろう。
決してお金持ちとは言えない若年層だが、「年収3億円のタレントになけなしの月3万円をスパチャする」という構図が売り上げを底上げしているのだろうか?
あまりにも熱狂的なスパチャは、法律で規制されるリスクもある。
後ほど収益に占めるスーパーチャットの割合も調べておきたい。
決算と財務について
例によってかぶたんの決算ページから、直近の数値を比較してみる。
売上高・利益ともに、爆発的な成長をしてきたが、今年度は鈍化しつつあるといったところか。
また、後ほど説明するが、その成長の鈍化が株価の大幅下落を呼んだようだ。
6月14日決算短信と決算説明会資料
狙ってはいなかったが、決算短信が2日前に発表されたばかりだ。
営業利益は前期比プラス100ポイントを越え、約2倍となっている。
しかし気になるのが、業績予想のほうである。
前期比で約125%を叩き出した2023年に対し、2024年の4月期は、約35%のアップの予想に留まっている。これだけ見れば、やはり成長鈍化である。
個人的に面白いと思ったのが、手持ちのキャッシュが約二倍に増えたことだ。
これ自体が何かするとは思えないので、見ておく程度に留めるが。
2023年4月期の決算説明会資料
さて、決算説明会資料も見ていく。
今期だけ見れば、やはり倍の売り上げ・利益を出しているのだ。
国内・国外の売り上げの内訳が書いてある。
英語圏については、7434中の1952ということで、約25%を占めている計算になる。
これを海外売り上げの割合として考えるなら、もう少し頑張って欲しい気持ちがある。
英語圏の売り上げ割合だが、「ENコマース」が大半を占めている。
「コマース」とは何のことだろうか。
このページに書いてあるようだが、「レベニューシェア」という聞いたことのない単語。
“予め双方で売上、または利益の分配率を決めて取り組むビジネスモデルになります” 引用元
VTuberの売り上げに占める「みかじめ料」のことを指していると予想する。
先ほどから言っている「成長の鈍化」を顕著に示しているのが、YouTubeにおける再生時間の推移だ。
横ばいになってしまっている。
「市場の上限に達した」のか「離脱する視聴者と新規の視聴者が釣り合っている」のか「一時的なもの」なのか。確実な投資判断のためには、これを見極める材料が欲しいものだ。
売り出した商品の一覧が紹介されており、これらの画像は商品ページへのリンクになっていた。
動画の再生時間自体が伸び悩んでいても、抱き合わせ(?)商法やグッズ販売などの、別媒体での収益獲得を実現していると捉えて良いのだろうか。
実世界でのイベントも行っているらしい。
どういうオペレーションで実現しているのかとても気になる。
なお、先ほどの売り上げ高推移のグラフによれば、国内イベントが売り上げに占める割合は5.7%だ。
とはいえ、イベントだけで4億円の売り上げを叩き出しているということになる。
なお経費は含まない。これを高いと見て良いのか、迷うところだ。
さて、「メタバースの時代にも対応していきますよ」的なグラフが出てくる。
この通りに進むのか分からないが、VTuber達は既に、ファンである若者たちの生活に溶け込んでいると言って良いだろう。
インターネット業界の新たなるエンタメの筆頭銘柄として、一考の価値はある。
VTuberを活かした収益システムについて書かれている。
ただ配信してスパチャをもらって終わるのではなく、グッズ販売や企業とのコラボ、イベント開催などで、しっかり収益を確保していこうという意思が感じられる。
今後大事になっていくであろう、海外進出に関する話。
市場規模が書かれているが、この全てを確保することは無理であるため、真に受けるべき数値ではない。
なお、「ユーザーの二次創作まで自らのブランディングに利用してしまう」という、かなりリスクのある話もしている。
収益ランキングごとの、売り上げの割合まで書かれている。
7:3の法則がこんなところにも。
収益源の分散について。
先ほど約5%と申し上げた通り、売り上げへの貢献度自体は特段と高くはないが、ファンの囲い込みに大きな意味を持つであろうイベント。
「全国各地でライブビューイングを行う」という面白そうな取り組みも見られる。正直ついて行けない…
決算説明会資料はこれで終わりだ。
チャートについて
とりあえず月足のチャートを表示してみた。
上場してから間もないが、かなり激しい値動きをしているようだ。
たったの半年で株価を約3ぶんの1にしてから、半分ほど戻ってきているような形。
今度は週足。いま買うには高いように見える。
日足を出すと、ちょうど下落トレンドに入ったように見える。
間違いない。いま買ってはいけない。
移動平均線である6500円程度までは、下がってくるのを待って良いように思う。
まぁ私は短期の売買について極める気はないが。
配当・株主優待について
配当も株主優待もない。
限定グッズくらい貰えたら面白そうだと思うのだが…
少なくとも将来的に、「ANYCOLORが株主優待に限定グッズを追加」みたいなニュースが出れば、そこまで高くない株価と相まって、ファンの方がいくらか買うだろう。
その時に合わせて買うのはアリかもしれない。
まとめ・個人的なコメント
成長鈍化が示す、「市場を食い尽くした感」と、「海外進出の勢い」に不安を感じざるを得ない。
また、全体的に「新規の視聴者の能動的な獲得」というより「グッズ・イベント・プロモーションで、既存のファンから集金する」ような現状が見え隠れする。
いちばんの課題は「新規の顧客獲得」にあるように感じた。
規制が入りそうなレベルのスパチャ狂いをインターネットで見かけたから、彼らの熱にタダ乗りできないかと思って検討したわけだが、自分のカネを割いてまで投資したいかと言うと、私自身は迷ってしまった。
そもそも私自身がYouTuberであるのに、株のほうまでYouTubeに依存するなんて馬鹿らしい。
また、VTuber同様に、実際にYouTuber活動で何年もカネを稼ぎ続けている私が、今後のYouTubeに何の将来性も感じていないという事実を無視できない。
私は努力の主軸からYouTubeを完全に外し、3日に3時間しか動画制作に割いていないのだ。
既に30万人オーバーの登録者を持ち、数億回の累積再生回数を持つ先行逃げ切り組であるのに。
まぁ私が無能な一発屋なだけという事実はあるだろうが。
もう少し経過観察を行い、VTuberたちの伸びやチャートに変化が現れれば、なにかアクションを起こすかもしれない。