磁気帆(マグネティックセイル)について
太陽帆の次は磁気帆だ。
同じものに聞こえるだろうが、その仕組みは根本から異なる。
磁気帆の仕組みについては、OHNISHI/TAKAHASHI Laboratoryの『Electric Propulsion -深宇宙探査に向けて-』というページにて分かりやすく解説されている。
宇宙空間の太陽風プラズマを推進剤として利用する「磁気セイル」が提案されています.
機体に搭載された超電導コイルが作り出す人工的な磁場の帆によって太陽風プラズマを捕捉し, その運動量が誘導電流を介したローレンツ力として機体に伝わることで, 太陽を背にした方向へ推力を獲得する仕組みです
中学生時代の「右ねじの法則」を覚えているだろうか。
導線に電流を流すと、磁場が発生する。
ちなみに「ローレンツ力」や導線と電流については、レールガンの記事で詳しく解説している。
棒磁石と砂鉄の画像を覚えている人は多いのでは無かろうか。
磁気帆においては、この磁場をプラズマで拡大するようだ。
プラズマ噴射で磁場を強くする実験
『プラズマ噴射による磁気プラズマセイルの推力増加の実験的研究』という論文では、実験を用いて、電磁場をプラズマでパワーアップするという装置が紹介されている。
そこには、” プラズマ噴射を行わない条件では 0.0085 N の推力が計測され、プラズマ噴射を行うことで 0.035 N と最大 4.1 倍の推力増加を得た. “ と書かれている。
はやぶさではキセノンにマイクロ波を照射することでプラズマ化していたが、今回の実験ではどのようにプラズマを生成したのか気になった。
読み込んでみた。「プラズマ流を用いた磁気圏拡大手法」「MPD アークジェット」などなど、聞いたことのない文字列が記述されている。
ここで、装置の概略図を見てみる。よく見ると「H2 Gas Tank」なるものがある。
ちなみにWikipediaの「MPDアークジェット」のページには、” 主な推進剤はアルゴン、水素、ヒドラジン等であり “と書いてある。
また、 ” MPDアークジェット(Magnetoplasmadynamic thruster)は主に同軸構造を持つ陰極(カソード)、陽極(アノード)間に数kAの大電流を流すことにより、推進剤を電離し高密度のプラズマを生成すると同時に、電極間に流れる放電電流とアンペールの法則によってその電流周りに生み出される磁力との相互作用(ローレンツ力)により、生成したプラズマを強制排気するというコンセプトの推進機である “ という記述もある。
磁気帆の話をしていたのに、イオンエンジンに関するMPDアークジェットが出てきてしまった。
とりあえず、「磁場にプラズマを噴射すると強くなる」とだけ覚えておこう。
磁気セイルにおけるプラスマ生成について
磁気推進の衛星をイメージしよう。
電磁石を用いて磁場を作り、これをプラズマで拡大するところまでは分かった。
しかし、どうプラズマを生み出して噴射するのだろうか。
これも調べてみた。日本語ではなにも出てこなかったので、適当に「magnetic sailing mechanics」でggってみたところ、以下の図がヒットした。
よく見て欲しい。「Helium gas」と書いてある。
また、「helicon coil ionises the helium」という記述もある。
これをgoogle翻訳に持っていくと、「ヘリコンコイルはヘリウムをイオン化します」と返してきた。
ヘリコンコイル・MPDアークジェットについて
ヘリコンコイルについて調べてみようか。
ほとんど情報がヒットしないが、『小ヘリコン源プラズマの RF アンテナ加速』という論文に以下の図があった。
その中に、「無電極プラズマ電磁加速方式」という文字列が出てきた。
プラズマを加速する方法として,電熱加速,静電加速,電磁加速が考えられるが,
このうちもっとも効率が高いのは加速プロセスが単一で等エントロピー過程を用いる
静電加速(電位差による無衝突の荷電粒子加速)である.(中略)
Lissajous(リサージュ)”加速では,CRT(Cathode Ray Tube)の偏向板による電子線輝点の 2 次元運動と同様に,位相の 90 ° 異なる角周波数 ˙ の RF 直交電界でプラズマを回転加減速することを考える.
(中略)
回転電界の角周波数 ˙ を適当に選べば,イオンは慣性質量が大き過ぎて追従できず(擬似ラーマー半径 R が微小),電子は追従できる(擬似ラーマー半径 R ≅ 1 cm オーダー)状態を造りだせる.
この時,周方向電子電流だけが残るので,ホール加速の原理によってプラズマが加速される
らしいです。
『高密度ヘリコンプラズマの無電極加速と特性評価』という論文からも引用してみる。
対の対向コイルに位相差 90 度の電流を流すことで回転磁場𝐵ωが発生する.
磁場の回転角周波数𝜔を𝜔ci < 𝜔 < 𝜔ce と設定することで,電子のみが回転し周方向電流 𝑗θ が発生する.
ここで𝜔ci:イオンサイクロトロン角周波数[rad/s],𝜔ce:電子サイクロトロン
角周波数[rad/s]である.周方向電流 𝑗θ と,外部より印加した
発散磁場の径方向成分𝐵rとの外積方向に,軸方向ローレンツ
力 𝐹Z = 𝑗θ 𝐵𝑟 が発生し,プラズマは加速できると考えられ
る.
調べたところでこの2つしか見つけられなかったため、このまま解明を試みる。
まず、”対の対向コイルに位相差 90 度の電流を流すことで回転磁場𝐵ωが発生する.” という記述に着目する。
ここで出てくるのは交流回路の知識だ。
どういうわけか、コイルに交流電流を流すと位相が90度ズレるらしいのだ。
回転磁場だか回転磁界というものもある。
これはモーターの動作を考えるうえで避けては通れない原理だ。
少なくとも、「コイルに電流を流すと発生する磁界を使って、ローレンツ力をノズル方向に発生させている」ことは事実である。
何時間か掛けて、数十のサイトを渡り歩いたが、私には分からずじまいだった…
とりあえず、「プラズマを打ち出す」という話についてはここで終わりとする。本題に戻ろう。
拡大した磁場で、なぜ太陽風を受けて進めるのか考える。
太陽風を磁場で受けて加速できる理由
まず東北大学の『プラズマ推進』という記事を引用する。
物体を一様流の中を置くと、流れが抵抗を受けて減速される。この時、作用・反作用の法則より物体にも相応する力が働くことになる、帆船の場合はこの力を推力として利用する。宇宙空間に作られた磁場が壁の役割を果たし、太陽風が減速されることで失われた運動量が探査機に伝わる(Fig.①)。この理論が磁気セイルの基本概念である。
磁気セイルの場合、圧力分布が磁場と太陽風プラズマ流れの間に存在する磁気圏境界と呼ばれる境界面に作用することで、相応する境界面電流が流れる。この誘導電流によって誘起された磁場がコイル電流との間で j X Bのローレンツカを発生させるが、コイル中心から見て前方(昼側)と後方(夜側)ではコイル電流の向きが反対となるので、互いに逆向きのローレンツカが発生することが分かる (Fig.②)。 しかし、前方コイル電流の方が磁気圏境界電流に接近していることを考慮に入れれば、前方コイルの位置に誘起される磁場が後方よりも大きくなり、ローレンツカの大小関係は以下のように書ける。
従って、磁気セイルは必ず太陽から遠ざかる方向、つまり太陽風と同じ方向に力を受けることになる。そしてこれが推力となる。
さらにWikipediaには ” 陽子や電子などの荷電粒子が、磁場を磁力線に垂直に通過して移動すると、力が生じる(電磁誘導、フレミングの法則) “と書いてある。
また、『太陽風宇宙帆船と磁気プラズマセイルの研究』という論文では、以下のことが書かれている。
静電 セ イ ル の 原 理 を 説 明 す る た め ,惑 星 間 空 間 に 正 に 帯 電 した 宇宙 機 が 置 か れ た 場 合 を 考 え て み よ う
(中略)
負 電 荷 (電 子 )の 放 出 に よ っ て 宇 宙 機 が 正 に 帯電 し た 時 は ,宇 宙機 か ら 外 側 に 向か う向 きの 電 界 (E ) が発 生 す る こ とか ら .宇宙 機 に 近づ い て くる 正 イ オ ン (電 荷q ) は ク ーロ ン カ (F =qE ) で 跳 ね 返 さ れ る .
そ の 結 果 ,正 イ オ ン の 受 け る 反 発力 の 反 力 が 宇 宙 機 に 作 用 し,宇 宙 機を 加 速 す る た め の 推 力 が 得 ら れ る .
調べていると、荷電粒子というのは、磁場の中を通るとき、進路を変えられてしまうという特性を持つらしい。
太陽風に含まれるプラズマの正イオンが、展開した磁場に跳ね返される。
それによる反力を用いているわけだ。
まとめ
深入りしすぎたせいで、ドツボにはまってしまった。
物理法則への理解を深めたら、また戻ってこようと思う。
参考文献
何時間も掛けて、数え切れないほどのサイトを巡ってリサーチを行った。
私はなにをしているのだろうか…
http://fnorio.com/0118light_pressure0/Koyama_light_pressure.pdf
http://www.r2.div.jps.or.jp/symposium/SEP2004/symp-funaki.pdf
『高密度ヘリコンプラズマの無電極加速と特性評価』|石井 大樹* 勅使河原 直人* 篠原 俊二郎 桑原 大介 藤墳 弘昌 早稲田 真平 三塩 晃(東京農工大学)山形 幸彦(九州大学)
http://web.tuat.ac.jp/~sinohara/pub_data/10%2007-08RR-09-003%201.pdf