探査機「はやぶさ」に搭載されたイオンエンジンと「プラズマ」の仕組みを分かりやすく解説する。

「宇宙進出」を考える

「宇宙進出の基礎理論を作りたいなら、まず現状を理解すべし」という信念のもとでリサーチを行った結果、信じられないほど長くなった。

ここでは、伝説と感動の小惑星探査機である「はやぶさ」にも搭載されたイオンエンジンや、「プラズマ」の原理について、基本に立ち返って学び直す。

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電気推進について

この記事は元々、宇宙空間での現状の推進方式について、まとめる記事として書いていた。

今回の主役はイオンエンジンだ。

イオンエンジン

伝説の探査機「はやぶさ」でも採用されていたのが、このイオンエンジンだ。

現在の人工衛星ではごく一般的に装備されているらしい。

「マイクロ波を使ってプラズマを生成し、それを噴射して進む」とかいう、意味不明な説明で紹介されているのが特徴だ。

まず「プラズマとは」

イオンエンジンの原理を理解するためには、「プラズマ」について知っておくことが不可欠だ。

プラズマとは|horiba.com

プラズマというのは、固体→液体→気体の、その先の状態である。

イオン・プラズマ・素粒子について|やさしい電気回路

この状態で温度が上昇していくと、やがて電子が原子核から離れる

これにより、正イオンと電子が入り混じり、両者が高速で不規則に飛び回る状態となる。

ちなみに「正イオン」と「電子」のペアは、後でまた出てくる。

まず、プラズマを作る|http://j-parc.jp

この状態のことをプラズマと言うらしい。

身近なところだと太陽フレアや雷、オーロラもプラズマによる現象だ。

また、宇宙空間も、プラズマで埋め尽くされているようだ。

イオンエンジンの動作原理

というわけでイオンエンジンの仕組みに帰って来た。

まず「プラズマを生成する」のだ。

「キセノンをイオン化する」とは書いてあるが、具体的にどうやっているのか。

このことを調べるのに長い時間を要したが、逃げずに理解するよう試みる。

ここで、「はやぶさ小惑星探査機に用いられたマイクロ波放電式イオンエンジン」という論文のお世話になろうと思う。

その中に、以下の記述がある。

最も早く宇宙作動に成功し,最も多くの宇宙実績を有するのは,アーク放電によりイオン生成する米国の直流放電式イオンエンジンである。

アーク放電について

聞き覚えがある「アーク放電」という単語についてもここで復習しよう。

ちなみに、アーク放電と調べると、関連ワードに「アーク放電 事故」と出てくる。

簡単に言うと、「物理的に繋がってない電極の間に、電気が流れてしまうこと」を挿すようだ。

Fusion Solar 住宅用蓄電システム パンフレットより

上の画像を見ていると、どう考えても物理的に繋がっていない導線の間に、電気が流れてしまっている。

これは、空間が大電力の通り道になる現象だとも言える。

うっかりその電気が人体を流れたら… 危ないわけである。

なお、「アーク溶接」という言葉を聞いたことはあるだろうか。

アーク溶接とは|誰でもわかる!溶接機械を徹底解説

「簡単に大エネルギーのプラズマを発生させられる」という理由で、身近なところで使われているらしい。やろうと思えば、個人でもアーク放電を起こせるようだ。

ペットボトルロケットと共に、いつか実践して動画でも撮ってみたいものだ。

変に爆発したり曲解されて、警察の世話になることだけは勘弁であるが…

「はやぶさ」におけるプラズマ生成

さて、アーク放電の原理がわかったところで、はやぶさにおけるプラズマ発生の原理について考えよう。

1分間に3立方センチメートルというごく少量のキセノンガスを、マイクロ波で陽イオンに分離すると書いてある。

小惑星探査機はやぶさ2の往復航行を実現するイオンエンジン

しかし、ここで思った。

なにをエネルギー源にして、キセノンガスが噴射されているのだ?」と。

はやぶさのバッテリー事情について

太陽光パネルが付いているのだから、そこで発電したエネルギーを貯めておく電池も搭載されているに違いない。脱線するが調べてみた。

JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」物語にて、「大きさ188mm×215mm×153mm、重さ約7.6kgのバッテリー1基。リチウムイオン二次電池を使用。容量は13.2 Ah。」と紹介されている。

また、太陽光パネルについては、「ガリウムヒ素セルが貼られた4.2M×1.4M×2翼の太陽電池場パドルにより1.0 AUにおいておよそ2.6kWの電力を発生 。」とも書かれている。

ちなみに1AUというのは、地球と太陽の距離を示す。

マイクロ波イオンエンジンの進化と電気推進をめぐる国際競争|JAXA

太陽から離れていく中で、通信や全システムの管理もこのバッテリーでやりくりしていたのだろう。

結果が示す通り問題は無かったのだが、どんな電力事情でやりくりしていたのか気になるものだ。

ちなみに、大気圏再突入時に放たれたカプセルの発信装置には、パナソニック製の電池が使われていたらしい。宇宙に打ち上げられ、振動や熱に7年間に渡って耐え続けた後も、正常に動作したのだから驚きである。

ちなみに、燃料となるキセノンは66 kg搭載されていたと見て良さそうだ。

ついでに言うと探査機の構造重量は370kgだと言う。そこらへんの大型バイクと同じくらいの重量である。

イオン化されたキセノンが推進力となるわけ

さて、キセノンからプラズマを作り出した後は、生じた陽イオンが電位差によって打ち出されていく。

ここで絶対に理解・復習が必要なのが、「電位差と電子の移動」という概念だ。

電流というのは、電位が低い方から高い方へ向かって流れる。

電子の流れる向きは電流とは逆なので、電位が低い方から高い方へ電子が流れる。懐かしい話だ。

ちなみにWikipediaには「正の電荷をもつ陽イオンは負電極にむかって加速運動を始める」と書かれている。

私はここを真面目に考え込んでしまってドツボにはまったので、一旦このまま進める。

はやぶさ2が遥か彼方の小惑星に行って戻れる理由』という記事にて、このあたりが詳しく書かれている。

小惑星探査機はやぶさ2の往復航行を実現するイオンエンジン

上の図の「グリッド」と書いてある部分にはそれぞれ電圧差がある。

スクリーン(+1500V)、アクセル(-350V)、ディセル(-30V)となっているらしい(出典)。

1850Vの電位差でもって、イオンは宇宙空間へと打ち出されていく

これにより作用・反作用の法則が満たされ、はやぶさは推進出来るわけだ。

「中和器」について

また、「中和器」という機能も付属していることが書かれている。

ノズル脇に生えているものが中和器だ。

出典

中和器内部でもキセノンをイオン化し、電子を放出している。

ここで出した電子と、イオンエンジンから打ち出されてきたキセノンの正イオンを合わせて中和する。

これにより、取り残された電子が探査機表面にまとわりついてしまい、せっかく打ち出したキセノンの陽イオンと引き合ってしまうことを防ぐようだ。

まとめ

かなり長くなってしまい、疲れ果てた…

文字数も過去最大クラスとなったが、まだイオンエンジンを1つまとめたのみだ。

「解説ページの解説が分からない問題」のせいで、数多の先駆者さまの記述があっても苦戦を強いられた。

間違いのないよう慎重にリサーチと記述を進めたが、私は宇宙科学の専門家ではないので、合っているのか不明である。

それでも記事は出す。

なお、記事のアイキャッチ画像は以下のサイトから引用させて頂いた。

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参考にしたwebサイト

宇宙機の推進方法 - Wikipedia
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https://www-space.eps.s.u-tokyo.ac.jp/research/course01/
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