安い移動手段の代表格であるワゴンRだが、肝心の運転フィーリングはどんなものだろうか。
半信半疑で乗ってみたが、事前の予想を丸っきり裏切って来る結果に心底驚かされるばかりであった。
冒頭のまとめ
新車価格は100~150万ほどだが、安かろう悪かろうだと思っていたら大間違いだ。
むしろその走り心地は「軽セダン」と呼ぶに相応しいものである。
790kgしかないのでノンターボであるわりに加速にあまり苦しさがなく、アシはダンパーをしっかり使ってくれて乗り心地が良い。
上下動の抑え込みも適切で、Aピラーが多少傾斜した投影面積の小さいボディーなので直進安定性も十分に高い。
乗り物全体で気持ちよく曲がって行くような良好なコーナリング特性を持つため旋回性能も良好。
総じて運転が楽しく、走り心地が良い。
意外なほどに優れた走行特性は完全に私の予想を裏切るものであり、スズキ社のクルマ作りの志の高さに感動させられた。
ワゴンRを「テキトーに安く買って乗るアシ車」という具合に認識するのはあまりにも勿体ない。というか誤りであると言いたいくらいだ。
弱点や限界は普通にあるが、価格やセグメントを踏まえると非の打ち所がないレベルの走行特性・コストパフォーマンスを持ったクルマであると感じた。
軽さとシンプルな設計ゆえ余計なコストが掛からず、本体価格は安い。
またカタログ燃費はリッター30kmというバケモノ。
今の時代のクルマ作りの流れに逆行しつつ、エコを実現するという痛快さ。
外観・デザイン
見ない日はないようなクルマであるが、こうしてみるとイカツいようでありシンプルで穏やかにも見える。
意匠を変えたモデルも含めると、ありとあらゆる年代や属性の人々に選んでもらえるデザインだと言える。


背が高すぎないためどっしりと構えるような安定感もある。

メカ的な要素や美学・軽さと安さの正義について
私がこのワゴンRにこのタイミングで乗ったのは、「テクノロジーのジレンマ」や「スズキ社の痛快さ」について言及して動画を作りたかったから。

他社が複雑なメカをバンバンに積んで燃費を稼ぐ中で、スズキ社はシンプルに安く、軽く済ませている。
そして燃費はスズキ車の方が良いくらい。
車重が軽いからシャシーもローコストで済む。



事故ったときの安全性や超高速・高負荷走行には不安が残るが、非常に経済的で素晴らしいクルマ作りだ。
真の車好きを名乗りたいなら高付加価値・高性能車のみを手当たり次第に褒めちぎるのではなく、こういうクルマの美学も理解するべきだろう。
内装
価格が価格だが、「悲惨な樹脂」という感じは特にない。
この価格で悪くはないのは素晴らしいところだ。

ドアの感触にもほどほどのガッチリ感はある。
このメーター、ホンダ車で見たことある。サプライヤーが同じなのだろうか。

エアコンは物理だが、MODEボタンや曇り取りボタンがシフトノブに奇跡的に隠される。

二列目の居住性と荷室
外から見ていると狭そうだが、実際に座ってみると意外にも広く感じる。
リクライニングまで付いており居住性が良い点に驚かされる。
このクルマが送迎で来ても個人的には全く悪いと思わない。
全長の割には乗降性も良い。

しかし二列目のマウント位置がリア寄りであるため、トランクルームはほどんどない。
二列目を立てた状態ではスーツケースがギリギリ干渉するかしないかというサイズの荷物室のみ。

逆に二列目を倒せばフラットになり、スペース効率が良い荷室が手に入る。
遮音性とオーディオ
一切の期待をしてはいけない。
遮音は最低限で、風切り音も床下からのノイズも普通に入って来る。
100km/h以上出せば風の音がうるさいが、別に耐えられないというほどではない。
またスピーカーの音質も終わっている。
普通の音量で聞こうとしても、籠ったような音しか出ない。
Q「音楽は聞けますか?」
BYD「気持ち悪くなるほどの静粛性の中で鮮明な高音を大音量で叩きつけます」
ベンツ「ベースグレードでもソフトウェアを活かして綺麗に響くように鳴らしています」
BOSE「ウチのサウンドシステムが付いてる車には快適で綺麗な音響空間を約束します」
ホンダe「スピーカー数で勝負。頭の上から楽器の音が降って来ますよ」
マツダ「ウチのスピーカーは価格の割には音量や鮮明さが驚くほど良いですよ」
ハーマンカードン「すべての音が美しく鮮明に鳴ります。自然で気持ちの良い音です。」
ワゴンR「YES.」
この程度の話でしかない。
実走行インプレッション
取り回し
車体サイズが小さく、綺麗な箱型で、視点が高く周辺視界に優れ、小回りも良好。
普通車ならまず無理なところでもサクッとUターンできる取り回し性能、適当に頭から突っ込めば駐車が終わるラクさ、センターラインが無いような幅の狭い道での走りやすさなど、その小柄さの恩恵を随所で存分に受けられる。
バックカメラが非搭載だと後方との距離感が掴みづらいため、購入検討時は付けておくことをオススメする。
ちなみにミラーのコントロールボタンは光る機能を持たず、平面で溶け込んでいるため夜間のミラーの開け閉めや調整が難しい。

パワートレイン
驚くことに車重が790kgしかない。
その割には52馬力あるので加速力には余裕がある。
トルク自体は63Nmしかないが、CVTの制御と合わせて少し踏むだけでグイグイと押し出されるように加速して行く。
ゆったり走る程度なら上り坂でもスイスイで、「軽いだけでノンターボの軽自動車ってここまで身軽に走るのか」と驚かされた。
おまけにシフトノブにはSモードが設けられており、これを押せばさらに軽い力で走れるようになる。
しかし中くらい以上のアクセル開度や上り坂での加速においては、さすがに限界が出る。
他の軽ハイトワゴンのような、「エンジン音ばっかり跳ね上がって全く加速しない」状態ではないのだが、まったく加速は速くない。
ノンターボの軽自動車の域は出ないが、鈍重なイメージばかり付き纏っている軽の中ではかなり恵まれている。
なおアクセルを完全にオフにした際の空走力が高く、まったく減速していかない。
この間はエンジンが燃料を吹かないため、使いこなせばとんでもない燃費を叩き出せそうである。
個人的に気になったのがエンジン音のうるささ。
この年代は排気音規制がガバいからか、最新型のハイパフォーマンスエンジンよりもエンジン音がうるさい。
深夜の住宅街を走っていると明らかに自分のクルマのエンジン音がうるさいのを感じるし、深夜の2時くらいに家の外で聞こえる「ブーン」というエンジン音と同じ音が聞こえる。
530馬力の電動車より53馬力のクルマのほうがうるさいというのは時代を感じる要素だ。

乗り心地
私が乗った個体は12万kmを越えていたが、意外なことに乗り心地は良いのだ。
その乗り心地は安物の移動さえ出来ればいい車ではなく、軽規格のセダンである。
タイヤホイールがちゃんとストロークして段差の衝撃に対応してくれる。
フロントのみならず、リア側もしっかりと動いてくれている。
減衰力設定も適切なのでスピードを出していても上下動の収まりが良好。
直進安定性も乗り心地も良いのだ。
しかし完璧ではない。弱点や気になる点はある。
まずバンプタッチが少々早いところがある。
底付き感が強い印象があるが、人によっては気にならないレベル。
12万kmも走っていてこの程度で済んでいるのはむしろ良いと言えるかもしれない。
しかしオーバースピード気味に段差で飛び上がった際に、頂点部分で瞬間的に下側に引き下げられるような動きを感じる。
chatGPTにこの動きの正体を聞いてみた↓
🔧ワゴンRのサスペンション設計の特徴
MH34S型では、従来よりも「乗用車的な安定性と直進性」を狙った設計になっており、
軽量化しながらも、減衰特性(ショックアブソーバーの伸び側の抵抗)を強めています。つまり:
- 縮むときは柔らかめ(突き上げを抑える)
- 伸びるときはしっかり抵抗(浮き上がりを抑える)
この“伸び側の減衰が強い”設定によって、
段差を超えたあとに「車体がフワッと浮かない」「スッと地面に吸いつく」ような挙動になります。
これを体感的に表すと、「飛び上がった瞬間に下に引き戻されるように感じる」というわけです。
少々硬く飛び跳ねるところがあっても、手当たり次第にバイバインと跳ねさせるわけではなくてしっかり抑えてくれるのは安心感があって良い。
ただ走行中は全体的に微振動が伝わってきやすいところがあるように感じた。
ハンドリング
この手の車はカーブでハンドルを切ると穏やかに遅れていくことが多いが、ワゴンRは気持ちよくロールしながらスイスイと曲がって行ってくれるので旋回フィールが良好。
ハンドルを切ると足回りがぎゅっと縮んで、四輪をしなやかに動かしながら旋回姿勢を作ってくれる。
そのままハンドルを切れば、大きく傾くことなく自然に気持ちよくインへと向かっていく。
旋回の中盤以降ではちゃんとリア側の足回りも伸び縮みしながらコーナリングに参加し、四輪で曲がって行くのが味わえる。
総じてクルマの四輪の荷重バランスが非常に分かりやすい。
どのタイヤにどれだけの負荷を掛けるのか。
この識別やコントロールが明快なので、運転が楽しいしドライビングの上達も見込めそうである。
この小柄さと軽さとドライバビリティなら、道路幅が狭い下り坂の峠なら最速級なのではなかろうか。
道路状況次第だが、幅が太いスーパーカーより速いペースで下れると思う。
この「クルマ全体が一体感を伴って動いていく」という旋回姿勢には、スイフトスポーツにも繋がっているのではないだろうか。

高速安定性
100km/hくらいでフッツーに無難に巡航できる。
センターの遊びが充分にあるため気張らずに乗ることができる。
少し動かすとジワーっとクルマ全体が向きを変えて進み始める。
速めのペースで走行している際、段差を越えるタイミングでヨコ方向へ車が動いていると、ゴトンと衝撃が来て姿勢を乱されるので注意。
しかし風にもあまり振られず意外なほど直進性が高い。
またAピラーが寝ているためか、投影面積が小さいためか、ホイールベースの長さか、直進性だけでなく空気抵抗や風に妨害される感じもほとんどない。
特に下り坂では知らぬ間に130km/hとか出ている。
直線で踏み続けても、軽ハイトワゴンのような抵抗感なく加速して行く。
たまにこういう軽自動車が高速道路を140km/hオーバーのスピードでカット飛ばしてるのを見るが、「なるほどなぁ」と思った。
自分では絶対やらないけど。
ちょっとスピードが出過ぎた際は、シフトノブのSボタンを押すだけで自然な強すぎないエンジンブレーキを掛けられる。
市街地での赤信号への減速やちょっとした下り坂で使っていくことで、ブレーキパッドの使用率を減らすことができる。
グレード・価格・諸元など
134万円の20周年記念車だったらしい。
この世代のワゴンRの価格帯は100~150万円である。
| 車台番号 | MH34S-XXXXXX |
|---|---|
| 車名 | ワゴンR |
| 営業機種記号 | WFXE-LAZ2 |
| グレード名 | 20周年記念車オーディオレス |
| エンジン型式 | R06A DOHC 12V VVT |
| 過給有無 | 無し |
| 駆動方式 | 2WD 前輪駆動 |
| トランスミッション | インパネCVT |
| 衝突被害軽減ブレーキ | レーダーブレーキサポート |
| エアバッグ | 運転席・助手席 |
| モデル発売年月 | 2013年07月 |
グーネットカタログの諸元表ページ↓
車重はたったの790kgしかない。
その割には52馬力あるので加速力には余裕があるわけだ。63Nmしかないけど。なお直3。
フロントサスはストラットだが、リアサスはI.T.L.(アイソレーテッド・トレーリング・リンク)式コイルスプリングである。
タイヤサイズは165/55R15.
JC08モードではあるが、この年代にしてカタログ燃費でリッター30kmをたたき出しているというバケモノでもある。