「星型エンジンを車に載せることはできるのだろうか」という疑問を解決するため、2時間ほどかけて色々と調べた。
「いや無理に決まってるだろ」の一言で片づけるのではなく、少し真面目に検証する。
星型エンジンのメリット

冷却効率が良い
シリンダーが放射状に配置されるため、どの気筒も外気に触れやすく、空冷に有利。
信頼性が高い
片方のシリンダーが止まっても残りで動き続けられるため、航空機に最適。
トルクが大きい
低回転でも力強い出力が得られる。
構造がシンプル
クランクが短く、直列やV型に比べて折損しにくい。
星型エンジンのデメリット
直径が大きすぎる
クルマに収めるとボンネットが膨らみ、重心も高くなる。
冷却が不十分(自動車に搭載する場合)
航空機は風を浴び続けるが、クルマは渋滞や低速走行で冷却が追いつかない。
燃費が悪い
燃焼室形状が複雑で熱効率が低い。
騒音と振動が大きい
自動車に求められる静粛性・快適性と相性が悪い。
整備性が悪い
奥のプラグ交換やシリンダーアクセスが困難。
トランスミッションとの相性が悪い
大トルク・低回転型で、自動車用の変速機設計には不向き。

星型エンジンを車に載せる際の問題について
① 重心とパッケージングの問題
- 星型はクランクシャフトの中心を囲むようにシリンダーが配置されるため、縦にも横にも厚みが出る。
- 車だとボンネットが極端に膨らむか、運転席が後退してしまい、レイアウトに無理が生じる。
- 重心も前寄り・高めになり、操縦安定性が悪化する。
② 冷却の不均一さ
- 航空機は「風を直接受ける」から空冷星型が理にかなっていました。
- 車では走行中の風量が不十分で、低速や渋滞では冷却不足に陥りやすい。
- 水冷に改造することもできるが、シリンダーを放射状に配管すると構造が非常に複雑化。
③ トランスミッション接続の難しさ
- 星型は基本的にプロペラ直結を想定しており、大トルク・低回転型。
- 車のように多段変速機と組み合わせるとサイズ・重量・ギア比設計で不利になる。
④ 燃費・効率の悪さ
- 星型は「信頼性・整備性(壊れても飛行中に動き続けること)」を優先した設計。
- 燃焼室形状が複雑で効率が悪く、燃費は自動車用直列エンジンに劣る。
- 車に求められる“低燃費・低排出ガス”と相性が悪い。
⑤ 振動と騒音
- 点火順序である程度バランスは取れるが、それでも回転が荒い。
- 車の快適性(静粛性・滑らかさ)を重視すると致命的な欠点になる。
⑥ コストと整備性
- 構造が特殊なので量産性が悪く、部品のコストも高い。
- 車は世界的に「整備しやすさ」も重要ですが、星型はシリンダーが前に広がるため整備性が悪い(奥のプラグ交換が大変)。

実際に星型エンジンを搭載している自動車について
誰がどう考えても非現実的な星型エンジン搭載車であるが、実は存在自体はしている。
一部のマニアによる魔改造車が大半であるが。
Porsche 356 Outlaw with Radial Motion 3-cylinder radial engine

radial motion製の星型(ラジアル)3気筒エンジンを積んだのがポルシェ356アウトローだ。

新規に開発された3気筒のラジアルエンジンの搭載テストとして選ばれたのがポルシェ356。
2Lか2.1Lや過給機・空冷と水冷などの選択肢があり、120~215馬力を発する。
バンク角120°の3気筒エンジンはドコドコした航空機っぽい独特な音を奏でるようだ。
Monaco Trossi

- 製作年:1935年
- 製作者:アウグスト・モナコ(Augusto Monaco、イタリアの発明家/エンジニア)と、カウント・カルロ・フェリーチェ・トロッシ(Carlo Felice Trossi、レーサー、後にスカリエッティやアルファロメオに関わる人物)
- 形式:ワンオフ試作レーシングカー
- 愛称:「Trossi-Monaco」「Monaco-Trossi」などとも呼ばれる
技術的特徴
- エンジン:16気筒・星型(ラジアル)航空機エンジン
- 正確には 2列8気筒=16気筒ラジアル
- 排気量:約 4,5リッター
- 出力:約 250馬力(当時のGP用としては十分な数値)
- 駆動方式:後輪駆動
- 車重配分の課題
- エンジンを前方に搭載したため前軸荷重が極端に大きく、ハンドリングが悪化
- 実戦投入には不向きだった
デザインと背景
- 当時のGPレースでは「ストレート型の直列8気筒」が主流でしたが、航空用の星型エンジンを自動車に転用する挑戦として企画。
- Trossi伯爵自身がドライバー兼パトロンとして参画。
- しかし、試験走行の結果、重量バランスと冷却問題が致命的で、競技に実戦投入されることはありませんでした。
- 「自動車と航空機技術の融合の失敗例」として、今日ではむしろ貴重な存在になっています。
現在
- 唯一現存する個体がトリノのMuseo Nazionale dell’Automobileに収蔵されており、博物館のハイライト展示のひとつ。
- その特異な外観(巨大なノーズと星形エンジンの冷却フィン)が来館者の注目を集めます。
- 唯一現存する個体がトリノのMuseo Nazionale dell’Automobileに収蔵されており、博物館のハイライト展示のひとつ。
- その特異な外観(巨大なノーズと星形エンジンの冷却フィン)が来館者の注目を集めます。
Megola
これは星5エンジンを前輪の中に積んだバイクというトンデモナイマシンである。

特徴
- 製造年:1921年~1925年頃
- 生産台数:およそ2,000台前後とされる
- 最大の特徴:フロントホイールのハブに5気筒の星型(ロータリー)エンジンを内蔵していたこと
エンジン構造
- 星型といっても、航空機のラジアルエンジンと同じではなく、ロータリーエンジン形式でした。
(気筒が固定でクランクが回る普通の星型ではなく、シリンダーごとクランクシャフトを中心に回転する形式) - 5気筒・排気量はおよそ640cc。
- 出力は8~14馬力程度。最高速度は約85km/hと当時としてはかなり速い。
- 燃料・点火系はホイール内に収まっており、回転部分に点火するためブラシ接点を用いていました。
メリット
- ホイールに直結していたため、クラッチや変速機が不要。極めてシンプルな駆動系。
- 重心が低く、独特の安定性を持っていた。
デメリット
- エンジンが常に回転しているため、アイドリングやギア切り離しができず、停車は基本的にエンジン停止。再始動が大変。
- ホイール交換や整備性が極端に悪い。
- 前輪にエンジンがあるので操舵感が独特で重い。
歴史的評価
- 量産はされたものの、実用性に乏しく普及せず。
- しかし「世界で唯一、前輪にロータリー星型エンジンを積んだバイク」としてオートバイ史に残っています。
- 現存車は非常に希少で、博物館や一部のコレクターが保有。オークションに出れば数千万円規模になることも。
星型エンジン搭載車を実現するなら・・・
プラン1:エンジンスワップ
アメ車(カマロやバイパー、ダッジチャレンジャー)あたりに強引にブチ込むのが最も無難で実現可能性が高いが、とてつもないコストが要求される。

💰 主な追加費用の内訳
1. 取り付け・マウント設計(200〜400万円)
- 星型はV8と寸法・形状がまるで違う → エンジンマウントをワンオフ設計。
- ボンネット干渉を避けるためにフレームやカウルの改造も必須。
2. 駆動系・ミッション適合(150〜300万円)
- 星型は低回転・大トルク型。
- 純正MT/ATと繋ぐにはアダプターやクラッチをワンオフで作る必要。
- トルコン強化・ギア比調整などで追加費用。
3. 冷却・吸排気システム(100〜200万円)
- ラジエータ大型化、電動ファン追加、オイルクーラー設置。
- エキゾーストも専用設計 → 「爆音」確定。
4. ECU・電装統合(100〜200万円)
- 純正電子制御と星型エンジンを繋げないので、ほぼフルスタンドアローンECU化。
- ダッシュボード表示や警告灯も再構築。
5. 足回り・ブレーキ強化(100〜300万円)
- フロント重量増&トルク増に耐えるため、サス・ブレーキ・タイヤを大幅強化。
📊 想定追加コスト
- 最低限仕上げる場合:+600〜800万円
- ちゃんと走れる仕様に仕上げる場合:+1,000〜1,500万円
(ここにエンジン代 約400〜500万円が乗る → 合計1,000〜2,000万円規模)
プラン2:既製品のエンジンを組み込んで開発
「星型エンジン搭載車を強引に市販車にする」と仮定した場合の価格感をシミュレーションしてみます。
前提は「Radial Motion製2.0〜2.1L 3気筒ラジアル(200〜240PS)を搭載」「最低限欲しくなる装備アリ」「ショーカー止まりではなく一応“買いたくなる”新車」とします。
💰 コストの主要要因
- エンジンそのもの
- Radial Motionエンジン単体: 約2.5万ドル(約370万円)とされます。
- チューニングや冷却系含めると 400〜500万円相当。
- 車体・シャシー開発
- 専用フレーム or 既存キットカー流用でも、安全基準を満たすならコスト増。
- 強度・冷却・排気・燃料系をワンオフ設計 → 数百万単位。
- 装備(最低限欲しいもの)
- エアコン、パワステ、ディスクブレーキ、ABS程度。
- インテリアもシンプルながら現代的シートとメーター類。
- 外観はホットロッド風 or クラシックスポーツ風でサムネ映えする見た目。
- 法規対応コスト
- 衝突安全、排ガス、騒音など。
- 実際に認可を取るならここで膨大な費用。→ 小規模メーカーは「少量生産車(型式認定不要枠)」で売るのが現実的。
📈 想定される新車価格レンジ
- 最低ライン(キットカーに近い)
→ 600〜800万円
(「エンジン代+シャシー+最低限の装備」) - 少量生産の完成車(ロマン性重視)
→ 1,000〜1,500万円
(モーガン3ホイーラーやケータハム上位モデルのポジション) - プレミア志向・フル装備版
→ 2,000万円超
(スーパーカーレベルの「変態車枠」)
🚗 市場的な立ち位置
- ロマンの塊なので、普段使いの車としては不利。
- 価格帯的には「モーガン3ホイーラー」や「シンガー911」など趣味性の高い少量生産スポーツカーと同じ領域に収まる。
- 富裕層やマニアが「ショーカー兼おもちゃ」として買うなら、1,000〜1,500万円が現実的なターゲットプライス。
🎯 まとめ
- 強引に市販したら 最低でも600万円以上。
- 「欲しいと思える装備+外観」を備えた実車なら 1,000〜1,500万円クラスが妥当。
- 実際は趣味性が強すぎるため、台数は極小ロットで“超マニア向け”。
まとめ
「できるわけないやん」が「1000万円くらいあれば何とか出来るだろうけど、大富豪の趣味を兼ねた話題作り程度にしかならないよね」に変わった。
クルマに関する理解を斜め上から一歩深められた。
ここで得た知識や見つけた面白いメカは、動画で取り扱っていこう!