【スイスポ】バイクとメカと走りを知り尽くした人が仕上げたクルマ#131台目【試乗インプレッション・ZC33S 6AT】

非常に高い評判や販売実績を誇るスイフトスポーツ、実際に運転してみると世間の人が全く触れない世界も見えてきた。

冒頭のまとめ

ここまで総合点が高いクルマに仕上がっているとは全く思っていなかった。

トルク型エンジンは140馬力とは到底思えず、2トンEVなら280馬力無いと出ないような加速力で伸び続ける。

足回りは程よいストロークが持たされており、強い衝撃への対応は苦手だが乗り心地と安定性のバランスが大変いい。

ハンドリングもリニアかつ一体感があるもので、拡張性はないがどんなスピード域でも運転を楽しめる。

まさかスイスポが「ドイツ車の複製」みたいなクルマだとは思っていなかった。

しかしあくまで「クルマ主導で走るだけ」のものであり、荷重コントロールを楽しむような領域もない。

クルマが優秀すぎて乗り手はただ乗らされているだけ。新幹線を運転しているようなものだ。

私は3時間ほどで飽きてしまった。

ドライビングの引き出しを増やしながら長期で付き合いたい私は、GR86やロードスターなどのFRのほうを選ぶ。

外観

見かけない日はないほど売れているクルマ。

スピードを出してもまったく風に振られないあたり、投影面積的には不利なホットハッチだが空力特性はかなり良さそうだ。

内装

新車価格との兼ね合いか、ある程度は簡素に仕上がっている。

なぜかシートヒーターが運転席のみ。助手席に乗せる人にこそ必要じゃないのか…

とんでもない独身DT仕様だなオイ…

エアコンの操作パネルはジムニーとも共用している。

メーター内にはトルク・馬力・ブースト圧を出す機能があるが、残念ながら具体的な数値を教えてはくれない。

油温を正確に知ることができるのは有難い。

静粛性とオーディオ

路面がちゃんと整っていれば、無難なところに収まる。

しかしザラついた路面では100km/h出さない程度でも同乗者との会話がままならないレベルのロードノイズが入ってくる。

普通に乗る程度なら気にならない程度になっているので、不満なら自分でデッドニングやスピーカー交換を行うことになる。

多少払っても相変わらず車は手頃だし、加速力は過剰気味なので性能が落ちると言うこともない。

オーディオも車を止めて仮眠しているうちに聞く分にはいいが、高速走行中に音量を上げると完全にパワー不足。

一部の低価格買い物グルマほど酷くはないが、あくまでまぁまぁ聞けるという程度。

イコライザー設定でだいぶ改善されるが…

スイフトスポーツのイコライザー設定のオススメ例

実走行インプレッション

取り回し

スイフトサイズのクルマなんだから楽勝なんだろうと思っていたが、意外と乗りづらく感じた。

1695mmから1735mmまで拡幅したせいなのかボディーが外側にもっこりと膨らんでいる印象があり、四つ角の感覚がイマイチ掴みづらい。

腰高感がイヤでシート位置を下げたせいかもしれないが、試しに上げてみても改善した印象は無い。

小回り性能も普通に良いのだが、注意力が欠けた人や初心者などはぶつけそうだ。

ちなみにスイスポには致命的な弱点がある。

リアガラスのさらに後ろの四角である。

ここが狙って事故を起こしに行ってるのかと思うレベルで絶望的に邪魔。

バックでパーキングエリアの駐車場から出る時は完全に車が見えないし、合流中も右後ろの車がピンポイントで消える。

市街地を走っていても、隣のレーンの後ろ側を走っていた車が気が付くと消えている。

右左折でどこかへ行ったのか、ちょうど死角にいるのか、パッと見では分からない。

パワートレイン

しっかりと低回転域からエンジン音を響かせていく。

ちゃんとエンジンで引っ張っていく、エンジンと共に走っていく感触にはバイクらしさも感じられる。

見た目はコンパクトカーだが、少し踏むと低音がカッコよく響く。

ここらへんの乗り味はちゃんとスポーツカーしている。

スイスポに乗るまでは「中途半端なコンパクトカーベースの車じゃなくてバイクでいいじゃないか」と思っているところがあったが、いざ乗ると「バイクも知っている人たちが作った車なんだろう」と思わされる。

さて、強く踏み込むとかなりの加速力で押し出されていく。

正直かなりの速さである。

低回転域で踏んでもトルクでグイグイと伸びていくし、上まで回せばメカニカルサウンドと共に勢いよく伸びる。

もしかして他のターボ車なら「異音がする」というクレームの元になるから消さなくてはいけなかった音を、あえて鳴らし放題にしているのだろうか。

もしその通りならば、騒音対策のコストをカットしつつバイクっぽい乗り味を演出できて一石二鳥だ。

さすがに120km/hあたりから上の加速は馬力相応に落ち着いていくが、それでも速度の乗りは非常に良い。

ドイツ車にも引けを取らない完成度にある。

スズキがこの価格でこんな車を作っていたなんて、正直思っても見なかった。

投影面積が大きいように思っていたが、空力特性は良いようだ。

160km/h程度までは風の影響を感じることも、不安定感を感じることもなくフツーに走れてしまう。

トランスミッション・オートマとマニュアル

まず初めに言う。

限定解除してでもマニュアルで乗るべき」だ。

ドラポジやエンジンフィールは完全にマニュアルで乗る車であり、ローポジションなスポーツカーよりもはるかに乗りやすい。

エンジン特性もトルクフルで、初心者でも難なく楽しめるマニュアルなのだ。

そもそもマニュアルなんて、平地で左足だけを動かしながら半クラッチのポイントを感じ取る練習を繰り返すだけで慣れる。

坂道発進も、右足でブレーキを踏んだ状態でクラッチを離していき、半クラッチになったらブレーキを離すだけ。

わざわざオートマで乗る理由はほとんどないだろう。

さて実車の話に戻ると、どうやらこのクルマのATはマニュアルトランスミッションを機械で操作するものではなく、アイシン製のトルコン式の6速ATらしい。

トランスミッションオイルの問題なのか、冷間時の発進においては妙なガタ付きが発生する。

オートマなのでギアチェンジの手間がないわけだが、それ以上にストレスを感じる場面が多い。

スポーツモードが非搭載でエコ優先のプログラムとなっているからなのか、少し強い加速が欲しい場面でアクセルを踏んでからの出足がダルい。

シフトダウンを待つ必要が生じる。

旋回後の加速のためにパドルでシフトダウンしておいても、旋回中にアクセルを抜くと自動でシフトアップされてしまうのでテンポが悪くなる。

マニュアルモードで操作すれば問題ないのだが、なら最初からMTで乗ればいい。

またMレンジからDレンジに戻す際に行き過ぎてしまうことが多かったり。

メリットがあるとすればパドルの連打にもスムーズに対応することだ。

実は17年式の日産GT-Rは、パドルシフトを連打しても無視されるのだ。

アクセルを踏み増している最中に6速から左側のパドルを2連打すると、スッと4速に落ちて滑らかに加速力が出る。

シフトショックもしっかり吸収してくれる。

この複数段飛ばしに対応したパドルシフトは優秀だと思う。

レッドゾーンまで踏めば自動でシフトアップされる。

オートマらしくレブを気にせずに踏み抜けるが、スイスポを買う客層がこの特性を好むのかは分からない。

乗り心地

ボディの剛性感とアシの動かし方に心底驚かされた。

この安さと重量、少し古いプラットフォームなので、どこかしらにグシャッとなるような安っぽいフィーリングが出るものだろうと思っていた。

しかし実車は素晴らしい。

ゴツンと硬めの入力は入ってくるが、足がしっかりとストロークしながら衝撃と揺れを抑え込んでいく。

そして十二分に頑丈なボディーでしっかり受け止める。

これによって、「乗り心地も安定性も心地もよい」という乗り味になる。

しかし完璧ではない。

例えば穴ボコだらけの地帯に落ちたような場面ではダンダンと飛び跳ね気味な動きとなる。

またリアがトーションビームで繋がっている弊害か、後ろが斜め方向に突き上げられて吹っ飛ばされるような動きをすることもある。

特筆するほど酷いのが、スピードを出した状態で高速道路などのうねりを飛び越える場面だ。

路面の継ぎ目にハイスピードで通りかかると、サスペンションが縮み切ったあとに車体に非常に強い衝撃が入り、その後に真上にダンっとジャンプする。

その後の着地時もサスペンションが底付きすることによる衝撃を喰らう。

飛び上がった後の着地で着地するときに、ドスンで下に叩きつけられて、その後に持ち上がって…

上下動の波の端のタイミングでひどい衝撃がボディにドンと入る。これを2~3山繰り返す。

完全に大ジャンプしている。

ドラレコの衝撃録画も作動する。

アシのストロークは街乗りにおいては大きめだが、こういう段差への対応においては充分ではない。

伸び側も動きが制限されてしまっており、空中に吹っ飛ばされる感の一因となっている。

ハンドリング・ドライバビリティ

荷重移動で旋回姿勢を作ってどうのこうというものではなく、乗り物自身がグイグイと自発的に曲がっていく味付け。

車のコーナリング半径を、ハンドルを切り増すことで無段階に指定できようなもの。

ハンドルを切ると少しの間のあとに乗り物がじわーっと穏やかに曲がって行く。

前がグイグイと入る。

ハンドルを回していく人間の手の動きと、クルマのロールや旋回の動きが滑らかにつながっており、車と乗り手が一体になって曲がっているようなハンドリング。

急旋回中にアクセルを緩めれば前がインへと入っていくし、アクセルを踏めば外側へと膨らんでいくシンプルな特性。

これがちょうど峠道を楽しく普通のペースで走る位のカーブで車のロールの押さえ込みが適正化されて、ハンドルを切るだけで車が気持ちよくカーブに沿って曲がって行っていれる。

急ハンドルを切っても過激に動くこともなく、遅れることもない。

感性の領域を知り尽くした味付けだ。

「分かってる人が仕上げたんだ」と理解するのに時間は掛からない。

実は急ハンドルを切って行った先の動きはダイハツのタントと近い。

フロントのアウト側のタイヤを捻って、急な姿勢変化が起きないようにして安定性を保っている。

しかし弱点も無いわけではない。

例えば、急加速中に段差を超えた際にアウト側のハンドルが揺さぶられる。

コーナリング中には意外とハンドルやクルマの姿勢を乱されないため大きな問題ではないが、私は気になった。

また乗り物の動きがワンパターンであり、わざわざタイヤマネジメントや荷重コントロールを考えるようなものでもない。

「ただ道に合わせてハンドルを切りつつ、アクセルを踏んで強烈な加速と安定性を味わうだけ」のドライブになりがち。

私はドライブを始めてから4時間、高速道路を降りて山道に入って30分ほどで飽きてしまった。

高速安定性

市街地ではストロークしていたダンパーも、スピードを出した状態では安定性重視となる。

コトっとダンパーが動くだけで上下動はすぐに抑え込むため、飛ばしている最中の乗り味は本当にドイツ車に近い。

飛び上がった際も足のストローク量自体は長くなく、飛んでいる最中に足が伸び止まるのが感じられる。

これは乗り心地としてはよろしくないが、乗り物への上下動を制限する動きとなっており高い安定性をもたらす。

街中ではおだやかにストロークしていたのに、スピードを上げると勝手に減衰マックス締めのバスっとした安定感ある乗り味に変わる。これが電子制御ダンパーではないのなら、どういう作りになっているのだろうか。

またハンドルを切り出してから車が動き出すまでの動きも特に過敏ではないし、路面のうねりや段差でも上下方向には飛んでも左右方向にはほとんど暴れない。

ゆったりとスピードを出して流していくことができる。

意外にも高速巡行向きなのだ。

人間が入力を入れてから、車が動き出すまでにちょっと間があるのが良い。

そのちょっとの間の分で、過敏にならずゆったりと乗れる。

意外とコントロール性が高いのだ。

しかし高速走行時のロードノイズの左右バランスは少々おかしい印象をうける。

右側のガラス部分だけうるさいような…

さてブレーキも非常に頼もしく、踏み始めは別にガツンと来たりしないが、踏力を上げるとクイっと車速を削れる。

前後方向へのピッチングも抑えられており、クイックで頼もしいブレーキだ。

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