ふと「最新型の軽自動車ってどんな走りをするのだろう」と気になったため、7代目である現行型のダイハツ・ムーブに乗ってきた。
冒頭のまとめ
シンプルで価格や過激な演出なども抑えた無難な仕立てだが、全体的な完成度が非常に高い。
足回りやハンドリング、遮音性などは乗用車的で、タントほど高くないレベルに抑えられた全高と寝かされたフロントウィンドウが素晴らしい横風耐性をもたらす。
デザイン・内外装
自分が乗ったのはXグレードであるため、最上位のターボRSと比べると全体的に質素。
シンプルなものを好み、「派手すぎるのはちょっとなぁ…」と思う、そんなユーザーにお勧めできる。

テールランプはLED。流れるようなラインが美しい。

下から上へと広がりながら駆け上がって行くようなデザインには爽快感がある。

フェラーリのポルトフィーノやBYDのATTO3などど同じアプローチだ。
内装は価格を踏まえると必要充分。

応答性や使い勝手が最高峰のナビのほか、便利な収納や物理エアコンなどのユーティリティも充実している。

素材としては大半が樹脂だが、嫌な安っぽさは感じなかった。

サイドブレーキは足踏み式。RS,Gグレードを選べばブレーキホールド付き電動パーキングとなる。

静粛性とオーディオ
イメージや価格帯以上に静粛性についてはしっかりとしている。
床下の遮音が充分に行われているようで、ザラザラ路面や大雨の水たまりを走っても「ゴー」とか「ザー」という音がほとんど入ってこない。
しかしオーディオについては価格相応だ。
仮眠時にちょっと歌を楽しむ程度なら良いのだが、走行中に聞くには容量不足が目立つ。
そもそもカーオーディオに使うようなスピーカーではないように思う。
鮮明さが不足しており、少しでも音量を上げると能力不足による音の不鮮明さが目立ってしまう。
イコライザーでだいぶ改善するが、根本解決にはならない。

追加でデッドニングしたいというほど静粛性は悪くないが、スピーカーについてはこだわりがあるなら交換だろう。
二列目の居住性
軽自動車とは思えないほど広い。

スペースも充分にあるしリクライニングもあるため快適。
足をしっかり延ばしてゆったり過ごすことが可能だ。
アームレストが少し不満だなと思う程度。
運転席での仮眠のやりづらさ
数分だけ運転席を倒して仮眠したのだが、このクルマは首の裏あたりの座面が硬すぎる。
音楽を流しながら眠ろうとしたところ、1番のサビが終わらないくらいのタイミングでもう首の後ろが痛くなった。
運転席自体はほぼ平面レベルで倒れるのに、枕無しではちょっとした仮眠すらも満足に取れない。
また空調のためにエンジンを掛けっぱなしにしていると、エアコンのコンプレッサーが作動した際に明らかにシートがビリビリと振動しだす。
実走行インプレッション
取り回し
タントほど「箱ですよ感」はないが、クセのない箱型超コンパクトボディーで取り回しは抜群。
“初心者にオススメのクルマランキング”にスバルのレイバックと一緒に入れたいくらい乗りやすかった。
ハンドルのボタンを押すとアラウンドビューモニターまで出てくる。

パワートレイン
私が乗ったのはノンターボモデルだったが、ノンターボの軽自動車の中ではトップクラスの加速の良さを見せてくれた。
所詮はノンターボなので少し踏み込んだ程度でも回転数はヒュンと上がるが、他車ほど加速して行かない感がない。
踏み込むとダイハツの直3でお馴染みのあの音を響かせながら加速して行く。
Sレンジ&パワーモードでベタ踏みすると、瞬間的にちょっと怖いと感じるくらいの最大出力が出ることも。
燃費のためにとにかく回転数を抑えるのではなく、ある程度は加速性能に振った制御をしているようだ。
あんまり踏み込まなくても自然に車速が乗っていくため、数値以上にストレスがない。
しかし上り坂ではあからさまに失速したり、100km/h→120km/hへの加速が不可能なレベルで果てしなく遅かったり、出力不足が目立つポイントもある。

トランスミッションはただのCVTではなく物理的なギアを噛ませるタイプ。
この弊害と思われるギクシャクが出ることがある。
内部で巡行用の物理ギアに入っていたタイミングで私がアクセルを踏み込む
↓
ギア比を変える必要が生じる
↓
クラッチを切り離し、回転数を合わせてギアを繋ぎ直す
↓
この一瞬の間、アクセルを踏んでるのに加速しない
こういう出遅れ感がたまに出る。
燃費性能で取り返せるのだろうか。
ちなみにこのクルマのブレーキタッチは絶妙だ。
スポーツカー並みのカッチリ感を持っている。
制動力そのものも、タイヤのグリップも高い。
軽自動車で味わったことがないような安心感でグイっと止めることができるぞ。
乗り心地
マンホール程度の段差ならばダンパーをコトッとストロークさせるだけで打ち消しに行く。
DNGAプラットフォームがもたらす充分に頑丈なボディーと合わせ、軽い段差程度なら300~400万円級の乗用車かと見間違うほどの乗り心地を実現している。

基本的には走行安定性重視。フワつかせず不快な入力も入れずに安心感を出しに行くが完璧ではない。
穴に落ちたり交差点内で飛び跳ねるような場面だと車体が結構揺さぶられてしまう。
強い衝撃を受けた際の受け流しにおいて快適性を削がれてしまう場面がある。
また特に着地後の底付きの衝撃があったり、わずかにうねった路面で上下に引っ張るような動きがあったりもする。
走行安定性とのバランスが非常に高く、これらの動きは不快だと感じるほど悪いものでもない。
普通の人なら気づかないレベル。
むしろ「安心感、しっかり感が増した」と感じることだろう。
ハンドリング・ドライバビリティ
ハンドリングは切り始めのセンター領域ではゆったりとしているが、切れ込んでいくとしっかり感のあるコーナリングとなる。
ゆったりとしたセンターと、しっかり感のある高負荷域がリニアに繋がる。
ロールを早い段階でビシっと抑え、安定した姿勢を簡単に作ってくれるのでカーブでも安心感が違う。

旋回時の動きとしては急なスピンを起こさないように安定方向に抑え、フロントのアウト側のタイヤのグリップをぐわーっと酷使しながら遠心力に抗っていくものとなっている。
終始動きが安定しており、予想外の動きが一切起こらない。
凍結路やガタガタ路面などでも一定の信頼感があるだろう。
旋回姿勢に安心感があるのでペースを上げたくなるが、峠の狭い急カーブではハンドルの回転量に対してフロントタイヤの舵角が不足気味となるようだ。
ハンドルを切って行ってもクルマが曲がって行かなくなるような印象を受けることがある。
ステアリングレシオが軽さ優先となっているため、峠道でグイっと急カーブを曲がるような走りは少し苦手。
横風耐性・高速安定性
試乗中に瞬間的に突風に吹かれる場面があったが、「ちょっとハンドルが持って行かれたかなぁ?」程度で済んだ。
背の低さと寝かされたフロントウィンドウが見かけ以上の効果をもたらしてくれている。
加速力がないため踏み続けても120km/h出すのは難しいため、実用上の上限速度もノンターボでは110km/hくらいだろう。
その速度域でも空気抵抗や風によるフラつき、段差を越えた際の左右バランスの乱れ、雨による不安定感の顔出しなどは特になかった。
また風切り音をうるさいと感じることもない。
無理は禁物だが、軽自動車の中でもかなり良い高速性能を持つほうだ。
諸元・価格・グレードなど
私が乗ったのは新車価格149万円のXグレード。
| 項目 | X(2WD) | ターボRS(2WD) |
|---|---|---|
| 車名・型式 | ダイハツ 5BA-LA850S | ダイハツ 5BA-LA850S |
| 駆動方式 | FF(前2輪駆動) | |
| 全長×全幅×全高(mm) | 3,395 × 1,475 × 1,655 | |
| ホイールベース(mm) | 2,460 | |
| 室内(長×幅×高 mm) | 2,140 × 1,335 × 1,270 | |
| トレッド(前/後 mm) | 1,300 / 1,295 | 1,300 / 1,295 |
| 最低地上高(mm) | 150 | |
| 車両重量(kg) | 940 | 890 |
| 乗車定員(名) | 4 | |
| エンジン型式 / 種類 | KF型 / 水冷直列3気筒 12バルブ DOHC(NA) | KF型 / 水冷直列3気筒 12バルブ DOHC インタークーラーターボ |
| 総排気量(cc) | 658 | |
| 内径×行程(mm) | 63.0 × 70.4 | |
| 圧縮比 | 11.5 | 9.0 |
| 最高出力(kW[PS]/rpm) | 38[52]/ 6,900 | 47[64]/ 6,400 |
| 最大トルク(N·m[kgf·m]/rpm) | 60[6.1]/ 3,600 | 100[10.2]/ 3,600 |
| 燃料供給装置 | EFI(電子制御式燃料噴射装置) | |
| 使用燃料 / タンク容量 | 無鉛レギュラーガソリン / 30L | |
| トランスミッション | D-CVT(インパネセンターシフト) | |
| 変速比(前進) | 3.327 ~ 0.628 | 3.316 ~ 0.501 |
| 変速比(後退) | 2.230 | 4.827 ~ 3.277 |
| 最終減速比 | 4.800 | 5.444 |
| ステアリング | ラック&ピニオン | |
| ブレーキ(前/後) | ベンチレーテッドディスク / リーディング・トレーリング | |
| 駐車ブレーキ | 電気式(後2輪制動) | 電気式(後2輪制動) |
| サスペンション(前/後) | マクファーソン・ストラット式コイル / トーションビーム式コイル | |
| タイヤ(前後) | 155/65R14 75S | 165/55R15 75V |
| 最小回転半径(m) | 4.7 | 4.7 |
| WLTCモード燃費(km/L)総合 | 23.0 | 24.3 |
| WLTC-L(市街地)/ WLTC-M(郊外)/ WLTC-H(高速) | 17.9 / 21.0 / 20.2 | 19.5 / 22.6 / 21.7 |
出典:ダイハツ ムーヴ 主要諸元表(公式PDF)。