【クラウンエステート】「上級ファミリーカー」としてクラウンを再定義する【試乗インプレション】#117台目

ついに登場した4タイプ目の新型クラウンであるエステート。

エイリアンのような見た目が独創的だが、その中身はトヨタが見据える新しい時代の上級ファミリーカーであった。

冒頭のまとめ

車中泊や複数人の家族での使い勝手と快適性を意識した設計には”新時代のファミリーカー”を感じた。

外観は個人の主観によるところではあるが、写真で見るよりは実物は普通にカッコよかったので気に入った。

内装の質感も相当高められており、クロスオーバー時代に感じていた不満はほぼくなった。

ハイブリッドシステムは滑らかでフィーリングが良いが、120km/hから上の加速は伸び悩む。

最低限の山道での追い越しをこなせる程度の加速力はある。

乗り心地は固定減衰のサスペンションでも良好で、ほぼ自動運転が可能となったクルーズコントロールと合わせて長旅も快適に過ごせそうだ。

ハンドリング性能は巨体の割には異様に高く、狭い山道の窮屈なカーブも道に合わせてスイスイ曲がってくれるのでストレスが無い。

ハンドルを動かした際の感触に確かな応答性と的確な重みがあり、街乗りからワインディングまで走りを楽しめる。

外観・デザイン

最初に一つ言うと、写真で見るより実物はカッコいい

スマホの画面を通じて感じていた違和感もない。

程よく大きなサイズ感が迫力と高級感を出している。

トヨタ車らしい万人向けの親しみやすささえ感じた。

この顔つきで。

これ「クラウンっぽいか」と聞かれると「よくわからないがトヨタの高級志向のSUV風ワゴンだ」としか答えられない。

境界線を曖昧にしていくようなグリルやエイリアンのような顔つき。これからのトヨタのデザインのトレンドを感じ取ることができる。

リアのテールランプはカローラクロスっぽく、モデリスタエアロと合わせて後ろ姿からは大衆車感が出てしまっている。

親しみやすさを狙っているともとれるが、700~800万円級のクルマに持ってくる外観だったのだろうか…

全体的に「クラウンの名に相応しい高級車感」というより、「無難に乗れる上質なファミリーカー感」を感じる。

憧れはレクサスに持たせ、クラウンは上級ファミリーカーにするつもりなのだろうか。

さてホイールのデザインは結構カッコいい。ブレーキもそこそこゴツいものが入っている。

珍しいモデリスタエアロの装着車だが、個人的には高級感を下げ、大衆車感を増してしまっている印象を受ける。

ボンネットはダンパー不採用。こういうところが不満。

内装

酷評されていたクロスオーバー時代から数年経ち、クラウンの内装もだいぶ改善した。

レザーの採用率が一気に増え、もう安っぽさを感じることはないレベルにまで質感は高められている。

最近はドイツ車でもプラスチックの採用が目立つ中で、物理ボタンとレザー素材を随所に使用しており使い勝手も良好。

使い勝手、質感、共にやっと満足できるレベルとなった。

ピアノブラックパネル部分はラメが入った塗料が使われており、ただのラメ入りピアノブラックよりもワンランク上の上質感である。

センターコンソールのレザー採用エリアも大きく広がっている。

これに文句を言うのは認知が歪んでいる一部のネット民程度だろう。

クロスオーバーも最初からコレで出せばよかったのに…

二列目の居住性と荷室の使い勝手

二列目はしっかりと広く、肌触りの良いレザーが沈み込むためシートの座り心地も良い。

車のシートでは味わったことがないような沈み込みである。

ガラスルーフと広大な車内空間のおかげで解放感がある。

このガラスルーフは開かない。布のシェードを開け閉めできるのみ。

この価格帯のファミリーカーにはアルファードという最強格がいるが、なんとか見劣りしないレベルの居住性と乗り心地を担保している。

リセールを考えると同じ値段でアルファードを買った方が無難に思えるが…

二列目にはリクライニングがないのが残念であるが、総合的な座り心地は良好だ。

中央のアームレスト兼カップホルダーまでクッションレザーが貼られる。

静粛性とオーディオ

市街地や停車時はそこそこ静かだが、新東名で飛ばすようなスピード域だと風の音が大きくなってくる。

路面のザラザラとした入力を拾ってしまいがちだ。

フロアがビリビリと振動しているのを足の底で感じることもある。

この静粛性で「静かさにこだわった」というセールストークは、さすがにちょっと無理があるんじゃないかと思う。うるさいわけではないんし、確かに街乗りは快適なんだけど…

カーオーディオの音質はトヨタ車である割にはかなり高く、安っぽさはあまり感じない。

雨の日の高速道路でも気持ちよく音楽を楽しめた。

ちょっと音量を上げて鮮明な歌声を楽しみたい程度なら、軽いイコライザーとバランスフェーダー設定だけでも問題なさそうに思える。

実走行インプレッション

この車はむちゃくちゃ走り心地が良い。

水素車のように滑らかに動いていき、極上の街乗りフィールを提供してくれるぞ。

取り回し

4,930 mm × 1,880 mmと言うサイズは数値としては大きいが、実際に運転していてそこまでデカく感じることは無い。

電柱に阻まれる細い道路でのすれ違いには非常に気を遣うだけだ。

アラウンドビューモニターも非常に頼りになる。すぐに慣れる。

バックカメラ・アラウンドビューカメラが雨で濡れてほとんど見えなくなってしまった。

カメラに吹き付けると水滴の付着を防いでくれる撥水スプレーが売られているので、この手の装備を失いたくない人は施工しておこう。

クリアランスソナーも付いているが、草木や雪・台風レベルの大雨などでは誤作動が起きることも多いため万全なものではない。

サイズ的にはそこそこ大きいことを忘れないようにしよう。

自動運転関連

ここ数年で運転アシスト機能が大きく進化し、高速道路の巡行程度なら何の操作もしなくても完全自動運転でクルマが走っていくレベルになった。

これまでトヨタのステアアシストは動作が少々トロく、常にハンドルを握っていないといけない印象が強かったが、クラウンエステートではその必要は無し。

気が付いたら手がハンドルから離れている。

現行のBMWやテスラ、日産のプロパイロット系と比べても劣らないレベルのアシストを行ってくれるようになった。

これは現行型の新車を買う大きなモチベーションとなる。

パワートレイン

滑らかに動き、走り始めから非常に快適に走ることができる。

ディーラー試乗でコレを味わったら勢いで買ってしまいそうなレベル。

普段は静かだが踏み足すとドンと加速力が出るため、街中でもレーンチェンジもスイスイ。

コレを街乗りしていれば、トヨタのハイブリッドが世界で売れている理由が分かる。

HEVでも243馬力。PHEVに至っては306馬力のシステム合計出力。

料金所で踏み込めばホイールスピンが起きるほどの加速力を低速域から発揮する。

ただこのホイールスピン、路面のガタガタと、加速Gでフロントが浮き気味となったことと、空気圧が高いせいかタイヤの接地圧が充分に確保できていなかったことが合わさって起きた印象がある。

気持ちの良いエンジン音を奏でてくれるが、音を楽しむには音量が小さく、高級車と言うには大きいという中途半端なところ。

タコメーターに切り替えてエンジンを楽しむこともできるが、CVTの変速が俊敏すぎて逆に人間の感覚から逸れている一面がある。

多段式ATモードとタコメーターを取り入れてくれたことに感謝しよう。

しかしHEVモデルのほうは120km/hあたりから上の加速が鈍るため、高速道路の120km/h制限区間を気持ちよく飛ばしたいならPHEVをオススメする。

1つ気になったのが燃費の悪さだ。

重量のせいなのか、高速巡航時のモーターだけで流せる領域が短いからなのか、高速道路をゆったり走っていても燃費は伸び悩む。

プリウスPHVならリッター30kmオーバーで走れるような流し方をしても、リッター20kmを越えられないような燃費しか出なかった。

適当に運転したらリッター15kmも出ないだろう。

雨という路面が燃費に対して悪影響を及ぼしていることは事実。

だが個人的な予想をするとこの燃費の悪さはエンジンを切ったままモーターだけで流せる領域の狭さが原因だ。

アクセルが抜かれるとエンジンを切り、そのまましばらくモーターで流す。

これがハイブリッドシステムの定番の動作だが、このクラウンはエンジンが再始動するのが異様に速く、モーターだけで流すのが難しいのだ。

さすがにもうひと頑張りが欲しい。

何万kmも乗るつもりならPHVを買った方が逆に安いのではないかと思うレベル。

街乗り領域ではモーターでガンガンに引っ張ってくれるのだが、少しでもスピードを出すと効率性が落ちてしまうのだ。

私は自分のプリウスPHVで日常的にリッター30km,ベスト記録ではリッター50kmを出したこともある。私の乗り方が悪かったわけではないと思うが…

これは長期のレビューを待ちたいところ。

長く乗るならPHEVの深夜料金充電のほうが逆に安い説について

PHVなら20円もあれば5~7km走れてしまう。

レギュラーガソリンを160円、電費を5km/kwh、電気代を1kwhあたり20円と過程すると、8kwh=160円=40km。

深夜料金で充電したPHEVはリッター40kmのレギュラーガソリン車と燃料コストが同じなのだ。

PHEVは1000km走るのに25L.

HEVは1000km走るのに65L.

1000km走るだけで7200円の燃料コストの差が生じる。

補助金でPHEVが割引されることや、グレードが上がることによる装備のアップグレードなども含めて考えると、PHEVは見かけほど高くないといえる。

中古ではなおさら両グレードの価格差が縮まる。覚えておくといいだろう。

乗り心地

快適な乗り心地で基本的に乗っていて不快さを感じる場面は無い。

高速安定性も高く担保されており固定減衰のHEVでも十二分に良い周りとなっている。

段差ではサスペンションを少しだけ押し潰し、コトッと衝撃を吸収する。

大きな衝撃が車体に入ってくる感じはない。

後揺れがふわふわと残ることもない。

飛び上がる段差の後は車体を優雅に上下に動かして、路面に合わせ込みに行くように動く。

トヨタのSUVは一昔前から乗り心地とドライバビリティの平均レベルが異様に高い。

クラウンエステートも期待を裏切らないぞ。

ハンドリング・ドライバビリティ

トヨタのSUVは実は限界領域での応答性が高い。

本車もその期待を裏切らない。

抜群のドライバビリティを持ち合わせている。

ハンドルを切ってもフラつくことはなく、重さやデカさを感じることもなく、スムーズに曲がっていく。

前がガッと入ってから後ろが穏やかについていくようなターンイン時の動きには FRっぽさ さえも感じてしまう。

パワートレイン的にはほぼ横置きFFなのに。

この特性ゆえ、狭い峠道でもスイスイヒラヒラとコーナリングを楽しんで気持ちよく走っていくことが可能だ。下り坂もあまり怖くない。

旋回中に踏み込んでも前だけで進んだり、前が遠心力に負けてアウトに逃げる感じはあまりなく、ちゃんとリアからも押し出されていく力を感じられる。

クルマの挙動は終始安定しており、急ハンドルを切ってわざとグラつかせようとしても安心感が維持される。

雪道でも凍結路でも雨でも乾燥路の峠道でも、ガッツリ追い込んでも安心して安全に走れるだけの懐の深さ。

外から見ると重たくてデカいが、乗っていると身軽で頼もしい。

高速域

低速域では元気の良い加速をするが、120km/hを過ぎるあたりからは伸び悩んで速度の乗りが穏やかになっていく。

スピードを上げていくとロードノイズは大きくなっていき、ドイツ車と比べると車内は騒がしい。

新東名の流れをリードするように走るユーザーもいるだろうから、このあたりの遮音や加速にはもうひと頑張りが欲しかった。

また風に振られる感触も少々ある。

段差を越えた際にもハンドルを持って行かれがちだが、これは空気圧の過剰な高さが悪さしているようだ。

諸元・グレード

2つのグレードの違いについて

トヨタ「クラウンエステート」のグレードは、主に以下の2種類が設定されています。

  • ESTATE Z
  • ESTATE RS

これらのグレードの主な違いは以下の通りです。

1. パワーユニット(駆動方式)

  • ESTATE Z: 2.5Lハイブリッド(E-Four:電気式4WD)
  • ESTATE RS: 2.5Lプラグインハイブリッド(PHEV)(E-Four:電気式4WD)

2. 価格

  • ESTATE Z: 約635万円
  • ESTATE RS: 約810万円
    • RSの方がPHEVシステムを搭載しているため、価格が高くなります。

3. 走行性能・モード

  • ESTATE RS: PHEVであるため、EV走行距離が長く、よりパワフルな走行が可能です。また、ドライブモードセレクトにECOとSPORTに加えて、「REAR COMFORTモード」が追加されています。

4. 外観

  • ホイールデザイン: ZとRSで異なるホイールデザインが採用されています。
  • ブレーキキャリパー: RSはレッドのカラードキャリパーを装備しています。
  • ボディカラー:
    • 選択できるボディカラーが一部異なります。
    • RSではZで選択できない専用のバイトーンカラー(ルーフがプレシャスメタルでボディ色がマッシブグレー)が選択可能です。
    • 全グレードでバイトーンのボディカラーを選択可能ですが、その場合、ドアガラス周りのモールがブラックに変更されます(モノトーンの場合はシルバー)。
    • ルーフレールはモノトーンの場合シルバー塗装ですが、バイトーンを選択した場合はブラック塗装になります。

5. 内装・装備

  • ステアリング/シフトノブ: RSのステアリングやシフトノブは、グリップ力が高まるディンプル加工が施されており、操作性が向上しています。
  • 内装色:
    • ESTATE Z: ブラックまたはサドルタン(本革)
    • ESTATE RS: グレイッシュブルー(PHEV専用色、本革)
  • ラゲッジルーム関連:
    • ESTATE RS: ラゲッジルームでくつろぐ際に便利な収納可能なデッキチェアやデッキテーブルが標準装備されています。
    • ESTATE Z: これらの装備はディーラーオプションで追加可能です。
  • シートヒーター: RSには後席左右シートヒーターが標準装備されますが、Zは前席シートヒーターのみです。

上記以外にも細かな装備の違いはありますが、PHEVかハイブリッドかというパワーユニットの違いが最も大きなポイントとなります。

諸元表

参考:トヨタ公式サイトの諸元表ページ

項目ESTATE Z
(ハイブリッド)
ESTATE RS
(プラグインハイブリッド)
車両型式6AA-AZSH38W-CNXGB6LA-AZSH39W-CNXZB
駆動方式E-Four(電気式4輪駆動方式)
車両重量1,890 kg2,080 kg
全長×全幅×全高4,930 mm × 1,880 mm × 1,625 mm
ホイールベース2,850 mm
乗車定員5名
エンジン型式A25A-FXS(2.5L 直列4気筒)
最高出力(エンジン)140 kW(190 PS)/6,000 rpm130 kW(177 PS)/6,000 rpm
最大トルク(エンジン)236 Nm(24.1 kgf·m)/4,300–4,500 rpm219 Nm(22.3 kgf·m)/3,600 rpm
フロントモーター出力134 kW(182 PS)
フロントモータートルク270 Nm(27.5 kgf·m)
リアモーター出力40 kW(54 PS)
リアモータートルク121 Nm(12.3 kgf·m)
燃料消費率(WLTCモード)20.3 km/L20.0 km/L
EV走行距離(WLTCモード)89 km
バッテリー種類ニッケル水素電池リチウムイオン電池
バッテリー容量5 Ah51 Ah
トランスミッション電気式無段変速機
サスペンション(前/後)マクファーソンストラット式/マルチリンク式
ブレーキ(前/後)ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク
燃料タンク容量55 L

まとめ

狭い道のすれ違いが厳しいサイズや意外と伸び悩む燃費、新車で買うにはちょっと高い価格など、気になるところがないわけではない。

しかし実車に触れて分かる肌触りや車内の使い勝手の良さには新しい人生を予感させてくれるものがあった。

「クラウン」と呼びたくなるような高級感や優美なスタイリングがあるか、700万円という圧倒的な価格に見合うだけのものがあるかと言われると迷う。

しかし物価高時代の新しいファミリーカーのカタチとして、面白いモノが出て来たなと思わされた。

おまけ:アルファードと比較してエステートを買う理由

上部へスクロール