世の中のベンツの大半がAMGラインパッケージを装着する中で、あえて素のCクラスのアバンギャルドに乗ってみることにした。
スポーツや刺激を好む層から解放されたその乗り味は、高級車の定義を雑味なく世界へ突き付けているようだった。
冒頭のまとめ
先代に比べて次元違いに良くなっている。
エンジンは存在を感じられないほど静か周り、段付きなく滑らかに動くようになった。
ゴツゴツ感のあった足回りはスッと全ての揺れと衝撃を打ち消しつつ平然と走るようになる。
ハンドリングも悪く言えばスカスカで一体感に欠けるが、切ったら切ったぶんだけ滑らかに動き続ける。
ドイツ車でよく見る「いま凄いことしてますよ感」は消え去り、すまし顔で凄いことを成し遂げるようになった。
車内の先進的なナビシステムは使い勝手にかなりのクセがあり、慣れていても不便に感じてしまう。
外観・デザイン
AMGラインのパッケージ非搭載ということで、ハッキリいうと刺激不足でダサい。
シンプルで上品と言うこともできるだろうが、どちらかというとオジサン臭い感じが漂っている。


内装
車内に初めて座った際に感じる近未来感には凄まじいものがあるが、いざ走り出そうとした瞬間に独特過ぎる操作系にウンザリすることになる。

残念なこととして、視界の大半がプラスチックであるため高級感があまりない。
何よりもムカつくのが、すべての操作に常時繊細さを求められることだ。
この問題は慣れでは解決しない。
静粛性とオーディオ
車に乗っていることを忘れるほど静か。
低速域は完全に無音レベル。
高速道路でも窓の奥の方で風の音が聞こえる程度。
カーオーディオについてはハードウェアそのものも充分に良いが、どちらかというと音の鳴らし方が巧みである。
音響設定で「Pure」と「3Dサウンド」を選べるが、ぜひ3Dサウンドのほうを試してほしい。
音の信号に大きな改変を加える都合で絶対的な音質は少し乱れる感覚があるが、そのぶん音響体験は群を抜いたものとなる。
あちこちに配置されたスピーカーに効果的に信号を送り、音楽がクルマ全体に広がっていくかのように鳴らすのだ。
低音は下からドンドンと響いている。
音量を上げると走行中にアシが震わされるのを感じるレベルだ。
微細なコントロールをしたい場面では逆にストレスになるんじゃないかという響き方をする。
左膝で触れるセンターコンソールも揺れてながら音の振動を伝えてくるような。
人間の歌声にあたる中音~高音領域は車内の上側の空間を反響しながら舞っているかのように鳴る。
3Dサウンドにすると音の鳴らし方を工夫するようで、全包囲から全域の音が聞こえてくるように調整される。
ビブラートを効かせるような伸ばすパートでは、高音域が車内全体で気持ちよく共鳴して響き渡るように鳴り響く。
意図的に高音域が響き合うように鳴らしてくれるので、歌の高音域を官能的に楽しめる。
僅かに開けたフロントのサイドウィンドウからサンルーフへ気持ちよく風が抜けていく中で、最高のドライブが可能だ。
この気持ちよさは同日に乗ったNDロードスターのRFにも引けを取っていない。
注意点として、独特なメルセデスの操作系には面倒なことがある。
ナビ音声が発動している際に音楽の音量を下げられなくなる
ナビが「1km先、左折です」という案内を喋っている際にステアリング左側の音量調整スライダーを操作しても、ナビの音量が変わるだけでカーオーディオの音量を操作することができなくなる。
信号待ちに向けて減速している際に発動したら恥ずかしい思いをしそうであるが、そんな場合はセンターコンソールのインフォディスプレイ右下の音量調整スライダーを使うと良いようだ。
ナビ音声が発動するたびにオーディオがぶった切られる
カーオーディオを流しているとき、案内のたびに音量が10分の1にされるという欠陥仕様があった。
これは本体設定のそれっぽい項目の中から、何かの設定をオフにしたら解決した。
なんだったのかは覚えていないが、設定メニューのオーディオ関連だろう。
警告が発せられるたびにオーディオが突然停止する
東京湾アクアラインを東京方面に走っていた際、「この先、事故多発地点です」だとか「この先、登り勾配のため渋滞に注意してください」といった安全警報が発動した。
それに伴ってカーオーディオが突然止まった。
運転中にこの表示が出ると、意識を逸らされながらポップアップを消して、再生ボタンを押して、復帰するために人によっては数秒間の脇見をすることになる。
おいメルセデス、事故を避けるための機能が事故の原因になっているぞ。
「ハイ、メルセデス」は切れる
いまの音声認識、それもMBUXなら使い勝手は悪くないだろうが、ちょっとでも車内で「メルセデス」というワードが出ただけで音声認識が勝手に作動するのは迷惑だろう。
ステアリング左側にショートカットボタンがあるし。
そんなときは本体設定から「ハイ、メルセデス」を切ることができる。
この機能が嫌いな人は覚えておこう。
二列目の居住性
先代の時点で充分な空間があったが、そこからさらに車体が大型化しているので何も不満はない。
相変わらずドアは90度近く開くため乗降性も良好で、シートにはクッション性もある。
諸元・価格・グレード・スペックなど
メルセデス・ベンツ Cクラス(W206型)全モデル一覧【日本仕様】
🚗 セダン(W206)
| グレード | エンジン構成 | 駆動方式 | 燃費(WLTC) | 価格(税込) |
|---|---|---|---|---|
| C180 アバンギャルド | 1.5L直4ターボ(170PS)+ISG | FR | 約14.4km/L | 5,990,000円 |
| C200 アバンギャルド | 1.5L直4ターボ(204PS)+ISG | FR | 約14.5km/L | 6,950,000円 |
| C200 4MATIC | 1.5L直4ターボ(204PS)+ISG | 4WD | 約14.3km/L | 7,270,000円 |
| C220d | 2.0L直4ディーゼル(200PS)+ISG | FR | 約18.5km/L | 7,090,000円 |
| C300e(PHEV) | 2.0L直4+モーター(313PS) | FR | 非公開 | 8,500,000円 |
| AMG C43 4MATIC | 2.0L直4ターボ(408PS)+ISG | 4WD | 非公開 | 9,980,000円 |
| AMG C63 S E PERFORMANCE | 2.0L直4ターボ(680PS)+モーター | 4WD | 非公開 | 15,000,000円 |
🚙 ステーションワゴン(S206)
| グレード | エンジン構成 | 駆動方式 | 燃費(WLTC) | 価格(税込) |
|---|---|---|---|---|
| C200 ステーションワゴン | 1.5L直4ターボ(204PS)+ISG | FR | 約14.2km/L | 7,150,000円 |
| C220d ステーションワゴン | 2.0L直4ディーゼル(200PS)+ISG | FR | 約18.2km/L | 7,290,000円 |
| AMG C43 ステーションワゴン | 2.0L直4ターボ(408PS)+ISG | 4WD | 非公開 | 10,180,000円 |
実走行インプレッション
取り回し
少し切るだけでグイッと旋回してくれるのと、車体が小さいので運転性は抜群にいい。
しかし操作系が独特すぎてテスラよりも乗りづらい。
アラウンドビューモニターが変な改変のせいで逆に役立たない問題
今回のCクラスはアラウンドビューモニターシステムを搭載しているが、変に独創性を出そうとしているせいで普通に見づらくて使いづらい。
レンタカーをかなり狭い駐車場の縁石に当てないように寄せる際、ほぼ役に立たなかった。
結局ドアを開けたり窓を開けて身を乗り出したり、降りて見に行ったりして収めた。
普通に真上からの視点をその大画面に出してくれと思う。
乗り心地
ちょっとのストロークだけで衝撃を打ち消す極上の乗り味。
先代ではC180を除いてエアサスを採用していたわけだが、この世代からはバネサス。
しかしサスペンションというのはこうするためにあるんですよと全人類に示しているかのようだ。

段差を越えるたびに足がちょっとストロークして、衝撃は打ち消されて入ってこない。
上下方向への後揺れも残らない。
どんな路面状態においても、フレームの上下方向への揺れの大きさと移動幅があらかじめ決まっている感じ。
路面がどれだけ波打っていようが、車体側は程よくふわふわと揺れるだけである。
後揺れの収まりが悪いということもない。
フレームの前のバンプラバーの部分が縮みながらすべての衝撃を消していくような設計。
ボディー自体は変わらず鬼のように頑丈で一切グシャらないが、その剛性感が表に出てくることはない。
日本車でTNGAが普及し、DNGAとなり、ダイハツのタントに乗りながらボディの頑丈さが感じられるようになって数年。107台目
いまさらボディ剛性をアピールする間でもない。その次を見据えているといった感じだ。
ただ硬さを伴いつつバスっと抑えるのではなく、平然と路面の波を消すのだ。
パワートレイン
低回転域から非常に静かで滑らか。
スポーツカーっぽい変速フィールだった先代とは大きな違いである。

踏み込むと1.5リッターであることを忘れさせるほど元気いっぱいで、ディーゼルのように最大トルクが長いこと出続ける。
200馬力という数値に相応しい元気のいい加速をしていく。
キックダウンの応答も滑らか%リニアで、15%踏み出すごとに一段落下がる。といった具合にドカンと出ないように調律された。
ブレーキは少し踏み出すと途端にガタンと効き出してしまう。
ここにシフトダウンも加わってくるためもう一声欲しかったところだ。
エコモードでは走行中にニュートラルに入れてエンジンを切るという技も披露する。
必要に応じてエンジンはつなげるが、燃料は吹かない。
東京湾アクアラインを80km/hで走り、深夜の郊外の国道を60km/hちょいで流してエコドライブに徹してみたが、ここまでやっても燃費はリッター15km出たか出なかったか程度。
トヨタなら余裕でリッター30~33kmくらい出せた状況だったと考えると、燃費性能については不満を感じる。
ディーゼルと違って燃料代の安さという恩恵もない。
ハンドリング
自分で荷重コントロールをしながら乗り物の動きを感じながら曲がっていくというスポーツ系の乗り味からは離れた、素のお金持ちな叔父様の乗り物といった味付けとなっている。
切り始めは完全にコンフォートに振っており、切ったら切ったぶんだけ、穏やかにノーズが入っていく。
ハンドルも軽くフロントの動きも軽い。
ハンドルを切るとその動きが全てノーズの旋回となって現れるが、その動きはすべてが穏やか。

ハンドルを切っていく量に対して、車の旋回方向への動き方は常に一様だ。
ハンドルを回す勢いに対する応答はダルめ。
強めにハンドルを切っても、クルマが本格的な旋回体制に入るのはだいぶ後になっている。
あえてゆったりとさせている。
しかし、そのコーナリングの限界は果てしなく高い。
しっかりとヨコ方向への負荷を掛けてコーナリングさせると、旋回中は前でグワっと入りつつ、後ろを追従させていくFRらしい動きとなる。
しかし全体的に過激さが抑えられており、安定感が大きく増している。
横G自体は結構出ても、クルマの動きは終始穏やかで落ち着いているのだ。
クルマを操っている感は希薄だが、素のシャシー性能の高さは垣間見ることができる。
素晴らしい素性を持ちながら、その手の演出やアピールはAMGラインに任せて完全に息を潜めている。
超高速域
静かで速い。平然と160km/hで走れる。
他のドイツ車は「いま凄いことしてますよ」感を出しながらスピードを出すが、この車は「速度計?ああ、いま166って書いてますがそれが何か?」というレベル。

足回りはストロークさせた末に抑え込む。
強い段差を超えた後は車体を上下に動かして、一回の大きい山をドンっと打ち付けるのではなく、数回の細やかな上下への往復の過程で衝撃を打ち消していく。
これによりドンっと飛び跳ねるような動きが出ないため乗り心地が良い。
タイヤが路面から離れるようなこともないため安定性も担保される。
ハンドルはスポーツモードがおすすめ。
コンフォートモードだと軽く動かすだけで車体が揺れ動いてしまうため、旋回方向にフラフラしそうな感覚がある。
直進感も希薄であり、安心して走りたいなら街乗りでもずーっとスポーツモードで良いだろう。
本車のハンドルはセンターでドッシリという感じではないが、高い直進性を維持している。
少し切るとじわーっと曲がっていき、大きく切るとグッと動く。
まとめ
先進的であることは優れていることを意味しない。
操作系が独特過ぎた…
12時間借りて慣れることはできたが、操作の大半が微細なスワイプやカッチリ感のない入力。
このクルマに乗る限り、最後の最後まで使いづらさを感じることになりそうだ。
しかし平然と揺れと衝撃を打ち消していく足回りやゆったりとしたハンドリング、優れた音響空間やアンビエントライティングとナビシステムが織りなす先進的な車内空間には唯一無二の世界が展開される。
一晩だけ、”わ”ナンバーのレンタカーではあるが、このベンツの世界を味わえたことは本当に良い体験であった。
この12時間のライドののためにレンタカー台で2万円、その他の諸経費を含めると4~5万円の出費となったが、その体験価値はあったと思う。
利益なんて残したって税金で毟り取られるだけなのだから、今後も命と資産を燃やしていろいろなクルマに乗っていきたいと感じた。
不満なポイント(short動画用)
ーーshort動画用
⚪︎ミスって走行中にニュートラル
ーーークールなところ
⚪︎パワーウィンドウがナイス
⚪︎2列目はドアの角度が行くのでサイズの割に乗り降りがしやすい
ドアのバンっと閉まるところ
シャキシャキしたハンドリング
ーーーうざいところ
ナビの拡大縮小が逆
タッチ非対応
地図からの目的地設定
先読み
次のトラックボタンがない
↑慣れ問題ではある
クルコン追突
渾身の力で踏まないとブレーキホールドが作動しないことがある
Dに入らないことがある。