【アリア】俊足と快適の素晴らしきマシンだが売れない#135台目

「良いモノが正当に評価されて売れているモノであるとは限らない」のは世の常であるが、日産アリアはその象徴とも言えるようなクルマだ。

B6のFFという最廉価バージョンであるが、

冒頭のまとめ

ただ、街中を優雅に流すだけの車だと思っているなら大間違いだ。

ハンドリングはスムーズで幅も1850mmに収まるためヒラヒラと峠道を駆け抜けていくことが可能で、スポーツカーに肩を並べるレベルで素晴らしい運転フィーリングを持つ。

最も遅いグレードでも必要充分に気持ちの良い加速力で、乗り心地や運転支援システムも充分。

しかし地味なデザインのせいだろうか、評価の土俵にすら上がっていない。

外観

上品でシンプルなデザイン。

空気を味方に付けながら前から後ろまで優雅に流れていく。

上品で良いのだが、アルファードやアウトランダーみたいな装飾のあるクルマのほうが数としては売れている事実を踏まえると商業的にはどうなのだろうか…

商業的にどうこうと言いまくると、オラオラ顔のクルマであふれてしまう気がしないでもないが。

不評なVモーショングリルに侵されてないのは悪くないが。

後ろ姿も綺麗にまとまっている。

内装

宇宙船のようなインテリアだが、見かけのスッキリ感と近未来感のために使い勝手をドブに捨てている

ショールームでのアピールが最優先で、人間が操作することをあんまり考えていない印象だ。

ウィンカーも電子式になっており、解除するためには反対側への半クラッチ入力が必要。

ステアリングボタンはぐにゃぐにゃのプラスチック。

操作はしやすいが操作感に高級感はない。

右側に自動オーバーテイクのボタンが付いているのが特徴的。

日産のレーンキープは優秀で、ほとんど自動運転として使えるのが魅力である。

「ハプティック」なんていうカッコつけた呼ばれ方をしているボタン群だが操作性は最悪だ。

押し込んだらその部分だけ凹む程度のもので走行中の操作は不可能なレベル。

エアコンの操作についてもやりづらくてしょうがない

走行中にたびたびエアコンの操作を行ったが、そのたびに意識を持って行かれて迷惑だった。

普通に危ない。

音声で「エアコンの温度を1.5℃上げて」という命令は出せるが…

左右に木目のようなデコボコした素材を配置して家具のような質感を目指しているが、実物はフェイクウッド感がある。

細かい設定は画面内から行う。

ハザードは傾けられた上に奥側へと倒されて配置されているから認識も操作も少々しづらい。

物理的にも遠い。

マツダ車を真似たスッキリ感のある面を演出しようとしたのだろうが…

ナビシステムは従来の日産車とほぼ共用。

オーラなんかでもよく見るタイプであまり革新的な感じがしない。

操作に対しても微妙にラグる感じがあり、古典的なシステムが入っている印象を受ける。

内装の素材についても、目に見えるところはレザーを配しているが、高級SUVと呼ぶにはもう一声欲しいと感じる。

EVならではの車内空間の演出は良い感じであるが。

サンルーフは内側にサンシェードもついており、屋根を開けることもシェードを閉じて断熱することも可能。

あければ気持ちよく車内を風が抜けてく。夏に使うには暑いけど、とてもありがたい装備だ。

静粛性とオーディオ

静粛性はこの手の車の中ではかなり高い方である。

外の世界の音があまりにも入ってこない

静かさのレベルが違うなと思うほどの静粛性を持っており、床下からのゴーというノイズはあまり入ってこない。

日産といえばBOSEのサウンドシステム。アリアにも素晴らしいものが載っている。

安定して高クオリティな音楽を奏でてくれる。

低音がしっかりと下からブーストをかける。

音量を上げても高音域に音割れ感が出ることもなく、綺麗に音が鳴る。

色々な方向から音を飛ばすように、車内空間全体を使って綺麗に響かせているため最高の音響空間となっている。

純正オーディオでコレが手に入るのは素晴らしい。

実走行インプレッション

取り回し

意外とデカすぎないコンパクトなサイズで小回り性も良い感じなので、駐車で苦労することはない。

車幅もテスラのモデル3と同一の1850mmに収まっているため、細い道でもあんまり苦労することがない。

この手のサイズ感のSUVとしては非常にコンパクトで乗りやすい方だと思う。

乗りづらさを感じたら、シートの座面を上げてみよう。

ナビ画面右側の「camera」ボタンでいつでもアラウンドビューカメラが出せることも覚えておこう。

パワートレイン

私が乗ったのはB6のFFモデル。最も遅いアリアだ。

1920kgに対して218馬力/300Nm。

一般的には200馬力もあれば充分だが、EVにおける200馬力は遅い寄りの平凡な数値だ。

刺激的な鋭い加速を演出するなら300馬力近くは最低でも欲しい。

グレードバッテリー容量駆動方式最高出力最大トルク車重(kg)
B6 2WD66kWhFWD160kW(218ps)300Nm約1,920
B9 2WD91kWhFWD178kW(242ps)300Nm約2,020
B6 e-4ORCE66kWhAWD250kW(340ps)560Nm約2,120
B9 e-4ORCE91kWhAWD290kW(394ps)600Nm約2,240
◆ 日産アリア グレード別 パワー比較表

とはいってもこの手のSUVの中では加速力はかなりのもの。

軽やかで気持ちの良い加速が続く。

120km/hを越えてもほとんど加速感が衰えないため、空いている高速道路を飛ばすのが楽しい。

乗り心地

この手のSUVはゴツゴツした乗り味を持つクルマが多いが、アリアはちゃんと良い。

価格にふさわしい高級感があるもので、がっちりしたボディーや静粛性の高い車内空間。

ある程度のストロークでコトンと揺れを抑え込んでくれる。

あまり揺さぶられない系の乗り味。

たっぷりとアシをストロークさせようという感じではないのだが、不快な衝撃も入ってこない。

あまり動かさないことで安心感があり、安定性ともしっかり両立できている。

ハンドリング・ドライバビリティ

想像の倍は高いコーンリング性能であった。

まずステア比がクイックで、一回切れ込むだけで市街地の左折もスパッと気持ちよく決まる。

腰高感やグラつきが一切なく、ハンドル切ったらスパッと姿勢が収束してインへと吹っ飛んでいく。

そしてタイヤグリップを強引に使っていくことが可能だ。

その頼もしさは自由自在に舞える翼を手に入れたような気分だった。

ハンドルを少し切るだけで、車体が全く傾かずに俊敏にインへと向かうのだ。

車重的につらそうな急カーブも、タイヤグリップと優秀なシャシーで軽やかに曲がって行く。

強い加速力や車重によるタイヤ負荷は、瞬間的にタイヤをキュっと鳴らすほど。

ダウンヒルでも辛さは感じなかった。

ハンドル操作に対するシャープな応答性がとにかく最高。

ボディーもガッチリとしておりタイヤも頼もしいグリップを発揮。

モーターも充分なパワーがある。

走りの動的質感は素晴らしい。

2トンの車重を持ちつつも、ウネウネした峠道をヒュンヒュンと疾走することができる。

超高速域

超高速走行時にはクイックなステアリング比が安定感を削いでいると感じるところがある。

クイックすぎて、少しハンドルを揺さぶるだけで大きく車の向きが変わってしまう。

乗り物の直進性自体は優秀だが、これだけフラッフラ旋回方向に動いてしまうとちょっと落ち着かない。

直進感を優先するアウディと旋回性を優先するBMWのような二律背反がある要素なので、旋回に振ったということでこれはこれで問題ないと思う。

大抵のユーザーはレーンキープを使うだろうし。

しかし、このクイック感のあるステアをニスモでもない通常モデルに持たせるには過剰なのではないかと少し感じた。

段差で飛び上がった際も程よく足周りが伸びて、地面をキャッチしに行ってくれる。

足回りは乗り心地のみならず、路面追従性の担保にも役立っている印象だ。

この優秀なダンパーの支えがあるから、路面が荒れていたり車体が跳ねたりしても暴れない。

スピードを出した際の風切りは少々大きめ。

しかし風の乱気流に引っ張られる感じは全然ない。

外から見ても実際の運転フィールとしても、空力はちゃんとしている。

諸元・価格・グレードなど

新車価格約650万円のB6である。最廉価グレードだ。

B6は1920kgに対して218馬力/300Nmだ。

まとめ・なぜ売れないのか

物凄く良い車で非常に満足度が高い一台だった。

内装の操作系や細かいところの質感を除けば乗ってきた車の中でもトップクラス。

しかし地味な優等生という感じだろうか。

パッと分かるような光輝くものが特にないのだ。

アルファードみたいな高級感や圧倒的な車内空間や、アウトランダーやスバルのような悪路走破性も、テスラのようなハイパフォーマンスSUVのイメージもなく。

全ての性能が高いのだが、器用貧乏というか、いまいち宣伝のポイントがないというか。

世間からの認知もほとんどない。

良い車なのに評価される状態にないというのが個人的には残念でならない。

弱点と言う弱点も個人的には感じないんだが….

日産のテクノロジーがあって、快適性があって、心が踊るようなパフォーマンスがあって、高級SUVが乗りやすいサイズ感で乗れて素晴らしい音響があって

この価格帯のEVとして、かなりレベルの高いものを出してくれてるんだけど、みんながこの車を知らないのは残念でならない。

クルマをただ作って宣伝するだけで、体験する環境を設けないという自動車メーカーたちの体制にも問題があるだろう。

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