新車販売ランキングに名を連ねるスペーシア。
一世代前ではあるが、アウトドアテイストで流行に乗る”ギア”の方を借りて乗ってきた。
ただの安物軽自動車なのかと思いきや、目に見えぬ走りの部分も意外なほどしっかりと作り込んであった。
冒頭のまとめ
乗ってすぐの印象は「スカスカな安いクルマ」であるのだが、走り込んでいくうちに意外と奥深いことに気づく。
ロール量自体は大きいが、イン側のタイヤグリップもコーナリングに参加させるような粘りある足回りはホンダのCR-Zを彷彿とさせる。
乗り心地としてもダンパーがしっかりと仕事をしており乗用車的。
ノンターボでは絶望的に加速が遅いが、マイルドハイブリッドの恩恵あってか燃費は異様に良い。
また空気抵抗には勝てないが意外と横風にも強く、直進安定性や静粛性も必要充分。
車内の使い勝手が良いことも言うまでもない。
安いクルマではあるが、ただの安物と片付けるには勿体ない一台だった。
外観
親しみやすいカワイイデザインと、オフロードカーのようなワイルドさを融合させた俊逸なデザイン。

相反する2つの要素をマッチングさせるという偉業が成し遂げられている。
タントのような箱型のハイトボディーだが、角はしっかりと丸められている。
ノンターボのエンジンでは110km/hの空気抵抗には勝てないが、風に振られる感触は車格の割には小さい。

背の高さをアピールするような位置に付いたテールランプだが、縦長感・腰高感・横転しそう感に繋がっている印象もある。

現行型では搭載位置を下げて幅を広げた、安心感が出るような立ち姿となった。

他の2代目スペーシア。
同じクルマとは思えないほどキャラクターが違う。



予想通りリアサスはトーションビーム。
ダンパーはちゃんとストロークするし、コーナリング中にはイン側のタイヤグリップも活かされるが、基本的な乗り味としてはスカスカだ。

内装
新車価格は160~180万円ほどであったらしい。
装備や質感、使い勝手は良好だ。


エアコンも物理。少し奥まって位置にはあるが、走行中の操作にもそこまでストレスはない。

ストレート式シフトは明確な節度感があるため入れ間違いも無さそうだ。
Dレンジ、Lレンジ、Sボタン、パワーモード(ステアリングの右指エリア)の4つがあるため少々ややこしい。

軽いエンブレが欲しい時はシフトノブのSボタン、山道の登りや合流前はパワーモード、1速で下りたいレベルの坂ではLレンジといったところか。
助手席側の収納は上下に中央と玉手箱のように開く。エアバッグはどこにあるのだろうか。

カップホルダーは両脇のみ。この位置は空調で冷やしたり暖めたりできるが、わずかに遠いため走行中に取るのが面倒くさい。

追従式クルコンと車線逸脱防止機能付き。かなり恵まれている。

ISGシステムも搭載。このおかげかゆったり走っている際の燃費がやけに良い。

2代目と3代目の見ため、似すぎ問題
こっちが現行型の3代目スペーシアだ。

↓2世代目。

言われてみると確かに違う。

ちなみに公式サイトの諸元表・装備表を見て見たところ、ブレーキホールド付き電動パーキングが備わっていた。
私が乗った個体はただの足踏み式サイドブレーキだったが、3代目になるタイミングでアップグレードが入ったらしい。
このスペーシアギア、2代目と3代目の見た目が似すぎており、私は乗り終わるまで自分の個体が2代目だと気づかなかった。
静粛性とオーディオ
意外と良好である。
程よく聞くだけなら低音も響いて来るし音の鮮明さも十分。
しかし音量上げると一気にスピーカーのパワー不足感が顔を出す。
音割れ気味な聞き心地となり、音が潰れてしまう。
軽自動車の純正スピーカーとしては必要充分だろう。
実走行インプレッション
パッと乗ると安っぽい印象を受けるが、乗っていくうちに意外と奥深い世界があることに気づかされる。
安物の街乗り車だからと妥協せずに作り込んでいることが感じられるぞ。
取り回し
軽ハイトワゴンということで、小さい箱を高いところから見下ろすような運転姿勢となる。
つまりむちゃくちゃ運転がしやすいということだ。
オプションでアラウンドビューモニターを付けられるそうだが、無くても何も問題ない。
ちなみに驚くことに追従式クルコンや車線逸脱予防システムも搭載されている。
車内で快適に休める環境を構築できれば、長距離も意外と行けるように見えた。
乗り心地
少し走った程度ではボディの軽さと剛性不足感、縦横比や全高の高さ、足回りのスカスカさなどが総合的に合わさった、「安物の軽トールワゴンってこんな感じだよね」というイメージ通りの乗り味という感想となる。
しかし意外とダンパーが効いていて乗用車的である。
マンホールにちょっと落ちた程度の軽い衝撃であれば、コトッとダンパーが動いただけで受け止めてくれる。
踏切を通過した際も、短時間で大量の刺激がガタガタとタイヤに入るわけだが、アシの部分で処理するためあんまり体が揺れない。
駐車場などの縁石から降りる際も「ゴシュッ」とダンパーを縮めてくれる。
安いなりに最低限のことをやっている印象だ。
眠気覚まし舗装も、ダンパーの上下で器用にいなすため車体に衝撃が来ない。
しかし穴ボコに落ちるような衝撃を受けると、ボディの箱全体がガタンと斜めに傾くように揺れる。
高速道路における飛び上がるような入力では、底着きした後の飛び上がりもだいぶ抑え込んでいる印象。
全体的に乗り心地においてダンパーがしっかり仕事してくれてるから、その乗り心地は安物の動くだけのクルマではなく、ちゃんとした乗用車みたいだ。
ダンパーがちゃんとしてるだけで、こんなに車ってまともに見えるんだなぁと思わされる。
まとめると、細かく上下に動きすぎている印象はあり減衰がダルく、強い衝撃を受けた際は傾き方向にも大きく揺さぶられてしまうが、全体的にダンパーがしっかりと仕事しているので乗用車的な乗り心地を感じられる。
元々の期待値が高くないセグメントだけに、私の実車の印象はかなり良かった。
ハンドリング
ご年配の方向けの穏やかな特性かと思いきや、少しでも急にハンドルを揺さぶるとガタッとフラついてしまう。
適当にハンドルを切ることが許されない印象だ。
ステアリングレシオも穏やか気味で、旋回ではハンドルを回しても遅れる感が強い。
そのまま穏やかに終始遅れ気味に曲がるのかと思いきや、その先にオイシイ領域が隠れている。
車の姿勢自体はスポーティーコーナリングを拒否するような安定性最重視アンダーだが、タイヤに適切な負荷を掛けながら、穏やかに攻め立てていくと世界が変わる。
タイヤが悲鳴を「カーッ」と上げ始めるのを感じながら、小柄さ。四輪が仕事する粘りのある旋回姿勢などを活かしてハイペースで曲がれるのだ。この限界値は結構高い。
乗り方で変わるもんなんだなぁと思わされる。
急ハンドルを切ると大きく傾くが、その先で姿勢はしっかりと安定する。
浮き上がりがちなリアのイン側も設地させ、四輪で落ち着いて穏やかに動いていくため。
意外と安定性もコントロール性も高い。
パッと見では安く作っているように見えて、大事なところはしっかり詰めていることが証明された。
ステアリングレシオは少々ゆったりめだが、リニアに旋回へと移行してくれる。
おばあちゃん向けの穏やかな曲がりだが、四輪のタイヤグリップと足回りの伸び縮みをしっかりと体感できる。
スカスカノッポなイメージからは、想像できない動きだった。
パワートレイン
ノンターボモデルは絶望的に遅い。
「ノンターボの軽ってこんなにも遅かったか!?」と思うほど遅い。
ストロークが短いためすぐにベタ踏みになるアクセルペダルや、右の親指でパッと押せるパワーモード、すぐ高回転まで上げるCVTの特性などの調整でなんとか走れるといったところ。
そのぶんとマイルドハイブリッドとの組み合わせにより、穏やかに流している際の燃費性能は異様に良い。
ノンターボにおける高速道路
この投影面積とノンターボの馬力では空気抵抗に勝てないようだ。
110km/hあたりがいっぱいいっぱい。
HUDにタコメーターが出せるのだが、常時5000回転以上でブン回さないと100km/h以上を維持するのは不可能。
上り坂では踏んでも踏んでも車速が上がらない。
経済性やエンジンへの負荷的にも終わっている走行状態なので、ノンターボ車なら高速道路は大人しく70km/h台で左レーンを走ろう。
私はテストのためにあえて踏み込んだが、意外と走行特性は良かった。
箱型のハイトボディーだが、角が丸められているおかげなのか風の影響は小さく感じた。
ハンドルを動かした際のフラつき感は大きいが、充分に集中して直進優先で握ってる限りは特に問題がない。
その速度域で高速道路の段差を超えても、怖いような動きは出なかった。
アシは大きく伸びてくれるし不快な乗り心地もないが、減衰がダルめで上下への後揺れが残りがち。
まとめ・メモ
ちょっと乗った印象は「安くてスカスカ」だが、走っていると「意外としっかりしてるじゃないか!」という評価に変わる。
パワーが無いエンジンはベタ踏みすればギリギリ周りに邪魔にならない程度の加速しかできない。
やけに投影面積が大きい箱型のボディがもたらす110km/hの空気抵抗にも勝てない。
「ゆったり流そうよ」と車から促されるようだ。
不満点
hUDの操作が初見じゃ分からん
パワーモードSレンジLレンジや、車線逸脱など操作系が散りがち