フェイスリフト後のアルファロメオ・ジュリアのヴェローチェに試乗する機会を奇跡的に得た。
BMWの3シリーズ、メルセデスのCクラスと車格的には同じだが、シャシーの切れ味はドイツ陣営とは一線を画す。
BMW MやAMGクラスのシャシーを400~600万円台で味わえてしまうのだ。
冒頭のまとめ
僅かな”間”で快適性や路面への追従性を出しつつも、シャキっと動きを抑え込んだシャープな乗り味は同格の欧州セダンとは次元違いの乗り味だ。
僅かなストロークで快適性を出しつつもバスっと安定させる足回りは乗り物の動きや路面状況をこの上なく高い解像度でダイレクトに伝えてくる。
FRらしくスパッと切れ込んでいく気持ちの良いハンドリングや数値以上に元気よく加速していくエンジンも刺激的。
快適性を損なわずに本格派スポーツを楽しめてしまう。
惚れ惚れするほど素晴らしい走り心地だが、乗り手に伝える情報量が数倍多いためであろうか、他の車よりも数倍疲れやすい印象だ。
どの速度域でも超本格派のシャシーや高水準の足回り、快適性とスポーツ性が両立されたクルマを求める人にはうってつけ。
内外装・デザイン
ここまで赤色が鮮烈に似合うセダンというのも相当珍しいだろう。
基本的にこの手の車の赤色というのはリセールが致命的に悪化するものだが、ジュリアにおいては「赤が安い」なんてことはない。むしろ赤を指名して乗りたいクルマだ。
このデザインは相当カッコイイと思うが、個人の主観である。ダサいと思ったのならそれも間違いではない。
フェイスリフトを受けてクッキリとした顔つきとなった。

後ろ姿もクールだ。

外観もサイズ感もドイツ御三家に似ているが、内装はもっと近い。

どことなくフェラーリっぽい雰囲気のあった他車種の内装から一転して変わり、BMWの3シリーズに正面から殴り込みをかけているようだ。

ドイツ陣営のエアコンは初見で一瞬戸惑うことがあるが、こちらは非常に分かりやすい。

メーターもフル液晶となったが、ナビ案内中にタコメーターがかき消される。
またディスプレイに出しておける情報も少なめ。

後期型になってディスプレイがタッチにも対応するようになったが、搭載されているチップがポンコツなのだろう。
クルマの速さの割にはナビシステムが遅い。
タッチなどのすべての動作はワンテンポ遅れるし、ナビのルート検索も異様に長い。
2000年代前半のメルセデス・ベンツと同レベルの遅さ。

エンジンを始動してもなぜか画面がブラックアウトする。起動が遅いだけなのか…

またマツダ・BMWと同様に手元のダイヤルで操作が可能なのだが、戻るボタンやMAPボタンなどが存在しないため使い勝手が悪い。

右側の丸ダイヤルで走行モード、左側のダイヤルでオーディオを操作する。
電動パーキングブレーキだがなぜかブレーキホールドがない。
細かいところが微妙に使いづらい印象を受ける。
あのアルファロメオに、現代水準の装備と信頼性が乗っかっただけマシと考えるか…
静粛性とオーディオ
フロアの遮音がしっかり行われているようで、静粛性はクラスを跳び越すほど高い。
(とはいっても新車価格600万円級だが。)
静かすぎてエンジン音があまり聞こえてこないのが不満になるレベルだ。
カーオーディオにはハーマンカードンを搭載。
相変わらずクリアな音だが、他車種ほど高音の反響や音の大きさは感じづらい印象だ。
BYDのような、鮮明な高音を大音量で響かせて感動させる系とは少し違うが、美しい音が楽しめるぞ。
二列目の居住性
普通に快適に座れる。全長のわりに乗降性も悪くないが、二列目中央のセンタートンネルが座面とほぼ同じ高さまで盛り上がっているため実質4人乗りだ。
実走行インプレッション
取り回し
幅が1860mmに収まっているコンパクトセダンということで、狭いところでもスイスイ入っていける。

アラウンドビューモニターは非搭載でソナーもアテにはならないが、慣れたドライバーなら身体感覚だけで狭いところにもスイスイ入っていけるぞ。
しかし、1800~1840mm程度の幅しかなかったF型の3シリーズやW205型のCクラスと比べるとほんの一口だけ大きい。
幅の狭さが求められる場面では、ほんの少しだけ取り回しが悪化しているのを感じる。
最小旋回半径も5.8メートル。乗っていて気になるほどではないが…
パワートレイン
ヴェローチェは280馬力あるのだが、運転していて「これ本当に280馬力ある??200馬力なんじゃね?」と思ってしまった…
しかし調べてみると確かにヴェローチェグレードは280馬力だ。
それなのに、踏んでいった際の加速感はドイツ陣営の184馬力とあまり変わらない。

実際問題、本車の最大トルクは400Nm程度。
踏み始めの低回転域から最大トルクが出続けるという回り方はドイツ陣営と同じ。トルクの数値も同じ。
加速感が大差ないように感じるのも仕方ない。
レンタカーなので試せなかったが、160km/hあたりから上の空気の壁を切り裂いて加速していく力に違いが出るのだろうか…
踏み続けてもシャープに速度が乗り続けるが、常識的に走っている程度では280馬力という数値ほどのインパクトは感じない。
同じくらいのスペックでも、現行型のWRX S4のほうがよっぽど恐ろしく速く感じた。

エンジン音についても2L直4では大した特別感がない。
ジェレミー・クラークソンが「アルファロメオを所有しないとガソリン車の本当の喜びは分からない」という旨の発言をしていたが、個人的には「?」という印象だった。
このあたりを求めるならクアドリフォリオを買わないとダメそうだ。
8速ATは各ギアの守備範囲が狭めで、マニュアルモードなら自動シフトアップもしない。
そのためすぐにレッドゾーンに当たってしまう。
しかしワイドなギア比のクルマだと「2速でレッドゾーンまで踏んだらもう130km/h」という事態になりがちなので、回す楽しみがあるという点でこちらのほうが良いだろう。
ちなみに燃費性能は普通に悪く、リッター10km/hも出せないレベルだが、エコモードでアクセルを抜くと走行中にニュートラルに入れてくれる。
この状態での空走力は結構高いため、上手いこと使いこなせばかなり燃費を稼ぐことができる。
先の道路状況をしっかり見る必要があるぞ。
乗り心地
このレベルで走りに振ったクルマでここまでの快適性が出るのは奇跡的なバランスだ。
快適性・安定性・旋回性、これらすべてが完璧と言えるレベルで両立されている。
ジュリアの足回りをセットした人は只者ではない。
基本的に走行安定性と走りのシャキシャキ感を出すためのセットアップとなっているが、足回りの動きも本物だ。
少しのストロークでバスっと揺れを抑え込むのだが、ダンパーが縮められるたびにシャシー性能の高さを突き付けられるものとなっている。
飛び上がるように段差を越えた後も、ほどよくアシを伸ばしてくれる追従性がある。
走行安定性が非常に高いことは言うまでもないが、快適性との両立が高い次元で両立されていることが注目点である。
可変ダンパーが標準装備されており、スポーツモードに入れると自動で減衰を締めてくれる。
スポーツモードになるとかなり硬派な乗り味となるが、乗り心地が悪いというわけではなく、あくまで揺れを打ち消していく強さが大きくなるといったもの。
ゴツゴツとするが、それでも不快な突き上げや衝撃は抑えられる。
ただダンパーが縮められる程度でシャシー性能の高さが味わえるため、無理にオービスが光るような速度でカッ飛ばさなくても、車を楽しめる点が嬉しい。
私は普段プリウスPHV GRに乗っているが、どんなクルマに乗った帰りも「このプリウスで不満ないんだよなぁ…」と感じてきた。
しかしジュリアの安定性・快適性を味わった後、「上下方向への動きが大きすぎる」「減衰がダルすぎてフワフワした動きが出がち」という不満が慢性的に出ている。
ちょっと路面が荒れた田んぼ道を走っている際も、高速道路の段差を越えた後も。
無数の優秀なクルマに乗ってきたが、自分のクルマに不満が出るほどの完成度は初めて味わった。
それだけの完成度を誇る乗り心地に感動しすぎたせいか、東京を出てから箱根ターンパイクに辿り着く前の段階で疲れ果ててしまった。
これは乗り物が疲れやすいという意味ではなく、シャシーの動きの解像度が高すぎて脳が情報処理に疲れたという印象だ。
ただ周りに合わせてダラダラ走っていても、意識をシャシーに向けると「この車が何のために生まれてきたか知れ」「ただ周りに流して走っている程度でダラけるな」という乗り物からの声が聞こえてくるようだ。
ハンドリング
暴れ馬のようなクセがありそうに感じるが、イメージに反して実物の動きは素直でシンプルだ。
ハンドルの切り始めの領域には遊びが持たされており、動き出しは比較的穏やか。
「ハンドリングがシャープだ」という意見をネットで見たが、個人的には特筆するほどのものを感じない。
一回転でロックするステアリングと、直4の重量配分でスムーズに曲げている程度。
ハンドルを動かした瞬間に車体が反応する現行型のWRX S4のほうがよっぽどシャープに感じるレベルだ。
ゆったり流す際の快適性と荷重移動を作るための”間”が持たされているが、動きの収束は速い。
いざ旋回姿勢に入ると、頑丈なシャシーと重量配分、コンパクトな車体を活かして切れ込んでいく。

乗り手がヘタクソな急ハンドル操作を行っても危なくならないように配慮してくれているのか、曲がり始めで足回りを安定方向に捩じっている印象がある。
それゆえBMWのような危険な姿勢変化も起きづらく、高い安定感の中で意外と穏やかに曲がって行ける印象だ。
硬めな足回りの弊害で段差を越えた際に暴れ気味になるが、持たされているストロークで多少はいなしていってくれる懐の深さがある。
しかし高速コーナリング時は、インに曲がって行こうとするフロントと、前に進んでいこうとするリア。
この前後が別々の方向に行こうとするという動きが不安定感・フワフワ感をもたらす。
FRのクルマでよく出てくる動きだ。
ハンドルを切りすぎないようにするなり、意識して強めにアクセルを踏んで遠心力を上げて釣り合わせるなり、乗り方の工夫が求められる。
ジュリアという車は、ちょっと飛ばす程度の公道のコーナリングでもタイヤマネジメントの研究ができるという意味でもある。
価格・グレード・諸元など
フェイスリフト後の後期モデルだ。
大きな変更点・見分け方としてはヘッドライトが変わったり、ナビシステムがタッチ対応になったり、液晶メーターになったりしている。

| 新車価格 | 679万円 |
|---|---|
| 型式 | 3AA-95220P |
| 全長×全幅×全高 | 4,650mm × 1,860mm × 1,435mm |
| ホイールベース | 2,820mm |
| 車両重量 | 1,660kg |
| 駆動方式 | FR(Q2) |
| エンジン型式 | 55273822 |
| 排気量 | 1,995cc |
| エンジン種別 | 直列4気筒 直噴ターボ |
| 最高出力 | 280PS(206kW)/ 5,250rpm |
| 最大トルク | 400N・m(40.8kgf・m)/ 2,250rpm |
| トランスミッション | 8速AT |
| 使用燃料 | プレミアムガソリン |
| 燃料タンク容量 | 58L |
| 最小回転半径 | 5.8m |
| タイヤサイズ(前/後) | 225/40R19(前)/ 255/35R19(後) |
まとめ
乗る前は「BMWのM5を凌駕するほどシャシーにコストが掛かっているらしい、見た目がカッコいいセダン」程度にしか思っていなかった。
しかし実物は快適性と荷重移動を作るための”間”の取り方と動きの引き締め方が完璧で、ただそこらへんを走っているだけで本格派シャシーの実力を突き付けられるような人生観が変わる乗り味であった。
私にとって一番の車はずっとスープラであったが、この運転フィールはスープラを凌駕するレベルにある。
スープラと違ってこちらは4ドアセダンで、車内で快適に休むこともできる。
世間の評価と自分の感想の乖離をchatGPTに聞く
項目 あなたの評価 世間の一般的評価 乖離ポイント シャシー性能・乗り味 同価格帯では異次元の完成度。
BMW M/AMG級のレベルを味わえる。「確かに良いが、褒める人と普通と感じる人で分かれる」
「スポーティだがそこまで劇的ではない」という声も。あなたは“解像度の高さ・快適性の両立”を強く評価。
世間は「よくできてるが過大評価では?」という層も一定数存在。ハンドリング 「素直で穏やか。特筆するほどシャープではない」
「WRX S4のほうが鋭い」「クラストップ級の鋭さ」「FRスポーツセダンらしい俊敏さ」など、高評価が多い。 世間が“神ハンドリング”と持ち上げる領域を、あなたは冷静に評価。
ジュリアの切れ込みを『過度に誇張されている』と感じている。加速感(280PSの体感) 「200PS級にしか感じない」
「WRX S4のほうが圧倒的に速い」「スムーズで速い」「数字通りのパワー感」という声が多数。
ただし“パンチ不足”という意見も一定数。あなたは低中速トルクの体感をシビアに比較。
世間よりもかなり辛口で、280PSを体感的に否定。疲労感(情報量の多さ) 「路面情報が多すぎて数倍疲れる」 「快適」「ロングツーリング適性が高い」という意見も多い。 世間は“快適寄りスポーツ”と評価。
あなたは“情報量が多すぎて脳が疲れる”と分析し、ここは大きな乖離点。内装の質感・デザイン 「赤が最も似合う」「フェイスリフト後は3シリーズ狙い撃ち」 「デザインは良いが質感はドイツ車に劣る」が主流。 あなたは外装・内装の“情緒的価値”を高く評価。
世間は質感面でドイツ車に劣るとの意見が多く、温度差が大きい。インフォテインメント(ナビ・液晶) 「2000年代ベンツ並に遅い」「ブラックアウトする」
「戻るボタンなしで使いづらい」「操作系は旧態依然」「遅い」など、酷評が主流。 ここは世間と完全一致。
後期型でも“インフォテインメントだけは弱点”と広く言われている。静粛性 「クラスを超えて静か」 「意外と静か」「普通〜やや良い」という評価が多い。 あなたは遮音性を非常に高く評価。
世間では“静かだが突出ではない”という声もありややギャップ。乗り心地 「快適性・安定性・スポーツ性の両立が完璧」
「人生観が変わるレベル」「スポーティで固め」「快適性は平均〜良い」程度の評価が多い。 世間より圧倒的に高評価。
特に“動きの間と収束”に着目した評価はマニア層寄り。ステアリングフィール(遊び・応答性) 「遊びがあり穏やか」「特別鋭くはない」 「応答性が異常に鋭い」「FRらしい切れ味」という高評価。 最も大きな評価乖離のひとつ。
ほとんどの評論家が“俊敏”とする領域を、あなたは冷静に“普通”と判断。